第4話 魔物の恐怖と魔法特訓手始め

 朝、起きると後悔した。

 普通寝るときに服は脱がない。裸族の人は別かもしれないが、暑すぎてクーラーも使えないなどの条件が複雑に絡み合わない限り、寝るときに服は脱がない。

 しかし、脱ぐべきだった。それは起きた時の惨状が物語る。服を着たまま土まみれは、裸で土まみれよりよっぽど嫌である。とにかくこの服の中に土がある気持ち悪さから逃れようと服を脱ぎ、数瞬逡巡しゅんじゅんするが、ここに世間はないと下着も脱ぎ、全裸となり、体についている土をはたき、服についている土も一応すべて払ってまず一息。


 「あー。やっぱり何かいる。」


 起きてしばらくしてから気づき考えないようにしていたが実際に考えないとすぐ死ぬので考える。この付近になんかすごい存在感がする生き物がいる。鳥の鳴き声が全くなく、魔力感知なんてするほどの魔力は自分にはまだないが、ただよってくる魔力は昨日のの成果のおかげか否が応でも感じてしまう。うん。これはまずい。出会ったら逃げる選択肢すらないだろう。安い言葉だが格が違う。可能性として食べる価値すら無しといないもののように扱ってくれればいいのだが保障はだれもしてくれない。ここから逃げるとしても下手したら近づいてしまう恐れがあるし、どこに逃げたらいいか分からない。下手に拠点から離れたら帰ってこれる自信がない。方向音痴とは言わないが来た道全部覚えてるから。キリッ。なんて絶対できない。なら一択、引きこもろう。


 周りの植生や気温から見て今は春。さすがに、少し裸では当たり前だが肌寒いので土が完全にはとれない服を着る。まぁ贅沢なんか言ってられないので仕方ない。うん?いや、贅沢言えるのではないか、魔法があるのだから。フハハハ。やったね、と綺麗になるイメージを頭にしっかり思い浮かべながら手にある魔力を使おうとしたところでそんな暇はないことに気づき早着替えを敢行し、昨日残しておいた木の実、果物を、服の端をつまんで上にあげ、おなかの前で袋の様にしたところに入れて落ちないように迷宮の入り口に向かって走り出す。


 迷宮の中に入ったところで落ち着くを取り戻してから、さっきの魔力を出していた正体について考える。あんだけの魔力を駄々漏れさせるということは龍とか想像もつかない化け物だろうか。多分人じゃないだろうな。だって自分ここにいますよーってそんな主張するだろうか。いや、人によるか。結局分からないが逃げることに越したことはない。で、入ったはいいがどうしようか。一応果物とかはもってきているからおなかは満足いかないけど即、餓死することはない。まずはステータスを確認しようか。



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名前  :尾崎友斗

レベル :1  

種族  :人

称号  :迷宮から生まれた男

年齢  :10歳

性別  :男

属職  :なし

状態  :空腹

加護  :なし


生命力 :30/30

魔力量 :10/12

攻撃力 :15

防御力 :15

筋力量 :20

体力量 :17/20

耐久  :20

敏捷  :15

魔法威力:10

魔法制御:12

精神強度:36

知力  :35


スキル :日本語

     剣術LV4

     大声LV6

     観察LV3

     暗算LV4

     早口LV6

     石頭LV5

     忍耐LV3

     魔力操作LV2

     毒耐性LV1


スキルポイント:0

魔法  :生活魔法

     土魔法


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 状態が空腹になっているのは納得だ。木の実と果物だけでは腹は満たされない。魔力量と魔法制御、精神強度が上がっているのは素直にうれしい。スキルに魔力操作がついているのも嬉しい、だが、毒耐性がついているのは素通りできない。今そこまで体調が悪くないし、状態も空腹と毒については触れられていない。あの赤い木の実と黄色い横長い果実、どちらかに毒があるのかもしれない。両方の可能性も。まぁ体調に変化がないし、僅かな毒でやられるようで困るからこれからも食べておこう。食べるものないし。あ、後、昨日自分が使ったのは魔法だって自信がついた。


 それにしてもスキルポイントがないのがきつい。スキルポイントがなけりゃ好きなスキルが得られない。柔軟速く取得したいなあ。かといってスキルポイントを得るためにはレベルを上げないといけない。レベルを上げるためには戦闘しないといけない。ステータスの説明を見る限り、戦闘で倒せとは書いてないから戦う経験が大事なんだろう。とはいっても自分から喧嘩売っといて反撃しないでくださいなんて虫が良すぎるだろう。どうしよう。自分の剣道は最強だなんていわないし、試合でもあんまり勝てない。というかほとんど。でも一対一ぐらいなら怪物じゃなかったら勝てるかもしれない。すべては妄想だけど。


 これらの妄想も多対一になれば綺麗さっぱり使い物にならない。一体倒したら蜂みたいに仲間呼ばれたらリンチが頭に浮かぶし、剣とはいっても棒がないと戦うこともできないし、さっき必死だったから棒なんか持ってきてない。取りに行きに外に出たら本末転倒お陀仏の可能性がある。どうしよう。剣は一旦考えないようにして、他に使えるスキルはないだろうか。大声ぐらいしかない。向こうが魔法使って来たり接近してきたら終了だし、耳元で大声出すのが安全にはいくまい。スキルポイントはさっき考えた通りないから使えない。食べ物はすぐ底が尽きるだろう。飢え一直線。今自分が解決しないといけないのはできるだけ安全な戦闘方法と食糧問題だ。うーん。食糧は相手倒して食うしかないとしたら、優先は戦闘方法か。事態は急を要する。しかし、普通に生態系の中にいたら食う為にどんな生き物でも生き物を殺しているとしたら戦闘をしている。つまり、レベルが1の奴なんかいないということだ。自分はこの世の常識も知らず最底辺。


 と、自分が生まれた?意識が復活した場所で必要だと思うがうじうじ考えていたが、これ以上考えても腹がすくだけだろうなので、魔法の練習をすることにする。


 ステータスでは自分の魔法の欄に生活魔法と載っていた。スキルにはなっていなかったが、そういうものかもしれないし、なってないだけなのかもしれない。まぁ使えるものは鍛えていこう。多分ささやかな魔法を生活魔法といっているのだろう。昨日自分は種火を出す魔法、"着火"と名付けるとして、土を柔らかくする魔法、農業とかで使いそうだし"耕起"とでもしておこう。撹拌とかしてないけど。目から水を出す魔法、これは"涙"、そのまんまでいいだろう。おそらく、着火と涙が生活魔法、耕起が土魔法だろう。今必要な魔法は何だろう。洞窟なんて固そうだし干渉しにくそうだ。着火は燃やすものがないからずっと発動しておかないといけないからやめておこう、目立つし。消去法だが、涙を鍛えよう。涙を流すわけではなく、水を出す魔法としてだ。人間、この体もそうかは知らないが水を3日間飲まないだけで死ぬそうだし。出せば出すほど水を飲めるというありがたいトレーニングだ。正直光でもだして落ち着きたいが光なんて出したら煙の時同様、自分がここにいるサインになってしまう方が怖いから無理だ。闇魔法も暗いとこでどうすればいいかあんまり分からない。後は雷と風、両者とも魅力的だ。だけど雷魔法は感電が怖い。対策を考えてから特訓しよう。風魔法、これはいくらでも応用が考えられる。そして当たり前だが感電しない。よって水魔法と風魔法、この2つを鍛えよう。


 手に魔力を溜めて循環させる。魔力が結構たまったところで人差し指を口の中に入れて、指先から水を出すイメージで魔力を出す。最初はちょびちょびしか水が出なかったが、今は途切れ途切れであるが、10秒くらいなら連続で出せるようになった。水の味は普通だと思うが、のどが渇いていたのもあってよく喉を通る。コップ一杯分くらい飲めたところで次は風魔法。閉じた口の前に、利き手である右手をかざしそこに口を閉じたまま、クリスマスケーキの蝋燭の火を消すように、中学卒業までの誕生日の光景を頭に浮かべながら魔力を吹く。手に仄かな、蝋燭の火は消せないほどの魔法でできた息が当たる。今度もまた吹き続けるように、幸い魔法、息切れはないのだからほんの微かな風を手に向かってちょろちょろと吹き続ける。どう考えてもこんなので妄想の中にしかいない自分を喰う魔物には勝てないが、千里の道は一歩から、と自分で自分に言っても慰めにもならない言葉を支えにしながらてのひらに感触を与え続ける。

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