第6話 迷宮の奥の黒い球との邂逅

 奥へと足を進めていく。さっきいた場所よりもっと暗くなってきて、こんなところに魔物なんかいるのだろうか。いたら命とりだ。前が暗くて見えないので左手で壁を触りながら壁伝いに進む。迷宮って言ったら普通灯りがあるものではないのか、魔物ってこんな中、目が見えるのか?まあこの世界の普通なんか全然知らないけども。1分くらい進んだところで足を止める。後ろを振り返ってみると闇、前を見ても闇。やばい、このままだと格好の餌食だし、この真っ暗さは怖い。宇宙飛行士がアニメで感覚遮断室とか入ってパニック障害とかの検査として使ってたけどその意味が分かる。怖い。今この左手を壁から離すのが怖い。離してしまったら帰られなくなりそうだ。


 そーんなときの魔法でございます。敵に居場所がばれると懸念していたこの魔法、光魔法でございますが、闇に慣れている魔物がここにいるとして、光魔法なんか使わなくても喰われるのではということで、逆に光魔法を使うことで相手の目を眩ませられるし使おうという方針転換をいたしました。もしもやばいやつがいたときは逃げましょう。死に物狂いで逃げましょう。逃げられるかではなく逃げるのです。と、よく考えてみればこの暗闇の中、いきなり光を照らされたとき自分自身も眩むのでは・・・?考えていませんでした・・・。いやしかし!ふふん。対策はもう考えてある。今作った。最初、光らせるときに目をつむっておけばいいんじゃないと思ったが、光らせた瞬間、初動がかたまってしまうのはよろしくない。ということで自分の前だけ光らせよう。方法は目を両手で覆い重ね、その下に重ねたてのひらを光らせ、上に重ねた手で光が漏れないようにすればいい。注意事項として最初は常夜灯並みの暗さで徐々に目を慣らせつつ慣れたところで光らせるということがあるだろう。と、光魔法を使ったことのない自分にはいきなり実践は怖いので服の中に手を入れ、いや透けるかもしれない。ジーパンみたいなズボンのポッケに手を突っ込み上から手を重ねて光をあんまり漏れないように調節し、ほんのちょぴっとだけ魔力を突っ込んだ手に集め、循環させ、暗い豆電球の光をイメージして魔力を光に変える。あまり光っているか分からない。それでいい。暗いぐらいがちょうどいい。さあ、実践です。


 両手で目を覆い、下に重ねたての掌にさっきのイメージで魔力を光に変えていく。ゆっくり、ゆっくりと変えていき、掌にほんのわずかな光が帯びる。そこから光が漏れないように掌の中心に光を集め、魔力を光に変え、掌に集めを繰り返していくと光がだんだんと強くなっていく。そうして目が慣れたところでその掌を前方にかざし、先程とは違い遠慮なく魔力を注ぎ光を放つ。視界がじわーと明らかになりそこに見えたのは一本の突き抜けた道。その道の奥には黒い球状のものがポツンと岩の上にあるのが見える。


 (あれ、魔物はいない?)

 そう、若干拍子抜けの気分を隠せずに、辺りを見渡し何もいないことを確認すると、よく迷宮ものにありがちな罠に引っかからないように、正確には罠に引っかかったとしても躱してすぐ逃げれるようにそろりそろりと前に足を進めていき、何事もなく奥につくと、見るからに謎な球体を触ろうか触らないか悩みつつ指でちょんちょんとつつくが反応がないのでいざっ!と握りしめると光ったので一瞬思考停止し、手を開いてみてみると何が起きたか分からないが、特にその後、またまた何も起きないのでビー玉より大きくゴルフボールより小さい黒色の水晶玉のような球を一応何の達成感もなくポケットの中に入れると、そういえば魔力が光魔法のために減っていっているのを思い出し、意識が生まれた場所に小走りで戻った。


 何だったんだろうと半ば狐につままれたかのような感覚で先程の黒い球を思い出しポッケから黒い球を取り出してみる。一見ただの黒い球。まぁ水晶玉みたいだし綺麗っちゃ綺麗だが、そこまでだ。だけど一応?迷宮を踏破した事になる証みたいなもんだし、手から滑って落としたら失くしそうなのでポッケにしまいこみ、又思索にふける。


 鑑定スキルでもあればなぁ。自分が持っている観察スキルは小説でよく出てくる鑑定スキルみたいに見て目を凝らしただけで情報が文字となって頭に浮かぶのではなく、そのものから見て取れる情報をより注意深く取れるだけだ。今のところ採集の時にしか役に立たない。もしかしてこの世界にもクローバーがあるとしたら四葉が取りやすくなるくらいだろうか。魔物が出てこなかったのは9割安心、1割残念だった。正直、自分がめちゃ強いなら魔物と対峙しても恐れるに足らないかもしれないが、LV1の最弱者が確実に格上だろう魔物に好んで戦いたいとは思えない。だが、魔物が出てこなかったことで食料の調達が外に限られた。今、外に化け物がいるかは分からない。迷宮に入った瞬間、外の魔力の気配も遮断されたかのように分からなくなってしまったのだ。出て大丈夫だったらいいが・・・。探りようがないから出るしかないのだが。と、考えてるうちにいつのまにか眠くなっていった。

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