第7話 悪者と追う者 上
「…ったく…なんだそりゃ…」と、真っ赤な髪に大きな目を持ち、ぶらぶらと揺れる白金のピアスを右の耳たぶにぶら下げ、真っ白で横じまの入った半袖シャツにデニムのズボンを履き、そのズボンのポケットに手を入れている男が、目の前にいる狩猟者パーティーを、右の眉を上げながら、呆れた表情で見ていた。
「全員…散開!」と盾持ちの女が声を上げると、9名の仲間が、男を囲みながら距離をあけた。
ジブラリ大陸は、アサトらのいる大陸オースティアの海を隔てた東にある大陸、『ナガミチ』らが『竜騎士』リューマディアと遭遇した、最後の大陸である。
その大陸には、この世界でも英雄と謳われているパーティー、『チーム・ラクツア』のパーティーがいた。
リメリア大陸で、約2年前、幻獣『ゴルグ』と言う、体長、約15メートルの銀毛ゴリラを討伐したパーティーである。
この『ゴルグ』は、リメリア大陸にある4つの街を全壊にして、死傷者も万人を超えさせ、リメリア国の機密軍隊をも壊滅にさせた、凶悪な幻獣であった。
その『ゴルグ』を討伐したチーム、出身は、リーダーの女性が、ロッシナ国のジアンマと言う街に5年前に誘われ、その時に一緒に誘われた仲間と共にパーティーを組み、そして、世界へと踏み出し、各地で討伐戦などを行っていた。
その業績は、時間を追うごとに世界を駆け巡り、今では、世界最強のパーティーとまで言われるほどに名声を得ていた。
だが、その強さには意味があった。
それは…オーブ。
帰還のオーブの破片と誘いのオーブの破片…。
そのオーブの破片が、彼女らには何かは分かっていなかったが、その力は分かっていたのだ。
だから…いままで最強でいられた…この地での戦いまでは…。
チームリーダー、セナスは焦っていた。
今まで、傷一つ、そして…、どんな相手でも傷をつける事が出来ていたのに…。
「宝石を組み合わせて!防御の宝石で守り、敵が怯んだら、攻撃の宝石で攻撃…、今まで通りにやれば大丈夫!」と言うと、散開した仲間が2人1組になった。
「…あぁ?…おまえら…」と男が言うと、目を閉じて小指で耳をほじくり始めた。
「…行くよ!」と、セナスの号令にセナスの他に2名の盾持ちが男に向かい、男を取り囲むと、その後ろから戦士が飛び出し、男に剣を突き刺す、瞬間。
男が小さく笑い、右足で地面を蹴ると…、大きく重い風が四方八方に広がった。
その風圧に6名が飛ばされ、辺りに転がった。
「…あぁ…だから…、おまえら…何がしたいんだ?」と男。
セナスは立ち上がり男を見た。
傷一つ付いていない男は、その場から一歩も動いていない…これは、魔法?でも…。
セナスの頬から血が流れる。
その感覚に頬を拭いていると…、音もなくセナスの前に男が、にやけた顔で立ち、ゆっくり腰の後ろから短剣を取りだすと、無言でセナスの肩に突き刺した!
「キャーーーーーー」と悲鳴を上げるセナス、その悲鳴に一同が見る。
「…なんで…」と剣士の男、「…え?」と後方から支援をしていた神官。
「…うそでしょう…」と半ば信じられない表情のアサシンの女が立ち尽くした。
今まで傷一つ付かなかったセナスの肩に…短剣が刺さっている。
「…ったく…、最強?…ってどこが…」と男がその短剣をえぐりながら言う、痛さにセナスはひざまずくと、男は冷たい視線で見下ろし、「…あぁ…なんか…だりぃ…ってか、もう少し楽しませてくれると思っていたのに…、拍子が抜けた…、だから…もう終わらせるぞ…」と言いながら、セナスの仲間を見る、そして…。
「…まずは…こいつからだ…はははは…、逃げるなら逃げろ!今の内だ、でもな、おれはお前らを殺す!…だから…」と言うと、短剣を抜き、開いた傷口に指を入れる。
セナスは激痛に、再び断末魔のような悲鳴を上げた。
流れ落ちる涙…。そして、止まる事のない汗…それは、冷や汗…そして、見た事も感じた事も無かった絶望と言う現実に、思わず失禁をしてしまっていた。
その姿を見た男は、「…イヤぁっ…ははははは…こいつ、ションベン漏らしてやがる!」と男が腹を抱えて笑う。
その光景にセナスの仲間は一歩も動けない。
「…そうだそうだ…」といいながら、再び一同を見て、「…こころのじゅんび…してろよ…あはッ…あははははは…」と上を向き大きな口で笑う、と、傷口に指を入れていた腕をセナスが掴み、下からにらんだ、その行動に視線をゆっくりと下げてセナスを見る男…。
「…こ…このままでは…お…お…おわら…ない」と苦痛に顔を強張らせながら口にすると、うっすらと笑みを見せた男が「…いいねぇ~。あがきか…、それ、なんていうかわかるか?」と言い、目を閉じると…、「…悪あがきって言うんだよ!」と強い口調で言葉にした瞬間に、セナスの体が体内から爆発をした。
粉々になった肉片が、数十メートル四方に飛び散る。
その中心で男は、指についていた血を口角を緩めながら舐めていた、そして、一同を見ると…「…じゃ…始めるかぁ?…」と言い、そして……。
多くの肉片が飛び散っているその場で、セナスが持っていた盾からオーブの破片を拾い上げる男、そのそばにローブを頭から羽織っているモノが近付いて来た。
「…あぁ…、ったく、いつまでやらせるんだ?ほんとに元の世界に帰れるのか?」とそのモノに言うと、「…あぁ、ちゃんとわたしの依頼をこなしてくれれば、報酬で帰してやる」と言う、「…ったく、なんか、面白いから帰らなくてもいいけどな…」と言いながら、辺りに散らばった肉片と血だまりを見る、そして、「…ほんと…、この依頼は愉快でいいねぇ…あはははは…」と笑いながら、オーブの破片をそのモノに渡した。
そのモノは、オーブの破片を布の袋に仕舞う、その布には、数個の破片が入ってあった…。
「んで?次は、誰だ?」と言うと、「…噂は聞こえてこない…、我々と同じく集めているモノもおるようぢゃ、とりあえず、シントでゆっくり休んでいろ、噂を聞いたら…迎えに行く」と言い、その場を後にした。
その後ろ姿を見てから、散らばった肉片を見る男、そして、「…何が最強だ…、目立ってなきゃ、死ななくても済んだのにな…、ったく…バカかこいつら…、…最強は…、…最凶で、最恐になれなきゃ、最強とは言われないんだっつうのぉ…。」と言い、鼻で笑うとその場を後にし始めた。
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