第25話 錬金術師の弟子 上

 アサトは太刀を抜くと、ポドメアへと渡した。

 ポドメアは、その太刀を剣先から柄頭までゆっくり、そしてじっくりと見る。


 「あの…聞きたい事が…」とクラウトが 声をかけると、「ッシ、少し待ってな」と言い、クラウトの言葉を制止させた。


 しばらく見ていると、小さく頷いて、「見えない刃こぼれがあるね…、まだまだ刃の扱いが出来ていない証拠だよ。」と言い、太刀をアサトに返して、「まだあるんだろう…。持ってきな。磨きなおしてやるから」と言葉をかけて、「大事にしているのは分かるよ」と付け加えた。


 そして、クラウトを見て、「なんだい、むっつりメガネ」とニヤニヤしながら言うと、そばにいたケイティが小さく笑う。

 「…」と、少し無言でケイティを見てから

 「…色々聞きたい事があります」と言葉にする。


 「いやだね…わたしと愛おしい、エルドアのなれそめか?…それはな…」と話そうとしているポドメアに、メガネのブリッジを上げて

 「それは…」と言葉にしたが、ポドメアは構わずに

 「出会ったのさ!ポドリアンのおじさんとグルヘルム近くにある村に買い付けの依頼を受けてね…。その時にそこで鍛冶をしていたのがエルドアなのよぉ…、もう一目惚れでね…わたしが?…ちがうわ!エルドアよ、エルドア…。それで、もうアタックアタック…ってアタックされて…1時間でもう…」と言うともじもじと始めて…。


 「しちゃったのよ!」と頬を赤らめた。

 「したって…」と興味津々にケイティ。

 その隣でうつむきながら舌打ちをしているクラウト。


 「したって…決まっているじゃない!」とポドメア。

 その言葉に、「キスですか?」とケイティ。

 「もう、お子様の発想はこれだから嫌なのよね…」と言うと、人差し指の先と親指の先を合わせて円を作ると、そこに人差し指を入れたり出したりして…。


 「これよ!こぉ~れ」とニカっと笑みをみせる。

 その行動に、「え?エッチ…しちゃったの?」とレディQが前に出てくる。

 「早ッ」とケイティ。

 その隣で眉間に皺をよせているクラウト。


 「そうね…。もう彼ったら…激しくて、激しくて…」と言いながら頬を赤らめていると、「もうわかりました。」とクラウト。

 そのクラウトを見て、「わたしらのなれそめを聞かないの?」とポドメア。

 その言葉に、「結構です。僕が聞きたいのは、アポカプリスの鱗と錬金術師の話しです。」と言うと

 「あ~、それ?残念だけど知らないし、興味ないから」と言い、レディQとケイティを見ながら…。


 「私が興味あるのはエルドアだけよ、もうほんとむっつりメガネは…」と言うと 「そうそう、むっつりだから…」とケイティ。

 「それにおこちゃま趣味だし」とレディG。

 その3人は顔を見合わせて怪しく笑っていた。


 「じゃ、僕、太刀取ってきます」と、アサトは言い馬車に向かう。

 「そうね。持ってきな。それに鱗は分からないけど、錬金術しなら工房の奥にある扉から入って行けば、引きこもりの錬金術師がきょうもなにやら奇妙な実験しているから」と言い、ケイティとレディQの腰を抱いて。


 「それじゃ…、わたしの話しの続き教えてあげるよ」と言いながら工房への道を進み始めた。


 アサトが使用していた太刀、もう一本と長太刀を持って来ると、ポドメアに見せる。

 クラウトらは、アサトが来るまで工房付近で話をしていた。


 その内容は、クラウトらがチームを組んだ経緯が主のようであり、『ギガ』グールの討伐と『オークプリンス』討伐の話しは、フレディらがかなり興味を持っていた。


 その中には、グンガやガリレオの姿は無かった。

 1~2キロメートルは飛んだんじゃないかなと、セラが笑って言っていた。


 それで…いいのかな。


 長太刀を見て、「…あんた、これで何を斬った?」と言葉にする。

 「あぁ~~、オークプリンスを…」とアサト。

 「オークか?」とポドメアが言うと、「オークでも、化け物クラスだよ」とケイティが付け加えた。

 その言葉に、「とにかく…、刃がボロボロだよ。これは時間がかかるね…。でも安心しな!ちゃんと研いでおいてあげるよ。」と言うと、大きめの研ぎ石を持ち出し、長太刀に水をかけると刃を研ぎ始めた。


 するとポドメアの後ろから大きな人間の男、セラの父親と同じくらいの髭面の男が現れる。

 その男を見上げて、「おっきい…」とケイティが言葉にした。

 その言葉にレディGも見上げて、「たまげた…」と言う。


 たしかに近くで見ると、タイロンよりもがっしりしていて、身長も若干大きいような感じがしていた。

 「この人が、うちの愛しのエルドアよ」とポドメア。

 そのエルドアにケイティとレディGが、大きく敬礼を何故かしている。


 「お前らの武器も持って来い。研いでおいてやる。」と言うと、セラの父親もその後ろに現れた。

 その姿をみている一同に、「ほら!はやく持ってきな!一流の鍛冶職人が研いでくれるって言ってんだから!」とポドメアが捲し立てると、タイロンとアリッサ、グラッパが武器を取りに馬車に、ケイティとレディQは腰にあった短剣を出す。


 その短剣を見て、「ナガミチさんが依頼した短剣じゃないか?」と言い、その短剣を見た。

 「まだ使ってないだろう」とポドメア。

 その言葉に、ケイティが少し上を向いて考えると、「そうだ!まだ使ってないや!」と言い、短剣をとり鞘に仕舞うと、クラウトのそばに行き。

 「鍵!」と言う、その言葉に、バッグからカギを出すと馬車にかけて行った。


 「まったく…」とクラウト。

 その様子をアサトが見ていた。


 「…懐かしいね…この刃の反りもこの輝きも…ナガミチさん…亡くなったんだろう」とポドメアがしみじみに言う。

 その言葉に「ハイ…」と答えると。

 「あんたは、どの狩猟者よりも優遇されているよ、専用の武器に専用の戦い方…そして、技」と言いながら長太刀を磨き始めた。

 「それはね…誰よりも優遇されている分、誰よりも責任あるって事なんだよ」と言い、刃を上げて研ぎの状態を見る。

 「妖刀は…、魔物。」と言うと、再び刃に水をかけて研ぎ石へと置くと「その事は、忘れたらイケないよ」と言葉にして刃を研ぎ始めた。


 妖刀は…マモノ。

 そして、誰よりも責任ある事…。


 その言葉の重さがわかるような感じがしている。


 それは、太刀と言う物の存在やこの職種。

 ほかの者は、聞いた事のある職種で、何処にでもある武器を所持しているが、自分がついている職種は、誰も名乗っていない職種であり、持っている武器は、何処にも売ってはいない武器である。

 それが、この世界で唯一自分だけに与えられた職種であり、武器である。

 その名を広げる…とまでは言わないが、その職種や武器に恥じないような行動、戦いをしなければならない…。

 それが、ナガミチへの感謝の気持ちとお礼になるのではないかと思っていた。


 その重さは…。


 ポドメアが真剣に刃を磨いてくれている姿に、ヒシヒシと感じていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る