第39話 すべてが焼き尽くされる瞬間… 上
クラウトは、風圧を耐えながら抱いているシスティナを見ている。
その向こうに立ち上がろうとしているタイロンがいて、そのすぐそばにアリッサが雑草を握り耐えていた。
ジェンスは、うつぶせの体勢で顔を上げようとしている、そして、アサトは、ケイティを懐で抱きしめながらドラゴンを見ている。
その距離は思っていたより近い…、10メートル有るか無いかの位置である。
体の割には大きくない頭部。そこには、大きく稲妻のような後方へ流れるように生えている角があり、鼻先が長く、鼻先先端にある大きな鼻孔が、大量の空気を吸い込み、そして、吐き出している。
その大きな鼻孔の下には、大きく開く口があり、そのなかは、先の尖った歯が隙間を開けて、上下にかち合うところのないように綺麗に整って生えてあった。
鼻先より遠い場所にあるその瞳は、縦に長細い黒目、金に輝くような状態の白目に位置する場所には、黒く輝く筋が幾重にも走っているのが見え、威圧感からなのであろうか、大きく、また恐ろしい位に冷静にアサトらの姿を捉えてあった。
大きく翼を羽ばたかせる度に襲う風圧、その風圧に耐えるアサト一同。
ドラゴンは大きく息を吸うと、アサトらめがけて大地と空気を揺るがす程の咆哮を上げる。
その吐き出された息にアサトとクラウトは顔を伏せ、タイロンは後ろに尻もちをつき、アリッサとジェンスは掴んでいた草に、一層の力を込めて握りなおした。
永遠にも続くような時間が、アサト一行を襲っている。
生暖かい息に、呼吸をする事もままならないように思える。
息苦しさを覚えるアサトは、伏せている顔を一層下へと向ける。
しばらく吹かれた息も止むと、今度は翼を羽ばたかせている風圧が襲う。
…なんなんだ…これ…。
風圧に耐えているアサトは、ゆっくり、そして、少しずつ顔を上げてドラゴンを見る。
下から多くの矢が飛んできているのがわかったが、ドラゴンの鱗を突きやぶる事は出来ないようである、体に当たった矢は、音もなく落下している。
ホバーリングしているドラゴン。
標的は…アサトら…
なぜ…、僕らを捉えているんだろう…。
アサトはケイティを見ると、ケイティは小さく肩目を開けてアサトを見ていた。
そのケイティは、アサトの視線を感じると小さく笑みを見せる。
それからゆっくりクラウトを見る。
クラウトも顔を上げドラゴンを見ていた。
林の近くにタイロンが立ち上がると、近くにある気に背を預け、大きく呼吸をして、アリッサに手を差し伸べている。
ここで耐えているのが奇跡のように感じていた。
と、その時、風圧が止む。
アサトは、視線をドラゴンに移すと、ドラゴンはその場にはいない。
アサトはゆっくり体を起こす。
その時、後ろからクラウトが叫んだ!
「アサトぉぉぉぉぉぉ…」
その声にアサトは振り返る。
クラウトがアサトの向こうを見ているのを感じ、その視線へとゆっくり振り返ると…。
先ほどまでなかった風圧が、徐々に強くなるのを感じると共に、ドラゴンが、ゆっくり…ホバーリングしながら上昇してくる。
一度下に降りたのだろう、それからゆっくり上がってきたようだ。
その角…そして、大きな目…そして……大きな鼻が、大きく息を吸い込むと、大きく開けた口は、すでにアサトらがいる高い場所を、射程に収める位置まで上って来ていた。
そして!
口の奥の脇に、炎を生み出すと思われる場所から炎が立ち上がるのを見た瞬間に
「アサトぉ…」とタイロン。
ケイティは地面に伏せた。
クラウトはシスティナとセラを庇うようにその上に覆いかぶさる。
アリッサは盾を頭の上に持ってきて、ジェンスは転がりながら林の近くへと退避をした、そして、アサトは、その炎が吐き出される瞬間を見ながら…。
…みんな…ごめん…
と心の中で呟いた………瞬間。
一気に辺りが熱く、目を開けて居れないほどの赤や黄色の世界になり…そして…。
…そして…。
…そして………。
「あらぁ…」と言う声にクラウトが顔を上げる。
そこには長い髪をした艶やかな女性が立っていた。
息苦しさにセラが咳き込むと、システィナが気付く。
それをクラウトが感じて体を離し、その女性を見上げた。
「…もしかして…と思ったけど…」と女性は、クラウトの前を通り過ぎ、アサトの傍まで来る。
目を閉じていたアサトは、異変が起きた事に気付くと、仲間の安否を確認しようと振り返った時。
「やっぱりぃ…、坊やだったのねぇ~~」と、その女は、艶やかな言葉を発しながらアサトの前に立った。
その姿を見たアサトは…。
「ク…クレアシ…アン…」と言葉にする。
その言葉にクラウトが立ち上がると、「クレアシアン?」と言葉にする。
木にもたれていたタイロンが、「荒れ地の魔女か!」と言いその女性を見た。
その言葉を聞いて、小さく、そして、うっとりとした笑みを見せて…。
「あらぁ?みんな私の事…知っているのねぇ~」と言い、肩越しに一同の気配を感じる。
アサトの背後には、今だ吐き続けられている炎が、何か見えない壁にぶつかり上下左右に飛散していた。
その明るさがアサトの背を赤く、そして黄色く、アサトの姿を浮き上がらせて見せている。
「ドラゴンがぁ…こっちに飛んで行ったからぁ…何かあると思って来てみたらぁ…、坊や達だったのねぇ~」と言い、ゆっくり、そして、艶やかにアサトの傍に進んだ。
アサトの横に立ち、アサトを上から下までゆっくり、そして、うっとりとした表情で見ると、左手を股間へと走らせる。
その行動にアサトが小さく体を動かすと、「ふふふふっ、かわいいぃ」と言いながら、股間に持ってきた手を、アサトが持っている長太刀の柄に置いた。
「わかったわぁ…」と言い、ゆっくり、そして、しっとりと進み振り返った。
ジェンスが立ち上がると、システィナがセラを抱きしめながら起き上がった。
アリッサもゆっくり立ち上がると、ケイティもアサトの傍で立ち上がる。
その一同を見て、「あらぁ…見た事無い人ばかりねぇ…」と言い、アサトを見ると、「仲間…増やしたのねぇ…」と言いながら来た方向へと進んだ。
ドラゴンの炎が止む…。
クレアシアンはゆっくり振り返り、小さく鼻で笑いながら、システィナの方へと進んだ。
その前にクラウトが立つと、「大丈夫よ…」と言い、しなやかに腕をあげてクラウトを横に押し、システィナの前にしゃがみ込んだ。
「あら…可愛い子…、あなたの…妹さん?」と聞くと、システィナはゆっくり首を横に振る。
それを見て、「そうでしょうね………フフフっ」と笑みを見せながら、セラの頬に指を優しく当てると、その肌の感触を感じる。
その行動に、システィナがセラを強く自分の方へと引き寄せた。
「あらぁ…」と言うと、うっとりとした笑みを見せて。
「…怖いわぁ…」と言いながら立ち上がり、「銀色の狐……」と言うと、そばにいたクラウトを見て、「あなたは……賢そうねぇ…」と言葉にする。
その場で、一行をゆっくりと見てから、「なかなか面白そうな組み合わせね…」と言い、クラウトを見ると、「あなたが、坊やの参謀…ってところかしらぁ…」と目じりを下げて言葉にする。
その言葉にメガネのブリッジを上げる。
「…あらぁ、思っていたよりわかりやすい反応ね…」と言い、小さく微笑むと振り返り、アリッサとタイロン、そして、ケイティを見て、「そう言う事ね…」と言い、再びアサトの方へと進んだ。
その向こうで、再びドラゴンが大きく息を吸い込んでいる姿が見える。
その姿を見て、眉を上げてみると、小さな笑みを見せてからアサトを見て、そして振り返り、クラウトを見た。
「…あなたと…あなたと……、…あなた…。」とタイロン、アリッサ、そして、ケイティに指を指すと振り返り、アサトの長太刀に指をさして…。
「そして…坊や…」と言うと、ゆっくり振り向き、妖艶な笑みを見せながらクラウトを見た……。
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