第38話 紅きドラゴン……再臨! 下
林を抜けると、戦場の音が一層大きく、また、その迫力が伝わって来た。
林入り口に馬車を止め、数十メートル進んだ先には、直径数キロの拓けた場所が眼下に見えた。
30メートルほど下に見える場所は、大きく窪んでおり、そのくぼ地に入るために作られたであろう、脇が切り立っている道が数か所見えた。
向こうに見えるその道の一つが大きく崩されており、その場所を、巨大なリベルが通って来たと分かる形跡が見えた。
アサトらが通って来た林が、このくぼ地を取り囲んでおり、アサトらと同じく見学に来ていると思われる者らが数十名確認できた。
拓けた場所では、すでに戦闘が行われている。
崩れた道から、数百メートル進んだ先にうずくまっているように見える、赤黒い色をしている生き物の塊…が見え、その塊や周辺から真っ黒い煙を上げているのが確認できた。
「リベル…」とアサトが、おもわず言葉にした。
一同が戦場を見ながら生唾を呑んでいる。
戦場は多くの死体に覆われ、秘密兵器と言われている大型弩砲も20台中、半数以上が燃やされていた。
お供のマモノが狩猟者や兵士らと交戦している。
足を切られて動けない者、腕を切られて逃げ惑う者、首を切られる者…。
また、凌辱されている者もいたるところにいた。
緑地と言われる大地が赤く染まっている。
その中にひと際大きな塊、先ほど確認した。
『幻獣 リベル』…。
その体には大きな矢が数十本刺さっており、右の目に一本刺さっているのが確認できた。
動かないが息はあるようである。
交戦が終わったのか、こちらに兵士と狩猟人が撤退してくるのが見えると、色とりどりの光が緑地一杯に現れ、空気を裂く音と共に轟音を轟かせながら、リベルのお供を焼き尽くし始めた。
魔法攻撃、それも火焔魔法を主力とした攻撃であろう、炎に焼かれたお供らがバタバタと倒れ始めると、リベル周辺にいるお供らが敗走を始めていた。
魔法攻撃は止む事をしらない。
ありとあらゆる炸裂魔法系や爆裂魔法系がリベル周辺を焼き尽くしていた。
「…ここまでは…、勝ちと思っていた…」とクラウトが言葉を発する。
アサトは振り返りクラウトを見ると、クラウトは戦場ではない空…それも、
アサトもクラウトの見ている方向を見る。
あの時も…インシュアさんが見つけたドラゴンの姿…それは、
しばらく続いた魔法攻撃が止むと、雄叫びと共に兵士と狩猟者が緑地中心へと進み始めた。
再び、大音声が緑地を包み、駆ける音と武器や防具が交わる音が、空気を振動させるような感じで伝わり、大地も震えていた。
弦を弾く音と共に空気を切り裂く小気味いい音が聞こえると、肉に何かが刺さる鈍い音が幾重にも聞こえて来た。
アサトは、音の方を見る。
リベルに弓が雨のように降り注ぎ、その中にはひと際大きな矢が数本振り降りている。
矢の刺さった場所から流れる血。
よく見ると、前足が氷で凍らされているのがわかった、それで進行を止め、大型弩砲で攻撃をしたのでないかとアサトは思った。
すると、「リィベェルゥのぉぉぉぉぉぉ首を取れぇぇぇぇぇぇぇ」と大きな声が響くと、一斉にアサトらの下から大量の身軽な兵士や狩猟者が縄や梯子、大きな杭と、3人がかりでのこぎりのような物を掲げている姿が、何十と見え、大きな雄叫びをあげながらリベルへと向かって進のが見えた。
その時!
「全員…戦闘態勢…。状況を見ながら離脱する!」とクラウトが言うと、「システィナさん、セラを!」と声をかけた。
その言葉に、アサトとケイティがクラウトを見てから、クラウトが見ていた方向を見た。
そして…。
「なんか…飛んでくる!」とケイティが指をさして言葉にする。
「ドラゴン!」とアサト。
タイロンとアリッサが盾を構えながらその方角を見る。
「やはり…来たか…」とクラウトが言葉にした。
真っ青なそらに大きな翼がゆっくり上下している姿が見える。
何度か上下をさせると、羽ばたきを止め、慣性飛行をとる。
その姿は、近づくにつれはっきりと見える。
大きく稲妻のような角を持った真っ赤な体。
赤い鱗に覆われた爬虫類のような体に大きな翼。
その翼の中ほどには、4本の長く細いモノが見える、それが指なのであろう。
腕に翼が生えたような具合に感じられる。
威圧感からなのか、その大きさは、想像をはるかに超えている。
長い尾が垂直に伸び、尾の付け根近くには、太い脚の腿がある。
足全体は太ももと思われる場所から先まで太くて大きい。
その先端にある足の指も4本。真っ黒くとがった爪が、陽の光を反射させていた。
その巨体がアサトらの頭上を通り過ぎる、その時に生じた風の流れに一同はバランスを失って、悲鳴や耐える声を発しながら地面に腰を落とした…。
紅きドラゴン…再臨!
アサトは、その威圧感に手の震えが止まらない事に気付くと、掌を見て引きつった笑みを見せた。
その隣で、ヘタっと腰を落としているケイティも、引きつった笑顔でアサトを見る。
最初に立ち上がったのはタイロン、盾を持つとドラゴンの行方を見ている。
リベルの頭上で旋回を始めるドラゴン。
アリッサがタイロンの鎧を掴みながら立ち上がろうとすると、タイロンが手を貸して立たせ、並んでその光景を見た。
すると、二人の体の向こうが明るくなり、その姿を浮き立たせた。
アサトはタイロンとアリッサの背中を見ながら立ち上がり、ケイティに手を貸して立ち上がらせると、地面を壊すような勢いのある咆哮が、空気、そして、地面全体を揺らした。
その咆哮は、『オークプリンス』の比ではない!
再び、タイロンとアリッサの向こうが明るくなると、悲鳴にも似た断末魔が緑地一杯に広がり聞こえて来た。
と思っていると、近くから、弦を弾く音と共に、空気を斬るような小気味いい大きな音が、幾重にも響き渡る。
その先には、巨大な矢が、リベル、そして、紅きドラゴンへと向かい飛んで行く。
システィナがセラを立たせ、手を繋いでクラウトの傍に着く、ジェンスもクラウトの隣に立ち、その光景を見ている。
解き放たれた矢は、リベルと紅きドラゴンに降り注ぐ、アサトらの下から聞こえる矢を放つ音は、時間を置いているが、止む事無く放たれている。
肉に刺さる音が聞こえる、降り注ぐ矢を回避し始めたドラゴンは、何度か翼を羽ばたかせると、頭を横に向けて低空でその場を離脱し始めた。
その後ろ姿を見て喚起している声が下から聞こえる。と、その時、ドラゴンが急上昇を始めた。
その光景を追っていたアサト一行。
高く、高く上昇したドラゴンは、羽ばたくのをやめると、ひらひらと舞い降り始める。
それを見たクラウト。
「全員、退避!」と声をかけ、その場を離脱する号令をかけるが…。
急降下を始めたドラゴンは、地面すれすれまで落下するのに時間はかからなかった。
地面近くで大きな翼を広げると、その風圧が、立ち残っている大型弩砲をすべてなぎ倒し、その周辺にいる者を飛ばした。
アサトらも風圧に巻き込まれ後方へと飛ばされる。
システィナは咄嗟にセラを抱き、クラウトは、そのシスティナを抱いた。
アサトはケイティを引き寄せ、タイロンとアリッサは大きく後方へと転がり、ジェンスは横になって地に伏せている。
風圧が止む事は無い、ドラゴンは、その場でホバーリングをしている。
アサトはケイティの無事を確認してドラゴンを見た。
すると…!
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