第9話 湖の街のかわいい厄介者… 上

 『アウラ』の村、ここは湖に面した、とても美しい村である。

 人口も5000人程で、家々も漆喰の壁で作られており、屋根も統一したオレンジ色の瓦で出来ていた。

 ちょっとした避暑地のような感じである。


 高さ2メートル程の壁で囲われており、外周約3kmのその村には、様々な農作物が生育されているようである。

 ここには宿泊施設が整ってあり、アサトらも所持金があるとの事で、湖のほとりにあるコテージを借りた。

 1階はリビングとキッチン、2階に3部屋があり。女子3人で1つの部屋を使い、クラウトとアサトが1部屋づつ使う、そして、何故かタイロンは外のテントで寝る事になった。


 …なんか…わかる…。


 コテージには、湖を一望できるテラスがあり、その見晴らしは最高で、コテージの外には、キャンプとバーべQが出来る場所もあった。


 2泊3日で、一人金貨1枚と銀貨60枚、6人なので金貨、約10枚を使った。

 クラウトは、『オークプリンス』の慰労だよ、と笑っていた。

 少しは贅沢してもバチは当たらない。と言う。

 ここに寄る事を考えた時から、ここに泊まろうと思っていたような行動であった。


 滞在時間は短いが、いい骨休めになりそうである。

 翌日は、噂の生物の討伐に行ってみようとの事であった。

 とりあえず、村の人に話を聞くと、そんなに困ってはいないようであるが、ただ、奇妙な笑みで、がんばりなと声をかけてきてくれた。

 どんな動物?いや、魔物なのだろう…。

 被害者は出ていないが、農作物に被害を出している…。

 そして、ある老人が言っていた。


 そのモノは…。


 翌日、まずは、農作物の生育地となっている東側を散策してみる、所々、作物の無い場所が見受けられた。

 すると、農作業をしている村人を発見、その者から事の事情を聴いてみる。

 村人の話しだと、そんなに困った事にはなっていないとの事、ここを荒らしているのは『湖イタチ』と言うイタチのようである。


 クラウトは考えていたが、初めて聞く生物と言っていた。

 村人は笑いながら「捕まえてきたら…、一匹につき、ここの作物を10Kgあげる」と言う…、10Kgと言えば…。

 この畑には、野菜の他に気になる黄色い房の果物が実っている木もあった。

 その果物はバナナと言うようである、そして、キウィと言う甘酸っぱい果物が実っている背の低い木もあった。


 「よっしゃ!キウィ…あたし大好きだから!ジャンジャン狩ってきてやるよ!」とケイティは村人に親指を立てていた。


 …そっか、イタチか…。とアサト。


 意気揚々にケイティは先頭にその場を離れ、イタチと思わしき小さな足跡を追って村を出た。

 村から少し離れた場所に森がある。

 湖に面した森だ。

 一行は、ケイティを先頭にその森に入る。


 「…あたしが偵察。アサトは距離をおいてついて来て、みんなは待っていて、あたしが独り占めするから」とにんまりとした表情を浮べた、そして、なぜかアサト…、と言うか、アサトは分かっていた。

 あの夜の事。そして、イタチを捕まえるのも…アサトである事も…。


 …ハァ…。


 4人は顔を見合わせてから、クラウトはため息をついて頷き、アリッサとシスティナは小さく笑みを見せながら頷いた。

 タイロンはその場に座ると、大の字をかいて横になった。


 「…じゃ…行ってきます…」とアサト、「行ってらっしゃい…」とシスティナとアリッサが声をそろえた。

 「…とりあえず、何も無いと思うが…気を付けて」とクラウトが言うと、その後ろのタイロンは手を挙げただけであった。


 森を進む…ケイティは、アサシンの技能を使って静かに、そしてゆっくりと足跡を確認しながら進んでいる。

 離れた後ろでアサトは、ケイティの小さな尻を見ながら進んでいた。


 すると、ふいに止まるケイティ、そして振り返ると冷ややかな目を向け、「…どこ見てんの?」と言う、その言葉に驚きながら、「…え…足元だよ…」と答えるアサト…。

 「ふぅ~~ン。まぁいいわ、あんまり近づかないで、なんかいやらしい視線感じるから…」と言うと、再び前のめりになりながら進み始めた。


 …なんか…お尻が…。


 と思いながら距離を取って進んでいると、いきなり止まり、手の平をこちらに向けアサトを制止させる。

 その掌を見てアサトは立ち止まると、ゆっくりケイティは藪へと消えて行った。


 その後ろ姿を見ているアサト、もそもそと藪の音が聞こえる。

 …そして、止まる…、止まる…、止まる?

 数分待ってもなんの反応が無い。

 アサトは目を凝らしながら何かの合図を待っていたが、反応が無い。


 ここでケイティを呼んだら…怒られる可能性も…ある…どうしよう…でも、動きが無い…と言う事は……。


 アサトは、小さく頷いた。

 「なにかあったら嫌だし…行ってみよう…」と意を決して、ケイティの進んだ藪に入る、緑の葉が八方に有るが、確かにケイティが進んだと思われる道はついていた。

 そこを数メートル進むと、ケイティの天然パーマが見えた。

 藪に潜んで動かないケイティは、藪の中から何かを見ている。

 そのそばに来て声をかける、「ケイティ?」と、すると、その声に振り返るとケイティの瞳が潤み、崩れた笑みを見せながら。


 「…めっちゃ…かわいいい…」とにんまりとした笑みを見せた。


 え?とアサト。


 ケイティが見ていた方向を見てみると、体長1メートル程のイタチが立ってこちらを見ている。

 その瞳はつぶらな瞳で、鼻をピクピクとさせ、奪って来たと思われるバナナを頬に当てて頬ずりをしていた。


 …ってか…頬ずり…って、え?…でも…かわいいかも…。


 と見とれている2人。そして、こちらに気付いているのか、しきりにこちらに向かって小さく黒い鼻をピクピクとさせている…。と思ったら…、こちらに向かって歩き出した。

 それも………。


 「歩いてるよ…それも…立って…」とキラキラした瞳でケイティがアサトを見る。

 アサトも…イタチって…2本足で歩くの?と思っていると、目の前で立ち止まり、こちらを伺っているようだ…、しばらく鼻をピクピクさせていると、ケイティがたまらず…。


 「いっやぁ~~」と掛け声を出しながら藪から飛び出す。が、イタチは少し後ろに2・3歩下がっただけである、そして、イタチとケイティが向かい合ったままで立ち会った。

 すると…、イタチは、ケイティをつぶらな瞳で上から下まで見ると、手にしているバナナへと視線を移す。


 「おいでぇ~」と手を広げているケイティ。

 それを一度見てから、再びバナナを見る。

 「どうしたのぉ…なにもしないよ…おいでぇ~~」と猫なで声で誘うが、イタチは小さく首を傾げてケイティを見ると、再びバナナを見た。


 …え?なに?とアサト。


 すると、ケイティがゆっくり近づいて、そして、抱え込むようにイタチを抱こうとした瞬間!


 「イっキャぁぁぁぁぁぁ~~~~」と大音響の悲鳴。

 何があったのか分からずに藪から飛び出してみると…、ケイティが…。


 悲鳴を聞きつけた4人が2人の名を呼んでいる声が聞こえる。

 「…あぁ…あああああ…」とアサト。

 「いっやぁぁぁぁぁ~~、いっやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」とケイティ。


 すると再び「イっキャぁぁぁぁぁぁ~~~~」と悲鳴を上げる。

 その姿を見て立ち尽くすアサト。

 その向こうの藪からタイロン、アリッサ、クラウトにシスティナが飛び出してくる。


 「大丈夫か!」とタイロンがアサトの傍に来ると、アサトの視線の先に目をむけ「…あっ……」と絶句をした。

 クラウトは、遠目からその姿を見て目を細めている、アリッサにシスティナが寄り添ってその光景を見ていた。


 その視線の先には…ヘナっと座っているケイティがいる、そして、その先には…。

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