第12話 命を奪う
と、狩りに行くと言ってもすぐに狩る対象が見つかるわけじゃない。木の実を採りに行った時のように慎重に木に印をつけながら迷宮から離れていく。今目下のストレスは狩りの対象が見つからないことではなく、木に印をつけるのが大変なことだ。刃物が無いから木の皮を毟ったり地味に時間がかかって仕方がない。もっとも、あの青い木の魔力が漂ってくるところにいればそれを目指して帰ることができるのだが、まずあの魔力が漂ってくるところにいるのだろうか。分からない。まずはこの魔力が感じられる範囲内で狩りをしよう。
そう決めて15分ぐらいたった頃、がさっと音がした。この近くに何かいると不覚を取らないように身体強化を使って木に登り、幹に手を置き体を支えながら太い枝の上に立ち周囲全方位に何がいるかを息を殺しながら探る。
また音がしたのでそちらに目を向けると大きな2匹の猪がいた。1メートルほどの高さでこの世界は前生きていた世界とは違うんだなと実感する。不意打ちで殺すためにじっと観察していると、この猪たちは群れ、つまり家族であると分かった。自分は今から何の罪もない家族を殺すんだ。空腹を満たすために。生きるために。今、自分はこの手で殺すわけだけどもそれ自体には肯定も批判もしない。人を殺すにしても猪を殺すにしても殺すことに変わりない。殺すことが罪となるなら自分は罪を犯すのだろう。背負う気はないが。生きるために他の命を喰うことはこの世界では当たり前のことだ。そういう仕組みになって生き物の世界は回っている。それが嫌だろうが関係なく。自分はその中で命を頂くのだ。頂く?否、それも傲慢だ。奪うんだ。それでしか命は生きられない。そこの点に関してはみな平等に無力だ。自分がこうやって殺すことを批判するには、命を喰わずとも生きられるようになって不殺を貫いたときはじめてできるのかもしれない。でも、そんなこと不可能だし、人工肉を作られる様になったとしてもまずけりゃ殺してでも生き物の命を殺して食べるんだろう。結局自分は深いところでは傲慢なのかもしれない。単純に今から自分は命を奪うんだ。
自分の木の近くに猪が近づいてきたところで脚に身体強化をかけて木の枝を蹴り、上から猪に雷に変えた手を猪に押し付ける。手を水や火に変えたことはあるが、雷に変えたことは無い。だけど命を刈り取るときに一番効率がいいものと言えば断然雷だろう。木の上から猪をどう殺すか考えていたときに一番短時間で余計に苦しませずに殺したいと思い自然と手を雷に変えていた。どう苦しませずに殺すかを考えるかなんて、どうせ殺すのにそんなこと考えるのも傲慢じゃないかと一瞬思ったが、もう別に傲慢でいいし、苦しませたくないんだからいいじゃないかと自分自身に反論する。感電が怖いので手で猪1匹の命を絶った後、手に身体強化をかけて猪を台にして跳躍し、数秒後に地面に立つ。もう1匹の猪の怒り狂った悲しい眼をじっと見ながら身体強化をかけた脚で思いっきり前上方に跳躍し猪に
身体強化をかけた両腕で2匹の猪の死体を引きずって帰る。帰った後はあの青い木から近いところに置き、冷蔵庫もないのですぐに処理しようと皮を剥ぐ。身体強化をかけて手の異常な握力で強引に抉る。幸い体が柔らかくて剥ぐことはできた。剥いでいるときは今まで見たことが無かったグロデスクな光景を見たが自分が殺した命を粗末にする冒涜をするほうが嫌で弱音1つ浮かばずに無言で皮を剥いだ。血抜きをしないといけないことは一応知識として知っていたので両手を体の中に突っ込み両手で循環させた魔力で血だって水みたいなものだと血に干渉して体から血を抜く。ドバドバと体から血が溢れ、地面が血に染まっていく。2匹とも両方しっかりとやり、内臓もちぎって外に出す。早めに処理しないと腐る原因になるだろうからだ。内臓も全部摘出した後、"清浄"で血臭さも消える。さすがに二頭丸々は食べられないので1頭の食べられそうなところを身体強化をかけた手で分け、今食べない部分をどうしようかと考え、またまた初めて使う氷魔法で猪の体を覆いどれくらいもつか分からないが今すぐ腐らないようにして保存する。魔力を狩りで大量に消費したこともあって、脱力感が尋常じゃない。気を抜いたら一瞬で深い眠りに落ちそうで土俵際、崖の淵に立っているような状態で眠気を取るために落ち葉を拾い、右手の人差し指を火に変えて"着火"する。火が煌々と煌めく様を見てそこに肉を持っていく。裏返して焼けた部分に喰らいつく。
美味い。美味しい。塩も胡椒もないし、味には期待していなかったがいい意味で裏切られた。食べれば食べるほど体に力が満ち、食欲も増えていく。眠気はいつの間にか飛び、今までの空腹を満たすかのように貪った。
食べきれるかどうか分からなかったが食べようと分けた部分は加速度的に食べ尽くしてしまった。おそらくこの肉には魔力が含まれているのだろう。口に入れたばっかりで消化も全く済んでいないのに体に力が溢れるのはおそらくこの肉の魔力を食ったからか。それにしてもこの世界で初めて満腹になった気がする。辺りの飛び散ったままのちの処理を終え、座り込むと満腹感と脱力感で心地よく意識が飛んだ。
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