第3話 空と現実を見る
と、ここまでステータスを確認していたが、そろそろ外に出てみよう。仄かに風が吹いてくる方向に向かって歩く。少しだけ周囲が明るくなり、出口に近づいているのを感じる。トントンと自分の足の音が少しばかり大きくなってくる。少し小走りになり、外に駆け出し、左右から風を感じた瞬間腕を大きく横に思いっきり伸ばして目をつむりながら息を吸う。暖かい日の光を感じながら肺に思いっきり澄んだ空気を取り込み、徐々に吐き出しながら目を開ける。雲一つない青空が自分の充足感を表しているようだった。
「ふうー。いい気持ち~。」
さっきまで、薄暗い洞窟のような迷宮にずっといたため、外に出ただけで気持ちがいい。迷宮から生まれようが、そこらへんは関係ないようだ。改めて目を開けて周囲に目を向けると、ここは山の中腹のようで、周囲にも山があちこちにあり異世界とは思えないような田舎そのものだった。周りには木々が生い茂り、人の手は入ってはいないようだ。うん、人がいない。ということは当分はたった一人で生きていくことになる。自給自足の生活だ。
「うーむ。どうしよう。」
正直、自分はサバイバル関係の知識なんかほとんどないし、アウトドアでもないし、動物を殺したこともない。やばい。これは、自滅するかもしれない。魔物とかもたぶーん出るこの世界だが、魔物とか以前に独りで生きていけるだろうか。一人暮らしなどまだしたことが無いが、そんな問題ではない。水なし、ガスなし、電気なし、インフラが全くないところで独りで生きるなんてそんな想定なんかするわけがない。衣食住をまず成立させていかなければ。いや、衣も住も勿論大事だが食を全振り最優先で生きていこう。すぐ死んでしまう。
まずは川を探しに山を下りようか。うーん。この小洞窟っぽい迷宮を拠点にするとして、今は日が真上まで上っている。日没までには拠点に絶対帰りたい。この星が一日何時間なのかが分からない。当然時計なんかないし、もしすぐ日が落ちてしまったりしたら帰還困難が目に見えているし、もし魔物がいるとしてレベル1の自分が夜の山や森をさまようなんて餌そのもので自殺行為だ。よし、今日はこの付近で食べられる物を探してみよう。奥深くには絶対行かないようにしよう。
ということで木に木の実や果物が生っているかをじっと睨みながらぐるぐる歩いていく。観察スキルと忍耐スキルがあるからだろうか。こんな作業でも地道に続けられる。そうやって探していくと、赤い小さな木の実15個と黄色の皮をした柿ぐらいの大きさをした果物を2個収穫した。生っている実全部は採らなかった結構な大収穫ではないだろうか。日は午後3時の時くらいの傾きをしていた。ずっと上を向いたり目を凝らしていたので疲れた。そう思いながら拠点の前に帰ると一つのことに気が付いた。
「明かりがない・・・。」
これから暗くなっていくにつれて、暗闇は怖いから灯りである火をともすのは絶対事項。だが、火を
ちょっと考えた末、木の実を抉って内部を露出させる。こうすれば匂ってやばそうかどうかがわかるし、肌に接触させて赤くなったり、荒れれば食べるのはやめということになる。因みにきのこも数個発見したが全てスルーした。きのこなんて自分の偏見でしかないが怖すぎる。うん。ま、匂いを嗅いでみよう。すんすん。ちょっときついが柑橘系のようなにおいだ。大丈夫かな。いやいや肌にもつけてみよう。少しひりひりする。やめておこうか、いやこのぐらいなら忍耐スキルがあることだし食べてみよう。いざ参る。パクッ。あれ、案外酸っぱくない?もう一個食べよう。パクッ。うーーん。って酸っぱ!!時間差で来た。ふーふー。まあ即死したり何かしら症状が出たわけもなく、よかった、よかった。第一食糧ゲットでございます。次は果物だが今は置いておいて夜に食べよう。
現実逃避気味の毒見を終わりにして、日を視界に入れて考える。これから夜になる。さらによく考えれば自分がいたのは迷宮だ。迷宮から生まれたというアドバンテージがあったとしても、迷宮から魔物でも出れば襲われるかもしれない。どちらにしても今の自分には火が作れそうにない。うーーん。火魔法でも使えればいいのに。そうだ!スキルで魔法が覚えられないだろうかステータスを確認・・・、だめだ。取得可能一覧には変化なし。あ、でもよく見ればステータスに変化がある。
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名前 :尾崎友斗
レベル :1
種族 :人
称号 :迷宮から生まれた男
年齢 :10歳
性別 :男
属職 :なし
状態 :正常
加護 :なし
生命力 :30/30
魔力量 :10/10
攻撃力 :15
防御力 :15
筋力量 :20
体力量 :18/20
耐久 :20
敏捷 :15
魔法威力:10
魔法制御:10
精神強度:35
知力 :35
スキル :日本語
剣術LV4
大声LV6
観察LV3(+1)
暗算LV4
早口LV6
石頭LV5
忍耐LV2
スキルポイント:
魔法 :なし
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体力量が地味に減っているのと、観察スキルのレベルがあがっている。よっしゃ!何事も上がることは嬉しい。だが、忍耐スキルが上がっているのが気になる。酸っぱかったから?それとも無自覚なストレスか?有り得る。それと魔法は依然なしのままだが、魔力量があるってことは魔法が使えるかもしれない。よし、こんな時こそ小説の知識をフル活用。これはどんな小説でも同じ説明だし、自分も恐らくそうだろうと見切りをつけているしやってみよう。体内にある魔力を意識!うーん分からない。まぁいい。体内に魔力があるとして、それが体内を循環しているイメージ、イメージ!、イメージ!!・・・・・・サッラサッラの血液で不純物一つない綺麗な湧き水、・・・とにかく循環をイメージして意地のように小一時間ぐらい目をぎゅっと瞑り、想像していると僅かに何か体の中に動いているものを感じる。さぁもっともっと!うーん。なんか疲れるし、手から火が出ればいいんだから手にある魔力だけを循環してみよう。なんか、総量が少ないからさっきより動かすのが楽だ。よし、これならいけるかもしれない。ステータスを確認すると、、おぉ、スキルの欄に魔力操作が増えている。よし、時間の無駄じゃなかった。よかった~。よし、魔力操作ができるということは魔法が使えるかもしれない。そこらへんから枝と枯葉をかき集め、手の平からほんのちょびっとの魔力を種火に変えるイメージで出す。「ふぅーん!」変に力むがこれも直していこう。
ボッ。枯葉に火が付き燃え広がっていく。初めての魔法、静かに感動する。
「ふっ。火種さえあったらこっちのもんだ。あったかー。」
徐々に煙が辺りに満ちていく。煙い。ごほごほっ。あれ、そこまでしんどくない。あーー、そういうことか。前は喘息で煙なんか吸ったら喘息の咳が出てしんどかったし、線香の煙も煙草の煙も嫌悪の対象だった。だけどこの小さな体になって喘息もなくなったみたいだ。ありがたい。でもどちらにしても有害であるからあまり吸わないようにしよう。立ち上る煙を見て、魔物について考える。前の世界でも動物は煙が嫌いだったし、魔物もあくまで動物なんだから近寄ってこないか。否、そう考えるのは尚早か。魔物はいまだ見てないし、ゴブリンとかオーガみたいな魔物がいるとしたら(もしかしたら魔物じゃないかもしれないけど)この煙は私ここにいますよ的なものにならないだろうか。うーむ。もう少し火の勢いは小さくしておこう。
しばらく、火の暖をとった後夕焼けをそんなに見てないわけでもないのに懐かしさを覚えながら見ているとおなかが減ったので先程の残しておいた果物を匂い&肌擦りで確かめた後に食べる。食べた後拭くものがないので葉っぱにちぎってこすり付けるが全然とれず、当たり前のように消費していたティッシュのありがたみを実感し、ティッシュが当分手に入らないことに軽く落ち込む。結局途中で切り上げた後、そうやって寝るかを考える。寝てる間に食われるなんて嫌だ。どうしよう。よし、潜っちゃえばいいんだ。迷宮入口横の地面をけって掘り返す。脚が疲れるし、靴の中に土が入る。あーそういえばこの服もパンツもズボンも靴も靴下も全部これしかないんだ。さらに洗濯機もないから洗えないし、靴も履き潰したら裸足になってしまう。脚で掘るのはやめよう。靴を脱いで土を落とし、手で掘っていく。シャベルが欲しい。これは是でしんどいし、何より爪に土が入るのが気持ち悪い。手ですくうようにして詰めに入らないように掘っていく。終わらない。こんなことしてたら真っ暗になってしまう。マインクラフトではベッドが作れない初日は土を掘って地下で穴を掘って過ごしていたが、現実は違う。当たり前だが殴って木は手に入らないし、そこらに羊はいないし、かまどもベッドも作れない。マインクラフトになくてこの世界にあるもの、魔法を使おう。かといってステータスを見れば魔力量はしっかり2減っているし、どうしようか、ベッド何て、えいってやっても作れないし・・・よし、折角眠るための穴を掘ってるんだから、掘りやすくしよう。今掘っているところに両手を押し当てて、土を柔らかくほぐすイメージで魔力を出す。あ、手から魔力が無くなってしまった。もう一回胴体にある魔力を出そう。なんか疲れるが仕方ない。だんだん眠くなってくるが、顔をたたいて眠気を払う。うわっ、手に土ついてたから顔に思いっきりついて目にも土が入ってしまった。眠気はとれたが、目が痛い。水なんてないし、涙はドバドバでないし、手でこすっても二の舞だ。うん、一時我慢だ。眠気はとれるしあんまり強く瞬きしないようにして我慢我慢。柔らかくなった土を適当に自分の身長ほど掘り返しそこに寝そべり、周りの土を自分に向かって寄せて被せる。一応終わったところで完全に横になり、枕がないのを気づき寝返って頭の部分に土を寄せて枕をかたどってそこに頭を載せる。目に入った土は顔にある魔力を目に動かして涙をだし洗い流す。
「疲れた。」
魔法を又使ったことでさらなる脱力感に襲われながらも、魔法が使えた満足感に浸りながら眠りに一直線に落ちる。寝心地がいいわけでもなく、枕の高さ柔らかさがいい訳でもないが不満は不思議と覚えず一分もしないうちに意識は落ちていった。
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