第8話 悪者と追う者 下
アサトは目の前にある丘を登り、その頂点に来ると立ち止まった。
目の前には大きな湖があり、その水面は陽の光を反射させながらキラキラと宝石のように煌めいていた。
対岸が見えないほどの湖である。
少し遅れてケイティが駆けあがって来て、「おっ。おおおお~~~」と声を上げた。
あの日から4日が立ち、夜の大きなトラブルも無く、最初の中継地『アウラ』近くの湖までやってきていた。
大きく空気を吸い込むケイティ、その胸を何故か見てしまう…と、大きく息を吐いて、「…すっごぉぉぉく、空気が新鮮!!」と声を上げ、アサトを見て、「アサトもやってみな!」と笑顔を見せた。
その言葉に、「うん」と言い、ケイティと同じく大きく息を吸い、そして吐き出すと…「あは…あはははは…」と何故か笑ってしまう、その行動に、ケイティも大きく口を開けて笑い始めた。
すると「…なにがおかしいの?」とアリッサが歩いてきて、陽ざしを遮りながら湖を見る、そして、「へぇ…大きな湖ね…」と言葉を発した。
少しして荷馬車が到着する、後ろからシスティナが出て来て湖を見る、そして、クラウト。
「…なんか、こんな景色もあるんだな…って思います…」と控えめにシスティナが言うと、「そうだな、僕は何度か見ているから、今ではただの風景でも、一番最初はシスティナさんと同じ気持ちだったよ」と言い、メガネのブリッジを上げた。
しばらくその景色を堪能していると、湖の方からフードを被った者が登って来た、そして、アサトらの近くに来ると小さくお辞儀をする「…?」とアサト、一同もその礼に小さくお辞儀をしている、遅くなったがアサトもお辞儀をした。
フードの中の顔が見えた、その顔は…ネコ?それとも…トラ…。と思っていると、その後ろ姿に黄色に黒の斑点のある尻尾が見えた。
「…獣人の亜人…だな…。たぶん…トラか豹…だろう…」とクラウト、「うん、そうだね。」とアリッサが返していた。
アサトらが来た方向に向かってゆくその後ろ姿は、小さめのリュックを背負い、剣であろう、長い外套の腰の辺りがその形を見せていた。
「じゃ…行こうか…」とタイロンが荷馬車から声をかける、その言葉に、クラウトが馬車に向かい、アリッサとシスティナ、そして、ケイティは道へと向かい歩き始めた。
アサトは、過ぎ去ってゆく獣人の亜人の後ろ姿を見ていると、「…おい、行くぞ」と言いながら、タイロンが荷馬車を進め始めた。
その言葉に我に返り、再び走り出す。
システィナ、アリッサ、そしてケイティが歩いているのを通り越し、丘を降りて湖のほとりの道を進むアサト、すると、なにやら香ばしい香りがしてきた。と思ったら声を掛けられる、その方向に目を向けると、6名の狩猟者が手を振っていた。
「…おいでぇ!これ食べようぉ!」と、その中にいる女性が手を振っている、一度、馬車をみてから、ゆっくりとその場に向かった。
匂いを嗅ぎつけたのであろうか、ケイティが全速力で駆けてくる。
「あ…いいんですか?」とアサト、すると、体の大きい男が、「あぁ、さっき狩ったばっかのレヂューだ。俺たちだけでは食えないから、食って行けよ」と言う、「レヂュー?」とアサト、「まじですか?」とその隣でケイティが目を輝かせていた。
「…ね…レヂュー…って?」と聞くと、「…こっちも…まじですか?」と呆れた表情でアサトを見た。
話を聞くと、このレヂューと言う動物…鳥類の動物のようであるが、翼はついているが飛ばない鳥類で、細く長い脚とずんぐりした体にちょっとした首の上に小さな頭がついている生き物のようである。
もうその姿は無いが…、だが、ずんぐりした体形に似合わず、足が速いようであり、危機察知能力も高く、近づく事も出来ないし、弓や魔法の類は、その瞬発力で逃げるようだ。
捕獲方法は罠での捕獲が主流のようである、だが、人の匂いにも敏感であり、罠での捕獲もほとんど、奇跡に近いと言う事であった。
そのレア的動物の肉は…、味は非常に濃くて、引き締まっているように感じる肉質だが、口の中で程よく溶けるような柔らかい肉質である。
捕獲が困難なため、手に入るのはほとんど奇跡に近く、捕獲できたとしても、庶民には手の届かないほどに高価な食材のようであった。
「…仲間…いるんですけど…」とアサト。
「いいよ、みんなで食べよう。この肉は保存がきかないから、今、食べた方がいいよ」と別の女性が言葉にして、焼きあがった肉を2人へと差し出した。
「そうですか…なら、」とケイティを見て、「いただこう」と言うと、その肉を口にした。
聞いたとおりである。
味が濃い、でも固い…けど…とろける…。
なんだ…これ…と思っていると、隣のケイティがへなへなと崩れ、「…あたし…もう死んでもいい…」と言いながらへたり込んだ。
…え、えぇ…死んでもいいの……。
しばらくするとクラウト、タイロン、システィナとアリッサがやって来て、彼らの施しをうけた。
「でも…レヂューとは…よく狩れたね…」とクラウト、その言葉に、「それがね…」と女性が話を始めた。
事の経緯は、この湖の近くで、水を飲んでいるレヂューを見つけた事が発端のようである。
静かに近づいて、魔法で眠らせる予定だったが、どうも彼らの足音がわかったのか、急に飲むのをやめ、こちらを見ていたようである。
彼らが何かをしようとすると、身構えてこちらの出方を伺っていた。
変に刺激をして逃がすより、少しずつ接近して捕まえる方が確実と思い、ゆっくり近づいたが、相手も生き物、動いた分あちらも動き、距離が縮まらなかった。
囲い込む作戦で散りじりになり、レヂューの背後は湖なので、陸から6人で囲い込むように近づき始めた、すると、レヂューは危険を察知して、素早く彼らの隙を通り抜けて草原へと逃げた。
彼らは追ったが、そのスピードについて行けない。
かなり置かれたところで無理と思っていると、こちらを見ているレヂューが見えた。
まだ、水を飲みたいのであろう。
とにかく、どうしても捕えたいと相談していると、男が現れた。
その男は、彼らの行動を見ていたらしい、食べたいのか?と聞いて来たので頷くと、じゃ、捕まえてきてあげると言い、少し離れると身を縮める、音も無く…そして、気配も無くレヂューに近寄り、レヂューがその気配を察知して走り始めた瞬間に、ドサッとその場に倒れ込んだ、そして、倒れ込んだ近くから男が立ちあがり、こちらに手招きをして…こうなった。と言う。
「…へぇ~」とケイティ。
「凄いね、その人」とアサト、すると、背の小さな女性が、「獣人の亜人、自分は豹の亜人だからこう言うのは慣れているって言っていた」と言葉にした。
その言葉にアサト一行が顔を合わせる、さっきの亜人だ…。
「そう言えば…彼、『アバァ』って言う人物を探しているって言ってたけど、知っている?」とその隣、アサトを呼んでくれた女性が言葉にする。
「『アバァ』?」とケイティ、その言葉にアサトらは顔を見合わせて首を傾げた。
誰も知らないようである。
「…そっか、私らも知らないんだけどね…」と言い、レヂューの肉を頬張った。
アサトらも、思わぬごちそうに感謝している。
レヂューの肉をすべて平らげると、彼らは『ゲルヘルム』方面に向かい進み始め、アサトらは『グルヘルム』方面に進み始めた。
『アバァ』…どこかで聞いた事のある名前だな…とアサトは思っていた…。
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