第36話 そのモノの名は…『オークプリンス』 下

 『オークプリンス』の前にセラが立つと、銀色の布袋から黒いコインを出し、そのコインに呪文を唱える。


 「漆黒の闇に封じられし、偉大なる力、我の証を取り込み、我が与える命名に、その命を注ぎ、永遠の服従を誓い、いついかなる時でも我に力を貸すことを誓え!」


 セラの言葉に、『オークプリンス』は片膝をつく、すると、セラは振り返り、「じゃんぼぉぉぉ」と声を上げる。

 タイロンは自分に指を指すと、隣で「なんか…高いんじゃない?」とアリッサが言う。

 その言葉に小さく笑いながらセラの元に駆けだす。


 「ジャンボ、抱っこ!」とちょっと恥ずかしそうに言葉にすると、「はいはい…」とタイロンはセラの脇に手を入れて高く持ち上げた。

 セラは目を閉じ、コインに印を刻むと、『オークプリンス』の眉間にある、深緑の炎が揺らめいているひし形の場所にコインを当てる、すると、そのコインが、その場所から体の中に溶け込んでいった。


 それを見て、「今日から、あなたは『』!この命名に我に永遠なる忠誠を!」と言うと大きく頭を垂れ。


 「我が名は『』。この忠義、契約者の命尽きるまでこの石にある事を宣言する!」と言葉にした。


 すると、グンガらがミーシャの傍に走って来て…。

 「なぁ~、おれもあれ欲しい!あれ欲しい!」と指を指して言い始める。

 「なぁ~あれ…どこで売ってんだ?」とガリレオが聞いて来た。

 その二人を見て、「…なんでうちのチームは…こんなのしかいないの…」とこめかみに青筋をたてながら言葉にした。

 そのそばでオデコに手を当てるフレディ…、二人をレディGが見て爆笑している、

 その後方でグラッパはあくびをしていた。


 『オークプリンス』を石に返したセラの元にケイティが近付いて抱きしめ。

 「セラッチ、これで仲間だよ…みんな、セラッチを守ってくれるから…」と言うと、セラもケイティの腰に手を回して「ウン…」と小さく頷いた。

 その場所にシスティナ、アリッサ。

 そしてアサトとクラウト、ジェンスが来ると笑みを交わしあう。


 ほどなくすると、角笛の音が何重にも響き渡って来た。

 その音を聞いたアサトらは駆けだし、その場から少し行った林を抜け、『グルヘルム』が見渡せる小高い丘へと着き、その光景を目にした。


 『グルヘルム』から多くの兵士が東南の方角に行進してゆく姿が見える。

 その姿は、先頭を騎馬隊が進み、後続に大きく長い盾を持った盾持ち騎士が続いている。

 その後を、魔法ローブを着た者らが長く太い線を作り出して進んでいた。

 しばらく、白い者らが過ぎた後に荷車が数台出てくる、その荷車には白い布が被せられており、布には大きなシダの紋章が描かれていた。


 その荷車が数十台出てくると、先ほどとは違う、色とりどりの様相を見せる者らが、ぞろぞろと、その線の後を進んでゆく。

 先頭は、はるか先であり、門からは、途切れる事無く、兵士以外の者らが出てきていた。


 「あんだありゃ?」とグンガが声を上げると、その隣で、「すっげぇ~、どっからこんなに集まったんだ?」とガリレオが声を上げた。


 「討伐戦だな…今日か…」とフレディが言葉に出すと、その隣でクラウトがメガネのブリッジを上げていた。

 アサトはグンガの傍につき、「討伐戦のようです、行きますか?」と聞くと、腕組みをして、「行かねぇ」と答える。

 その答えに少し驚いた。


 ぶっ飛ばすと叫んでいた者が、ここにきて急に?怖気ついているような感じには見えないし、我先にって思っていたけど…。


 目を細めてその列を見ているグンガの目は…。

 「ありゃ…どんな頑張ったって、ぶっ飛ばせねぇ~からな!」と言い、アサトを見てニカっと笑った。

 その表情に、「へ?」とアサト。

 グンガの隣のガリレオも、「あぁ、ありゃ…無理だわ!」といいグンガの背中を叩き、「まだ、もう少し小さかったら考えたけどな!」と言う。

 「…ってか、俺があのくらいデカかったらぶっ飛ばせたのに!」とグンガは、大きな声で笑い始めた。


 すると、そばにミーシャが来て、「私達、一度見に行ったの、リベル」と言うと、笑みを見せて、「そしたら、この子らが即答したのよ、『無理だな』って」。

 「そうそう、ぶっ飛ばすつもりで言ったんだけどな…ありゃ…無理だわ!」と言うとアサトを見て。


 「行って来い!見るだけタダだ」とニカっと笑みを見せると振り返り、「んぢゃ、もぬけの殻になった『グルヘルム』を襲いに行くぞ!」と言い大きく笑って見せた。

 その言葉に、「嘘よ!」と言うとミーシャは馬車に戻る。


 ジェンスが寄って来て、「リベルって?」と聞いて来た。

 アサトはジェンスを見て、「幻獣だって…僕も良く分からないけど…、これから見に行く事にはなっているんだ」と言いクラウトを見た。

 クラウトは目を細めて行列を見ている。

 なにか思い出すのがあるのだろう…とアサトは思っていた。


 『グルヘルム』は、人口40000人程で『デルヘルム』と同じ雰囲気の街であった。

 高さ3メートル程のレンガの壁で周囲を囲い、その中には、多くの居住区や商業区、工業区などがはっきりとわかるように区分けされているようである。


 換金場所まで荷物を運ぶ手伝いをした時、幻獣討伐の話しを聞いた。


 どうやら、1日あとにズレたようである。

 誘導隊が思ったより機能が発揮できておらず、また、お供の軍勢も増えていたとの事で、大型弩砲を20機を、急遽、一昨日よりリベル方面に数キロ移動をしているようであった。

 ざっとした地図を見せてもらい、戦場がどの辺りかを聞いた。


 ここより、14kmほど南東のへラベル緑地と言う場所のようである。

 拓けた土地であり、遮るモノも無く。

 大型弩砲を、20機を移動させるには、そこまでが限界であると言う判断のようだ。

 その緑地は窪みとなっているとの話である。


 参加しない旨を言うと、見学なら、そのへラベル緑地の手前の林を抜けた場所から、一面を見渡せると言っていた。

 戦場がそこになったおかげで、見学をする者も増えているとの事でもあった。

 ただ、戦闘開始の時間は聞かされていないと言う事で、場所が場所なだけに、前日から乗り込んでまで見学をしようとする者はいないようである。


 一通り話を聞いた後、出発は夜明け前にと言う事をクラウトが提案した。

 もしかしたら、夜明けと共に奇襲攻撃をする可能性があるとの事であり、ここから3時間ほどかかると思われるので、出発は午前2時となった。

 なのでアサト一行は馬車で寝る事になった。

 なぜか、グンガとガリレオも馬車近くに寝ると言う。


 ミーシャは、「」と言っていたが…。


 『グルヘルム』の酒場で夕食を食べると、アサトら一行とグンガ、ガリレオ、グラッパとフレディは馬車に向かった。

 ミーシャとレディGは、宿屋へと泊まる。


 ミーシャらとはここでお別れだ。

 最後の挨拶をしていると、ミーシャがシスティナになにか話している、その言葉に小さく頷き、大きく頭を下げた。


 何を話していたか聞きたかったが…。


 馬車に着くと、グンガとガリレオは所かまわずに横になり寝た。と言うか…はや!


 フレディは、なぜか馬車の下に寝る。

 タイロンは遠目のテントに入ると、アサトとジェンス、クラウトが大きめのテントに入り、グラッパもグンガらの近くで横になった。


 …そして、みな眠りについた…。

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