第16話 土鍋づくりと雨宿り
少し、ボーとして、考えていたことを振り返る。さっき、毒を希釈して確かめると考えていたが希釈するための水は自前の水魔法で準備できるとして、水を入れる鍋や食べるものを置くための器を用意しないといけない。木はいまだ加工も切り倒すことも難しい。身体強化して蹴り倒すのは骨が折れそうだしできるか分からない。今あるものでできるとしたら縄文土器みたいな土器だろう。土魔法も使えるし試してみよう。
まず、どんな土器が必要か考える。水に入れる鍋は熱するから熱伝導率ができるだけいいほうがいいが金属ではなく土で作るので素材自体に要求はできないとして、薄い鍋が欲しい。薄ければ熱は通りやすいだろう。
作り方はどうしようか。土魔法にどれだけの土を出せる振り幅があるかによって変わってくる。土といってもいろいろあるからだ。自分が今欲しいのは成形がしやすい粘土質の土。出せるかな。ちょっとだけ試しに出してみよう。小さく"粘土"!と呟きながら泥団子ぐらいのサイズで出して感触を確かめてみる。うーん。もうちょっと柔らかいほうがいいかな。数個違う柔らかさの粘土を出してみる。それぞれ並べてみて握ったりして比べていく。
一番何となくだがしっくりくる3番目の粘土をチョイス。それを左手で握って感触を確かめながら、右手でその粘土を量産していく。陶芸みたいにくるくる回転すれば綺麗に効率的に成形できるのだがそんなものは無いので地道に
窯を作るなんてしんどいから、"耕起"の反対で土に干渉して魔法で土を硬くすることにしよう。まずは今作った"脱水"という名前の水魔法で土から余計な水分を抜き、"硬土"と名付けた魔法で土の密度を高め、硬くする。念入りにしっかりとぺたぺた触って"硬土"を内側からも外側からも作用させていく。最後に魔力を手の平から押し流して、鍋全体を覆ったところで魔力を伸ばして鍋から掌を離し、鍋を覆う魔力を火に変えて焼き固める。こうやって焼くの、結構制御のいい練習になる気がする。
魔力をすべて火に変え終わると、今度は水魔法で冷却する。十分冷えたところで手の甲で叩いてみると、ゴンゴンとこねていた時とは全く違う音がする。成功だ。
鍋ができて一息ついていると右頬にポツンと冷たい感触がする。雨かな。そう思った数秒後に今度は鼻先に水滴が当たる。急いで筋肉痛を無視して身体強化を全身にかけ、肩に肉を担いで木の実を入れた鍋を抱えつつ、迷宮の入り口に避難する。肉を下して鍋も置いて身体強化を解くと今より痛い朝の時の筋肉痛が再発し、体を横にして雨を見ながら休む。久しぶりに雨を見る感じがする。いつもはあまりじっと見ない雨の景色だけど、テレビもネットも漫画もない今では雨を見るだけでも十分娯楽になる。ただじっと見ているとまた寝落ちパターンなので横に大仏のように寝転がりながら魔力循環をしつつ、雨を見る。
この世界には、カタツムリやミミズはいるのだろうか。カブトムシの幼虫を食べるのはまだ大丈夫な自分でもさすがにカタツムリは食べようとは思わないがもう見ることができないのも寂しいので、できればこの世界にもカタツムリのようなものはいてほしいなあ。雨が降った次の日に通学路で大きな池を渡るときに何十匹もの、車に轢かれたカエルの変死体みたいなのとか、大量のミミズがアスファルトの上でカピカピなミイラ状態なのはあんまり見たくないけど。
ふと今の状況を見てみると、迷宮にこうやってすぐに避難できて雨宿りできたからよかったけど、もし近くに雨宿りできる場所が無かったら傘も無いしずぶ濡れになってしまうと思うがさすがに傘は作れない。あぁでも、まともに傘を作る必要はないのか。魔法で防げばいいんだ。今思いついたのは水と風だが、風だとずっと空気を動かさないといけないから持たないかも知れない。水なら一回作って、腕を雷に変えて形を保持したみたいに頭の上から魔力を伸ばして水に変えて円状に地面と水平に伸ばせば、水を受けることができるかもしれない。土だとなんか重そうだし、頭の上で火は嫌だ。今はわざわざ立って実験はやらないけど、また雨が降ったら試してみよう。だから今は雨が止むまで眺めていよう。
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