第10話 夜更かし魔法開発

 果物と木の実を適当に摘まみながら、何時間も魔素を纏いつづけ日が暮れて、心はぼうっとしててもある程度自然に魔素が纏えるようになったところでもう疲れた寝ようと横になろうと思ったが、複数点、気が付くことがあり体が硬すぎて前の自分ではかけなかった胡坐あぐらをかきつつ考える。


 まず、寝てるときに魔素は纏えないということだ。今後この迷宮や山を離れたり、旅をするとしたら必ず野宿が必要になる。野宿して寝ている間はどうしても無防備になってしまうことは避けられない。ここに住んでいる間はこんな異質な木が近くにあることである程度の安全は保たれているがここから離れてしまえばそれもおしまいだ。すぐに旅をすることはまだ考えてないが、ここから遠出して狩りをすることもあるかもしれない。もしかしたら日帰りできない場合もあるだろう。そんなとき、自分の身を守るものがないというのはあまりにも危険ではないかと。寝てる間でも危険を知らせたり敵を迎撃したり自分の身を守る手段が必要だ。


 次に、狩りの攻撃手段だ。水や風魔法での相手の殺し方は幾つか考えているがそれはどれも高度な制御を要する。火魔法は木々への延焼が怖い。制御も威力もまだまだの自分にでも相手への有効な攻撃手段が欲しい。身体強化もその1つだが、攻撃手段が1つだけというのはそれが効かない相手が現れたら最後、逃げられるか逃げられないかでいきなり命の危機に陥ってしまう。できれば遠隔の攻撃手段が欲しい。遠隔でできる攻撃、今考えたのは投擲と光魔法でのレーザー、雷魔法の感電、空間魔法か闇魔法の類の1つか分からないが、重力そのものを強くして圧潰、減速させるかなどだが、投擲は命中しないと意味がないし投擲するものを携帯していないと投擲できないという欠点がある。一回投擲したら倒せたら大丈夫かもしれないができなかったらただ喧嘩を売っただけになる。光魔法でのレーザーなどの魔法はこれまた制御が難しかったり、使用自体が難しそうな気もする。そもそも自分は空気中に遠隔で今まで魔法を放ったことがあまり無かった。"涙"、"耕起"は直接出したし、あの風魔法はそういえば名前つけていなかったな、"微風"にしとこう、これもそうだった。"常夜光"も"照道光"もそうだ。魔素を纏ったのだってそうだ。唯一"着火"がって思ったがこれまた手から出したんだった。手から火出すなんて火傷しそうだな。あのときはそんなこと何も考えずやってた。怖い怖い。火傷の跡はないが直接火を出してたら普通火傷するよな。なんで火傷していないんだろう。よし、怖いけどもう一回"着火"をやってみるか。何か掴めるかもしれない。


 あっつっ。1回できてたんだからできるだろうと内心たかをくくっていたが甘かった。普通に熱かった。なんであのときできたんだろう。謎だ。でも1回できたんだ。できない理由があるはずだ。うーーん。いろいろ考えてみる。1つ仮説が浮かんだ。それは、"体から魔力を余分に出していた"、だ。自分が魔法を発動させるとき、体の中にある魔力を体の外に出す瞬間に水や風に変えている。魔力を体の外に出すことで魔法発動用として分けるためだ。でもこの体の中の魔力と体の外に出した魔力は実際はつながっていて同じ1つのもののはずだ。ということは魔力の端の一部分だけを水や風、光に変換しているんだ。それが体の外でもできたら。体から魔力を変換せずにそのまま出し、出した魔力の先端だけを火に変える。いつもやっていることと同じはずだ。おっできるぞ。これなら肌に直接触れずに火が出せる。魔力でつながっているので完全に遠隔とは言えないがこれで自分の体から離れて魔法を発動できたことになる。


 この体の外に出した魔力、水やりの時はただ出すだけだったから特に考えなかったが、関節とか身体みたいな制限もなく曲げたりすることができる。複雑な形にしたり、量が増えるとしんどいが動かせる。これは結構すごいことだと思う。やればやるほど力になるんではなかろうか。


 一応仮説をもとに体から離れたところで魔法を発動できたが、初めて"着火"を使ったときにあれをたまたまやっていたのかどうかは分からない。他にも方法はあるのかもしれない。さっきの考察中に魔力を体の中から出して分けて発動させていたとか言っていたけど、魔力を身体強化に使ったように、体内で魔力を水や風に変えて使うことができるのではないか。体内の魔力を慣れている右手に溜めて循環させて水に変換しようかなとしたところで、今手に溜まっている魔力を水に変えたら手が気持ち悪く膨張してパンパンに腫れて破裂するんじゃないかと悍ましい想像が頭をよぎり、周囲に誰もいないのに焦りを隠すように無言で淡々と魔力をもとに戻して、また考える。


 自分の身体には魔力が満ち満ちているほどではないが存在している。魔力は水に変えられるが、化学反応の1つだが火にだって変えられる。しかし、風は。風は空気を生み出しているというよりかは空気を動かしている、もともと満ちている空気に干渉している訳だ。"耕起"だってそうだ。地面に手を触れてそこから干渉している。魔力は水やそのものに変えるだけでなく、何かに干渉してその状態を変えることだってできるんだ。なら、自分の身体を違うものに変えることだってできるのではないか。自分の右手にまた魔力を充填してこの手そのものを干渉して魔力を出している間だけ水に変える。勿論ただの水にしてしまったら地面に落ちて終わりという悲惨な結果になるだろうから水にするイメージを保持しつつ手の形ははそのままで操れるようにイメージする。指の先から徐々に手が侵食するように水に変わっていく。そのまんまだが"水手"のできあがりだ。ハハ、これでもう1つの火傷しない"着火"の発動方法が見つかった。掌の火を出す一部分だけを火に変えてそこから火を出す。絶対に魔力の消費を止めたら手が元に戻るというイメージは忘れずに。よし熱くない。これで肌から直接出しても熱くない"着火"ができた。.


 最初は狩りの攻撃手段が欲しいということで考えていたが途中から熱くない"着火"の仕方を考えることになり、いつの間にか狩りの攻撃手段とか忘れて夢中になっていた。だがそれでよかった。いろんな魔法の発動の仕方を発見した。これで攻撃手段なんて見取みどりだ。夜更かし特有のハイテンションと成功の喜びとで一時疲れを忘れてしまった。しかし、疲れている感覚は無くてもそれとは関係なく疲労は溜まり、魔力量の残量を綺麗サッパリ忘れ、忘れないように体に憶えこませるように繰り返し左手を火に変えたり、出した魔力の一部を風に変えたりとやっているうちに魔力量は簡単に底を尽き、気絶するように、まるでパソコンの強制シャットダウンかのように眠りに落ちた。

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