第42話 ありがとう…システィナさん 下

 「僕って…本当に弱いですね。実感しました。はっきり言って、もう無理だなって思いました。でも…前から思っていたんですけど、このパーティーで一番『』のは…システィナさんじゃないかな?って…やっぱりそうでした。」と言葉にすると、一同はシスティナを見る。


 「ありがとう…システィナさん。僕…己惚うぬぼれていたのかもしれませんね…。命は重いです。その命を背負い込む事を考えていました…、でも、それは自分よがりだったってわかりました。」と言い一同を見渡して。

 「そうですね…。みんなこんな弱いリーダーについて来てくれているだけでも…」と苦笑いを浮かべた。


 「弱くないぞ…オークプリンスの側近、真っ二つにしたじゃないか!」とタイロンがはやし立てる。

 「そうね…あれ…狩りましょう!ですもんね…」とアリッサ。

 その言葉にケイティも大きく何度も頷いていた。


 「システィナさんやジャンボが言う通りかもしれないな…」とクラウトが立ち上がる。

 「この先の旅には、僕らの想像をはるかに超えた敵がいる、と言う事は想定済みだったが…、自分らの可能性を想定することはしていなかった…」と言うと、セラを見て、「その証拠が…セラだ。」と言葉にすると、一同がセラを見た。


 「今、彼女の力には、僕らがかなわなかった『オークプリンス』がいる…、そして」と言い、手に持っている白い召喚石を見て、「ここに…あのドラゴンの召喚石がある」と言うと一同を見る。


 「ジャンボが言う帰還のオーブ。そして、攻撃に特化している誘いのオーブ…。これは、まだ見ぬが、手に出来ない品物ではない…ましてや…」とアサトを見ると、「彼女に唯一対抗できる武器を…ぼくらは持っている…」と言葉にした。


 その言葉に、アサトは、「妖刀…」と小さく言葉にする。


 「僕も弱気になっていた。すまん」とクラウトは、一同に頭を下げる。


 「…そうですね…僕は、あの力に圧倒されてました。クレアシアンもそうですが、ドラゴン…。…アイゼンさんの話しだと、僕やジャンボさん、そして、アリッサさんやケイティさんが持っている武器は、ドラゴンと戦える武器だって、見た目に圧倒されてしまって…」と言うと、小さく笑みを見せて、「師匠が言ってました」と言い一同を見る。


 「…用意も何もできていない状況で、なにか出来るなんてなんてない。耐える事も修行。自分の弱さを知るのも修行。今は、自分のいる現実を見るんだ、そして、受け入れるんだ…。」と目を閉じて言葉にする。


 大きく、今まで吸った事の無い程に、大きく息を吸うと、空を見上げて、ゆっくりと吐き出し、目を開けて、「…システィナさんはちゃんと見ていてくれてたんですね。ここより先のこと、僕らの事…そして、色々な事を…安心しました。」と言葉にした。

 システィナは小さく肩をすくませ、そのシスティナに抱き着くケイティは笑みを見せた。


 「僕はアサト。職は、一子相伝の剣士“サムライ”、この世で唯一僕しか持っていない武器を持つ、唯一無二の存在。だから…行かなければならない!これを誇りとして!」と言い。

 「僕も…まだ、参ったはしない!」と言うと、タイロンが立ち上がり、


 「あぁ、当たり前だ!」と鼻を鳴らす。


 すると、アリッサも立ち上がり、「そう、ジャンボだけじゃない、私も帰還のオーブの話しを聞いた時は、欲しいと思った!」と言葉にした。

 アリッサを見上げていたケイティは、「うんうん、そうだね。わたしは聞いてないけど…。でも、セラ連れて行くなら、おねぇ~ちゃんのあたしも行かなきゃなんないでしょう!」と言いシスティナを見た。


 …と、いきなり!「俺は…」とジェンス。

 少し考えてから、「…とりあえず、やっと夢だった狩猟者になれたと思ったら終わりって…、そんな事は無しで、よろしく!」と、親指を立てて言葉にする。


 横になっていたセラが目を開け、上半身を起こし、「わたしは、このが生み出した。行くよ…シスが言っているように、私次第なら…婿の為にも…」と言いニカっと笑う。


 その言葉に、「セラの婿にはならないが、そうだな。セラは、僕もそうだが、みんな君を必要としている。そして…。そう、僕らはチャンスをまたもらったんだ。このチャンスはこれから何回もあるかも知れない、その度に着実にステップアップしていこう!」とクラウトが言葉にする。


 システィナが立ち上がり、小さく肩を窄めながら…。

 「みんな…ごめんなさい…わたしは、おもった事を、ちゃんと言えないから…でも…」と言葉にすると、アサトは頷いて…。

 「わかっているよシスティナさん。それにみんなありがとう、それじゃ…また、負けた感じだけど…前に進みましょう!」と笑みを見せて言葉にすると、一同は、大きく頷いた…。


 「今回は、海は無しだ、みんなすまん。」とクラウト。

 その言葉にケイティが膝から崩れ落ち、「えぇ~海!行きたかったのにぃ~~」と声を上げた。

 その言葉に一斉に笑い声が上がる。


 クラウトはメガネをかけると、「思ったよりも事態は切迫している。早めに帰ってこの事を報告する」と言うと、「クレアシアン討伐は…僕はしたいと思います。今度は、直接彼女と戦いたい」とアサトが言葉にした。

 その言葉に、「えぇ~~怖いよぉぉ」とケイティが声を上げる。


 その様子を見てから、「冗談は置いておいて」とクラウトが言うと、唇を尖らせながら「冗談じゃないのに!」と言葉を吐き捨てた、と思ったら、急に立ち上がり戦場の方を見る。


 その向こうのセラも戦場のある方をみると…。


 「来る!」とケイティとセラが言葉にした。


 その言葉に、「戦況が変わったようだな。それじゃ…」とクラウト。

 クラウトの表情を見て、小さく笑みをみせると、「逃げましょう!」とアサトが言葉にした。

 その言葉に、一同がニカっと笑みを見せ、セラが先頭に馬車に乗るとシスティナが乗り、ジェンスが乗った。

 アリッサが乗るとケイティが乗り、アサトが長太刀を抜くと、鞘を、馬車の窓のなかに放り込んで、馬車の後方にある梯子に手をかけて乗った。


 クラウトが馬車に乗るとタイロンに向かって頷く、それを見て、「じゃ!逃げるぞぉ~」とタイロンが手綱を動かし、一行はその場を後にした。


 アサトの後方では敗残者があふれ出てきている。

 どういう戦況かはわからないが、狩猟者と兵士が逃げて来るのが見え、その後方から追撃を始めているリベルのお供らの姿も見えている。


 アサトは梯子から手を放すと馬車から飛び降りた。

 その姿を見たケイティがタイロンらに声をかけて馬車を止めた。

 少し離れた場所にいるアサトは振り返る。


 そこには、笑みを見せながらこちらを見ている仲間がいた。

 そして、馬車の横には…ナガミチがこちらを見て立っていた。


 幻…なのは分かる、ナガミチは生きてはいない…でも、生きている、それは、ナガミチの子供でナガミチではない。と思っていると、ナガミチがこちらを見て大きく笑みを見せると、握りこぶしをこちらに向け、2度胸を叩いていた。


 その行動に小さく笑みを見せながら頷く、そして、空を見上げる。


 その空は大きく、真っ青に澄んだ真夏の空であって、とても遠くに感じる空。

 この地で、初めて感じた空と何も変わらない空がそこにあった。


 「すみません!あれ…助けましょう!」と叫ぶと、馬車から仲間が笑みを見せながら出てくる。

 ケイティが駆け寄って来て、「相手は、太刀は2本だって!」と言い、太刀を2本、アサトの目の前に出した。

 長太刀をケイティに預けると、「アサト…」とケイティがじっくりとアサトを見る。


 その言葉に小さく頷き、腰に太刀を携えると2本の太刀を抜いて、向かってくる敗残兵と追撃してくるお供に視線を移す。


 …そう、僕らは、まだ参ったしていない、まだ…、まだこの世界であらがえるんだ…。


 その空は、いつも僕らを見ている空、その下で………ボクは……。

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