第6話 奪われた?ケイティの大事なモノ 下

 「キャーーーーーーー!!」


 アサトは、その悲鳴に振り返り、「ケイティさん!」と呼んでみるが、反応がない。

 もう一度呼んでみる…が反応が無い「…ケ…ケイティさん、すみません、行きます!」と言うと、林に飛び込んで行き、ケイティの持っていたランタンの光を探してみると……?


 え?えぇ…(-_-;)


 なんとランタンの光が上を…たぶん…木を伝っている、と思ったら。

 「…このぉ~~~クソエロサル!殺してやる!」とケイティの声が聞こえる。


 「ケイティさん、何処ですか?」と声をかけるが、ケイティの怒りはMAXを越えているようであり、真っ暗な林の中で、ケイティの、「殺してやる!」の狂気じみた声が至る所から聞こえてきていた。

 アサトは立ち止まると、ちいさくため息をついて、「もう…好きにしてください」と言い、火をおこしている場所に向かって進み始めた。


 林の中では、ケイティの怒りの声が至る所で発せられている、その声に気付いたのか、テントからクラウトが出て来た、そして、荷馬車からアリッサとシスティナも、心配そうな表情で出てくる。


 「どうした?」とクラウト、「なんか…なにかとたわむれているみたいです」と言うと、暗闇から、「このやろう!ほんと頭来た!返せ!わたしのパッド!」とケイティの声が聞こえる。

 その言葉に、アサトとクラウトが顔を見合わせ、アリッサを見た。

 するとアリッサが目を覆い、「そう…彼女、胸パッド入れているの」と言う。


 あぁ…そうなんだ!だから必死だったんだ。


 「たぶん、スケサルだな」とクラウト。

 「スケサルって…スケベなサルって事ですか?」とちょっと笑いながら言うと、「まぁ、違うんだけどな、ほんとは、スラットモンキーと言う、夜行性で、人の持ち物を奪う習性のある猿なんだよ、その人の大事な物がなにかわかるようでね、それを奪うようなんだ、その時に何か食っていると、食い物を奪う、また、大事に何かを抱えていると、抱えている物を奪う、みたいな…。だれがそう言ったのか分からないが…、危険性は無いからこのままで大丈夫だと思う」と言うと、林を見てから、「彼女には、ちょうどいい遊び相手かもな」と言いテントに向かった。


 すると、「ぐへ!」と声が聞こえて来た、その声の方は…タイロンのテントである。

 「こんなところで寝てるな!ジャンボ!」とケイティの声。ってか、タイロンさんは、何処にいてもケイティさんに蹴られるんですね…。


 アリッサとシスティナが笑っている、それを見てアサトも笑っていると、「なぁ~に可笑しいのぉ……」と、暗闇から葉っぱを至る所につけているケイティが現れた。

 その右腕には、尻尾を掴まれ、引きずられている小さな猿が気を失っていた。


 そのままシスティナの前に行くと、冷ややかな目で、足元から頭先までなめるように見てから、そのサルを目の前に出し、「朝ご飯!これ!」と言う、「え…えぇ…」とシスティナ。

 「ケイティ、それは…」とアリッサ、すると、今度は、アリッサを冷ややかな目で足先から頭元まで見て、大きくため息をついてサルを放り投げると、「…どぉおせさぁ…わたしなんかさぁ…」と言いながら、火の傍に腰を下ろした。


 冷ややかな目で二人をじっくり見ると、再び大きくため息をつき、「…もっと、おっきくなるはずだったんだよな…多分…」と言いながら横になった。

 その光景を見ていたアリッサとシスティナは顔を見合わせ、ケイティの傍に行くと、「大丈夫。これからだよ」とアリッサが声をかける。

 そのそばで頷いているシスティナ、それを見ていたアサトは


 …ぼく…どうすればいいの…。


 しばらくして、「あっ。」とケイティが飛び起き、気を失っているサルの所に行くと、サルを振り回しながら何かを探している、そして…「…ない…」と言うと、サルの顔を何度か平手打ちをして起こすと、「あたしのパッド!どこにやった!」と言う、ってか、言葉わからんでしょう…と思っていると、「ったく…どうしたんだよ」と暗闇からタイロンが現れた、と思ったら、なんか頭についている。


 まんじゅうみたいなものが重なって…、


 タイロンの声に、「あぁ…」と怪訝そうな表情で振り返るケイティ…、そして、タイロンの頭を見ると、一目散に駆け寄り、その頭から、まんじゅうみたいなものを取ると、こちらに背をむけてもぞもぞと始める。


 そして、「じゃ、じゃぁ~~ん!」と振り返った。そこには……。


 とりあえず、あるべき場所に落ち着いたようである。

 タイロンは訳も分からずに頭をこすっていた。

 アリッサとシスティナも笑いながらケイティと話し、そして、荷馬車に戻ってゆく、タイロンも大きなあくびをしながら、ゆっくりとテントを立て直して眠ったようだ。

 時間を置かずにウシガエルのようないびきが聞こえてきた…。


 アサトは、一同を見送ってから火の傍に座ると…火を挟んだ向かい側にいるケイティが、怪訝そうな顔で見ていた。


 いやな…予感。


 すると「なに?わたしの顏になにかついてる?」と言う。

 「あ、いや…なにも」と言うと、「あぁ?じゃ、わたしの顏はのっぺらぼうなの?」と聞いて来た。

 「え?」…そうきたか!と思っていると、「まっ、いいわ。今日の所は無かったことにしてあげる」と、ちょっと勝ち誇ったような表情で言葉にした。


 ……ってか意味わからないんですが…無かった事って?。


 「…だから、これは本物よ。触ってもいいけど、触ったら吊るすから!」と、自分の胸を触りながら言う。


 …どういう事?だってそれ…。


 「いい?わかった?」と言いながら身を乗り出してきた。

 アサトは小さく頷きながら、「…はい…分かりました」と答える、すると「んぢゃ、誰かに聞かれても、あなたがわたしの胸を保証するのよ」と言う。

 「保証って…」

 「当たり前でしょう!それがあなたの役目!」

 「…でも、なんか勘違いされたら…」

 「いいじゃない、わたしじゃないから…」と言う。


 え、え、ぇ…なに、その屁理屈……。


 ケイティは何かを思い出したかのように立ち上がり、辺りを見ながら、「サル、どこ行った」と声に出し、しばらく探していると、「まっ、いいや」と言いながら腰を下ろした。

 そして、「…いい?」と冷ややかな視線で言葉にした、その言葉に、アサトは小さく頷いて、「ハイ…分かりました」と答える。


 その言葉に満足そうな笑みを見せながら、「交代…まだかな…」と夜空を見上げながら言葉を発していた。


 ケイティさん…事欠かない人ですね…。


 アリッサとクラウトが起きて来ると、ケイティは荷馬車に駆け込んだ、そして、荷馬車からシスティナの悲鳴が聞こえると同時に、大きな笑い声が聞こえて来た。

 アサトは、ケイティの存在が、このチームの雰囲気を変えているような気がしてうれしくなっていた。

 その事が表情に現れていたのか分からないが、「いいチームになりそうだ」と荷馬車を見てクラウトが言葉を発した。

 その隣で「ケイティは、いつもそうだった…、あの子の明るさが、みんなを救っていた…」とアリッサが言い、アサトを見て笑みを見せた。

 その笑みに答えながら「そうですね…」と言い、アサトは、二人に頭を下げてからテントへと向かった。


 そして翌日…。

 朝から全開のケイティは、昨夜のサルを探していたが、みつからず、ちょっと残念な表情をみせていた。


 一行は、再び、『グルヘルム』への進路を進み始めた。

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