第9話 木の水やり開始と狩りの準備

 反省も終わり、黄色いが皮をむけば白い果物と赤い木の実をパクパク食べた後、これからの事を考える。

 

 この木、自分が迷宮に籠る原因にはなったが、魔物も除けてくれるし、さっきは助けられた。この木が無くてもあの大鷹からは逃げ切れたかもしれないが、走り疲れて動けなかったあの時、魔物に襲われることが無かったのはこの木のおかげだ。この木からしたら何もしてないかもしれないが感謝の念を覚える。よし、この木が喜ぶことをしよう。って、喜ぶことってなんだろう。木が喜ぶこと?水やり?水は水にしてもこの木、こんなに魔力出してて大丈夫なんだろうか。・・・水に魔力って混ぜられるだろうか。こんだけ魔力を出してて大丈夫かどうかは木のみぞ知るってやつだがやらないよりはましだろう。いつも魔力は水とか風とかに全部変えたりしていたが魔力そのまま出すことはそういえばやったことはない。やってみよう。


 掌を上に向けてにじみ出るように掌に溜めた魔力を出していく、その中に魔力をそのまま混ぜてみる。なかなかできない。魔力はそのままドバっと出てしまうし、水に変えることを意識したら全部水になってしまう。地味に難しいが集中して続ける。ハァ、中々できない。両手でそれぞれ水と魔力を分けて出してみよう。・・・これはこれでしんどい。というか両手でそれぞれ同時に違う字を書くような、独特の難しさがある。また出来るようになれたらという思いでやってみる。また、できない。どっちともできないのは嫌だから、しんどくなったら片手でやってみて、又疲れたら両手でやってみる。そもそも両手でやると、両手に魔力を溜めて、両手それぞれの量を調節しないといけないから片手のほうが楽かもしれない。否、どっちとも難しいか。続けているうちに少し疲れてしまったのでいったん休憩。ステータスを見てみると魔力量が半分くらいに減っている。総量も地味に増えていた。大の字になって横になる。なんか気持ちがいい。目をつむって周りの風の音に耳を澄ます。サァーと、風が吹く音が気持ちいい。何も考えず、背中が地面にしっかりと当たっている感触、風の音に意識を向け溺れるように感じる感覚に委ねる。とても落ち着いて穏やかな気持ちになっていく。


 いつのまにか寝ていたみたいだ。こんなに無警戒で寝るのはあんまり良くないかもしれないが、あんだけビビってしまったこの魔力が広がっているかと考えると何か安心してしまって気持ちよく寝られたようだ。後、あれほど苦労していたのにそれが徒労に思えてしまう案を思いついてしまった。まず左手の上に水を出す。その後右手で水がある左手をかぶせるように掌から魔力を出して下に落とし、あとは指で水と魔力をかき混ぜる。できてしまった。同時にせずに順番にやってしまえばそんなに難しくなかった。しかし掌の上で混ぜるので何分量が少ない。さすがに掌に載る分だけでは足りないだろう。何回か繰り返しこの作業を行い、木の根元に振り掛ける。うむ、やっぱり確実に成功するが、効率が悪いし水と魔力同時に出せたほうがすぐ終わる気がする。練習は続けていこう。


 起きたときにふと気が付いたのだが、寝たら大抵、今何時だ?と時計を見ないとどれくらい寝たか分からなかったりのするのに、今回はお腹のすき具合で自然に1時間くらい寝たことが分かった。絶対とは言えないし、誤差も当然あると思うがこれは便利だ。正直このスキル舐めていたけどありがたく使わせてもらいます。しかし、腹の音が鳴るかについての観察は依然継続するのには変わらない。


 意図せず寝たことで魔力量も回復しているし、食糧調達を本気でやろう。

 そう、肉だ。肉、肉、肉。別に魚でもいいが肉だ。生まれてから木の実と果物しか食ってない。別に自分は菜食愛好家でもないし(木の実と果物を菜食というかどうかは分からないが)、このままだと栄養バランスが崩れてしまう。タンパク質豊富な大豆のようなものがこの付近に自生していたらいいのだが、そんなに都合よくはないし、おそらく動物を探したほうが早い。あの大鷹、あんなに大きい体を維持するためには相当量の食べ物を食わないとやっていけないだろう。それに大鷹が果物だけを食べているとは思えない。兎とか猪とか魔物とかいろんな奴を食べているような気がする。あくまで仮説だが、この近くにも動物はいるだろう。だが大鷹みたいなやつにもう遭遇したくない。次会うときはあいつに勝つときがいい。遭遇しないためにはどうしよう。魔力を伸ばして感知するのは試してないからできるかどうか分からないが、魔力量をもっと増やしてからの話だ。どうやって周りの生き物を感知しよう。周囲の気配を全部感知するなんて仙人じゃないんだからいきなりできる訳がない。そういう関係のスキルでも手に入れられたらいいがスキルポイントないし自力は大変だろうなぁ。


 そうだ、発想の転換!敵の気配を感じるのではなく、自分の気配を敵から捕捉されなければいいんだ。主に気配は視覚、嗅覚、聴覚で探るものだろうからそれらをごまかせればいい。視覚はともかく、聴覚は音を立てなければいい。簡単ではないし、完全にはできないが幸い"隠密"のスキルもあることだし頑張っていこう。嗅覚は自分の匂いを目立たせなければいい。自分はもともとそんなに匂いはしないほうだと謎に自負しているが、嗅覚が鋭いやつからしたらそんなの誤差の範疇にすぎないだろう。良く転移物の小説で自分の様に自然の中で暮らしてる主人公が狩りをする時とか体に泥を塗りたくっていたりして少し引いていたが自分もそれを実践しよう。決して四六時中その体勢はやりすぎだからここに帰還した時はきれいに落とさないといけなくて面倒くさいがしょうがないだろう。後、敵も魔力感知をできると仮定しても自分の魔力は他の生き物からしてそんなに目立たないかもしれないが万全を期そう。木から出る魔力を感じていて分かったことだが生き物から魔力は微弱ながらでるものだ。それを出さないようにすればいいのではなかろうか。否、明らかに生き物で動いてるのに魔力が出てないってそれもいびつだし、人でなくとも知性がある生き物がそれを感じたら違和感を感じてしまう可能性がある。違和感なんか感じられて意識的に自分に注意を向けられたらもうゲームオーバーだ。違和感を感じさせず、なおかつ自分の魔力を隠す。できるだろうか。否、やるんだ。


 ある仮説を立てて、あの木の魔力を感じ取ったように、今度は意識的に周囲に意識を向けるがあの木の魔力が強く、あんまり分からないので少しだけ離れてもう一度実践すると、周囲、至る所に微かな魔素が漂っていることが分かってきた。あの木の魔力が強すぎるので今まで分からなかったし、迷宮の中では全く感じなかったが今はあると分かる。おそらく寝てる間とか休憩している間に魔力量が回復するのはこれを空気と一緒に吸っていることも1つあるかもしれない。自分が立てた仮説、"この世界は空気中に魔素が混じっている"が感覚的なので他者に証明できないが自分の中では立証されたところで次の段階だ。


 自分が吸っているこの魔素を自分の体の中で自分の魔力に変えている、魔力は火や水など自分が想像したものに制限は分からないが自在に変化することができる、この仮定をもとにして、あることを試みる。それは魔力を周囲の魔素に変化させるということだ。これは想像しやすい。なぜなら今自分の周り至る所に魔素がありそれを感じ取ることができるからだ。うん。簡単だった。左手の手の甲から左手に溜めて循環させた魔力を魔素に変えるイメージで放出したら特に難なくできてしまった。第2段階終了だ。


 最後にこの魔素を放出せず常に全身に纏い続けなければいけない。魔素を纏うのは意識し続ければできた。しかし、ここからだ。全身に纏うのは難がある。今までは掌とか体の一部分からしか魔力を出していなかったからだ。否、別に魔素を纏うだけで消費し続ける訳でもないのだから体の一部分から出せばいいのではないだろうか。一番慣れている右手の掌から出そう。ここで注意しなければいけないのは、自分の魔力には限りがあることだ。適当に纏ってしまえばすぐにエンスト状態になってしまう。時間はあるのだから慎重に右手を胸に押し当ててじわじわ体に魔力から作った魔素を押し出していく。この時のポイントはゆっくり少なめに出していくことだ。薄目に魔素を制御するのは難しいが、体に押し当てて少量ずつ魔素を出せば波紋が広がるかのよう魔素が体を覆っていくことができる。そして魔素を完全に纏ったところでそこで気を抜かずに纏い続ける。纏うだけなら魔力を消費しないので気を抜かない限り纏いつづけられる。根気勝負だ。歩いても走っても気を抜かなければ纏ったままでいられるようだ。基本これをずっとしておけば修行になるだろう。狩りに行くならこれが出来ないと自分は許さない。怖いのはもううんざりだ。

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