第22話 『夜の王』と戦った、銀色の召喚士 下

 その内容は…。


 その若者は、目つきの鋭く、どことなく異様、そしてクールな表情の少年であった。

 その者は、この地に誘われたその日に、『デルヘルム』から壁を越え、このルヘルム地方を彷徨ったらしい。

 その時に一緒に誘われた者もいたようだが、その者らとは一緒に行動はしなかったと言うか、する気も無かったようである。

 何故かは…、彼は人との付き合い方を知らない…出来ない者だったのかもしれない。


 この地に行き着いたのは、誘われてから4か月後と言っていたが、定かではない。

 ただ、そのくらいの時間をかけて、さまよい、この地に行き着いたようである。


 正確に言えば、この地に行き着いたのではなく、この地で死にかけていた。

 それをのは、この者だけだったらしい。


 その少年は呪われていた。

 その少年の右腕が…石化していたのだ。


 その少年の話しを聞くと、壁を越えた後、ゴブリンや亜人らに襲われ、自分を守るために争い、そして生き抜いた。

 その生活は、襲おうとして来るモノを殺し、食料を狩り、街には入らずに村や野営をしていたようである。


 ここがどこで、自分が誰であるかもわからない。

 あてもなく彷徨い、何も考える事無く、ただ…、欲求が求める事、食べて寝る…その生活を繰り返している内に、この近くで石化した人間に襲われたようだ。


 その石化したモノに、素手で傷を負わされたことにより石化が始まる…。

 石化が始まりや広がる速さは10人10色だが、彼は、この地で発見される1週間ほど前に襲われ、その石化は、すでに右腕に兆候が見え始めていた。


 その後、老人とその少年が石化人間を討伐したようだ。


 それから数か月、この家で暮らした少年は、『デルヘルム』にいる、最強と思われる男の元に弟子入りをする為に帰った。…と言う話であった。


 「それが…」とクラウト。

 その言葉に、「君にはわかると思うが…」と言うと、クラウトは顎に手をあて目を閉じて考える、そして、「あなたがここに来た理由は…」と言い、目を開け部屋を見渡すと…、「そういう事だったんですね…」と言葉にした。


 その言葉にアサトはクラウトを見る。


 「彼女がここに居る理由は分からないが…、なんとなく、あなたの状況がわかった。そして、石化した少年は…」と言い、アサトを見て、「アルベルトだ!」と言葉にした。


 その言葉に、アサトも薄々感じてはいた。


 「そして…、あなたも石化している」とその影に向かって言葉にする、と…。

 そのモノから何かが投げられ、投げられた何かがクラウトの足元で止まった。

 そこにあったのは光沢のある石、「ドラゴンストーン…」とそのモノは言いながら立ち上がり、こちらに向かって進み始める。


 「…この地では、その石を黒曜石と言う」と言い、明るく、その影がはっきりわかる場所まで来ると、その体は…。


 顔の右下、1/3の銀色の毛が失われ、肌が石化した老いた銀狐の亜人が現れた。

 瞼も落ち、うつろな眼差しである。

 それは老いでそうなったのか、石化で体力を失ってそうなったのかは定かではないが、疲労とも老いともいえるような、生気が失われつつあるような瞳であった。


 「それを…」と手を差し伸べる老人。

 その行動にクラウトは黒曜石を拾い上げ、一度、じっくりと見てから老人へと手渡した。


 「傷をつけられなければ石化は移らない、これは皮膚が石化する呪い…、ヴェラリアの呪いと言われる」と老人が言葉にすると、「ヴェラリア…古の技術…、高度な精錬方法もった産業都市だったが、アポカプリスに一夜にして焼かれ、一夜にして廃墟となった街…そこには、今もなお石化した人間が捨てられているときいている」とフレディ。


 「…その石化した人間が…ヴェラリアの鍛冶職人らが生気を失う前に、アポカプリスで焼かれ固まった黒曜石を使って作り上げた武器…。ヴェラリア鋼を使った幻の武器が7本…。それが、唯一夜の王と戦える武器…と言われている」とミーシャが言うと、銀狐の老人が笑みを見せながらパイプを銜え、黒曜石を掌で上下させながらロッキングチェアーへと進むと腰を沈めた。


 「…この世界の事…学んでおるな」と言うと小さくため息をついて、「わしとその少年が討伐した者は…、『デルヘルム』にいるポドリアンと言うドワーフの父親だよ」と言葉にした。

 その言葉に、アリッサ、ケイティ以外の一同が息を飲んだ。


 「ポッドさんの…」とアサト。

 クラウトはメガネのブリッジをあげると、「…参ったな…」と言葉を漏らす。

 「…なんで…」とミーシャが言うと、フレディは、頭を下げて髪を耳に掛けた。


 「わしらは、40年前に…、ここより北の国で『夜の王』と一戦交えた…」と言葉にすると、ロッキングチェアーを動かし始めた。


 「その当時のわしらは、7名…。まだ戦力の整っていなかった夜の王の軍は、私らにとっては敵ではなかった…。夜の王の復活を阻止した我々だったが、その落とし穴は…。夜の王は、戦力の中に石化人間の屍をも入れていた事だ…。死んでいるので大丈夫と思っていたが…、それは、わしらの過ち…。わしらは、知らぬ間に呪いにかかり、石化が始まってしまったのだ…。夜の王は、消えた…が、コアと称されるモノを発見することはできなかった。夜の王は復活する…だが、それまで生きている自信が無かった…。我々は、このヴェラリア鋼の武器と黒曜石で石化の進行は止めていたが、我々の功績を聞きつけた者らが、我々の武器を奪うために襲うようになり、北の国での逃避は限界を迎えた時であった。ジアの国で、リメリアからの帰りのポドリアン達と出会い、そして、この地へと移住してきたのだ…」と言い、パイプを吸い続ける。


 「ただ、その呪いは、進行を止めるのではなく、遅くさせているだけと知ったのは、この地に来て5年ほど経ってからである。ドラゴンストーンも時間が来ると割れ、このドラゴンストーンの数も減ってきていた。ある日だ…残り少ないドラゴンストーンと短剣を残して、ポドリアンの親父は、この場所から消えたのだ…。彼は…死を選んだのだろう…。そして、月日が経ち、少年とわしで…討伐をした…。」


 「そういう経緯でここに…」とクラウトが言葉にすると…。

 「そうだ。詳しく言えば、わしらは、ポドリアンの親父の故郷で半年暮らしていたが、そこにも追っ手が来てな…そこを抜けだした、その時に、ポドリアンの弟とその娘も一緒だったんだが、その弟は病にかかり、ジアにいい祈祷師がいるとの事で向かったが…ダメじゃった…。そして、その姪もこの地に来て、ポドリアンと太刀を鍛え、そして、今は、この場所で生きている…」と言うと、アサトとクラウトは顔を見合わせて頷いた。


 やはり…ここにいた…。

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