第41話 ありがとう…システィナさん 上
「圧倒的だったな…」と馬車の横に座ってタイロンが言葉にした。
その言葉は重く感じた。
数えきれないほどの矢で攻撃されても、それに、巨大な幻獣、リベルと戦っても…優位を見せていたドラゴンを、たった一撃で討伐した力…。
「僕は…間違っていた」と、クラウトが神官服の襟を緩めて言葉にした。
「安易に考えていた…」と付け加えると小さく項垂れた。
システィナとケイティ、そして、アリッサは気を失っているセラを看病している。
アサトの傍でジェンスが大の字をかいて横になっていた。
「ナガミチさんの家を飛ばした時より…威力がありました…」とアサト。
その言葉にクラウトがメガネを外して目頭を押さえた。
「僕は…また、仲間を…」と言葉にする。
「そんな事ないです…」とシスティナが言葉を発した。
アサトとタイロンがシスティナを見る。
「よかったです、みんなが生きていて…」と言い肩をすくめる。
それを見ていたケイティは、小さくなりながら、「でも…怖かった…」と言葉にする。
アリッサは目を閉じて、「そうね…今までで一番、死をまじかに感じた瞬間だったね…」と言い、セラのおでこにある布を外して、樽にある水で洗い、再びセラのおでこに乗せた。
アサトは空を見上げた。
林の向こうにある戦場の音は消えている、どちらが勝ったかはわからないが…。
色々考えてみれば、アサトから言い出した旅、その旅に付き合わせてしまった事は、クラウトが責任を持つ事ではないと思っている。
実際、クレアシアンは強い、クラウトが想定外発言をしているが、アサト自身も想定外であった。
この先に強敵が待ち受けている事は想定していても、その力がどの位なのか図ることが出来ていない、そのなかでクレアシアンの見せた戦いは、アサトらにとって絶望的な強さに感じている、この先、旅を続けるかどうか…。
もう一度。
皆に判断してもらわなければならない…。
それより、アサト自身が続けられるかが…。
今の戦いで分かったのは…。
自分らの無力さであり、小ささである…。
「クラウトさん?」とアサト。
クラウトはゆっくり顔を上げるとアサトを見た。
「もう一度、ぼ……」と言った時、
「終わりですか?」とシスティナが立ち上がって言葉にした。
その言葉に一同が見る。
システィナは少し小さくなると、大きく息を吸い…。
「もう…終わりかって聞いてるんでしょう!アサト!」と強い口調で言葉にした。
システィナとは思えない言動に、一同が大きく目を見開く。
「なにくよくよしているの!あなたは参謀でしょう!クラウト!しっかりしなさい!あなたが諦めたら、本当にみんな死ぬの!」と言うと、クラウトは小さく視線を落とした。
「私はなにも出来ない、でも…まだ、参ったしていない、したくない。…だって…」と言うと小さくうつむき…。
「まだ…限界まで来たと思ってない、私や、私たちは、まだまだこれからたくさんの経験を積んで強くなる、やっている事には限界はない!」と言うと、大きく頷く。
そして、胸に手を持って来ると…。
「うん、そうです。確かにクレアシアンは強いです。でも…、私は、彼女の戦いを見てわかったのです。彼女も魔法使い。でも、私とは違う魔法を使っている…。それを見て…、感じて…。怖かったです…、でも、わくわくしました。…だって…。まだ、私の知らない…」と言うと大きく首を振り、「いえ、今までのこの魔法の使い方を見直せる…。もしかしたら、わたしも、あの女性と同じ魔法を使う事ができるのかも…いえ、あれだけの圧倒的な力を追い求める事もできるのかも…」と言葉にしてアサトを見る。
システィナの言葉を呆然と聞いているアサト。
システィナは大きく深呼吸をすると、アサトの傍に来て、座っているアサトを見下ろし、そして、大きく振りかぶり…『バッチン!』と軽快な音と共に、アサトは右を向いた。
「え?」と目を見開いて言葉を出すアサト。
その顔を見下ろしてから、クラウトを見て、再び大きく深呼吸をすると、クラウトの前まで進み、大きく振りかぶり…『バッチン!』と軽快な音と共に、クラウトも右を向いた。
その場で、小さく目を閉じると小さく息を吸い込み、ゆっくり吐き出してタイロンを見る。
つかつかとタイロンの前に立つと、「私たちは、死んでもいいって言う事でついて来たんでしょう?ねぇジャンボ!」と言葉にする。
その言葉に、「あぁ、俺も死ぬかもしれない事は重々承知でついて来ている。実際、クレアシアンだったっけ?…あの女の力は異常に思えるが、シスの言う事を考えれば…まだまだ、俺たちは、このちっぽけな島をここまで来ただけ、シスだけじゃない、俺も、お前らを守ると決めた以上は、帰還のオーブを手にしたいと思っている」とアサトを見て返す。
その言葉に、「もう…少なくとも、私やジャンボさんは、先を見ているの、その先に死があって、死んでしまうかもしれない…、でも、その死はアサトのせいではないの!だから…」と言葉にするとアサトを見て、「
一同はシスティナを見ている。
遠くで再び交戦の音が聞こえて来た。
その交戦音に、一度、目を向けてから、小さく頷き。
「みんなもそう思ってついて来たんでしょう!」と言うと、ジェンスが立ち上がり、「…おれは、とうちゃんの背中の向こうが見たくてついて来た、さすがにさっきのは参ったけど…初陣があれなら、これからは、あれ以上に合わなければなんとも思わないかもな」と言いシスティナを見る。
「わたしは拾われた命だからね…、戦いで死ぬことは本望さ。」とアリッサが言うと、「…このパーティーで、ムードメーカーは必要だからね…、ちょっと怖いけど…」とケイティが言葉にして、少し考えてから、「…そうだね…。そう言えば死ぬかもって言われていた…」とケタケタと笑い始める。
ケイティを見てから、アリッサへ視線を移し、そのそばで眠っているセラをみると、小さく息を吐き…。
「セラちゃんには悪いけど、わたしが思うに、セラちゃんの力は私たちの勝敗を左右する時が多くあるかも、だから、セラちゃんは帰さない。そして、私も強くなってセラちゃんを守る!」と言いクラウトを見た。
「覚えてる…クラウト!、アサト!…わたしを助けてくれた夜の事…」と言うと、アサトとクラウトは目を合わせる。
その二人を見て、「あの時の…ポドリアンさんが言っていた。『我々には世界に
システィナの言葉に、クラウトは笑みを浮かべながらうつむく、アサトもクラウトを見て小さく笑みを見せてうつむいた。
その二人を見ながら、「私も…ただついて来たんじゃないの…わたしも…『世界に
その後ろ姿を見ていたクラウトが小さく笑い始めて…。
「思い出したよ…」と言いアサトを見た。
「ポドリアンさんの言葉…」と言うと立ち上がり、「そう、僕らは一度死にそうになった、でも生きている、我々はまだ、この世界に
「僕の命は君のモノだが、この命はすでに潰えた命だった…、忘れていたよ…システィナさんの言う通りだ…」と言葉にした。
アサトも小さく笑みを見せて立ち上がると…。
「ごめんなさい…」と頭をさげると一同を見た。
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