第5話 奪われた?ケイティの大事なモノ 上

 翌日…。


 今夜から女子も入れて、男女1名ずつ、2人で見張りをする事になった。

 これがなんとかいい方向に向いてくれればいいのであるが…とアサトは思っている。


 何事も無く進み、そして、小さな村に着くと再び夜を迎えた、この村も衛兵がおらず、見張りをしなければならないようである。


 その順番と組み合わせは…、最初にタイロンとシスティナ、そして、アサトとケイティ、最後にクラウトとアリッサにした。

 いろいろ組み合わせや順番を、1日かけてクラウトが考えた結果、ケイティは2番目が一番いいようであり、タイロンと一緒じゃなきゃ、どの組み合わせでもいいようであった。


 ケイティに事の顛末を話すと、少し照れていたが、クラウトには謝らなかった、と言うか、イヤーウォーマーはほんとに頭に来たみたいである。


 『極力、蹴らない』とは言っていたが…。


 タイロンも自分のいびきが、そんなに迷惑をかけているとは思っていなかったようであった、今夜からは、一人だけ離れた場所で寝る事にした。


 人が集れば色々厄介ごとが多くなるな…。


 深夜…、タイロンに起こされて、テントから出ると、システィナに起こされたケイティが、もぞもぞと荷馬車から出て来るのが見えた、その顔は、半分瞼が落ちている。

 馬車の前に行き、「…ケイティさん?」と声をかけると、なにも言わずに見た。


 …まさか…と思っていると、大きく口をあけてあくびをして、「…なに?」と言葉を発した。


 …大丈夫…、起きているみたい…。


 「いや…おはよう」と言うと、「…あぁ?何言ってんの?3時間後にまた寝るよ。ばっかじゃない?それに暗いし…おはようは、明るくなって、4時間以上起きる状況になってからだよ…」と言うと、火がついている場所に向かった。

 苦笑いを浮かべてシスティナが見ている。

 「おやすみ」と声をかけると「…ごめんね、おやすみ」と返してきた。


 システィナさんが悪い訳じゃないんだけど…。


 とりあえず、火を真ん中にして、ケイティの向かい側に座った。

 小さく上がる炎の向こうにいるケイティは、眠そうな目で火を見つめている。


 ここから、20メートルは離れているあたりに一人用のテントが見える、そこからヒキガエルのようないびきが聞こえてきていたが、目の前にいるケイティは今にも寝そうであった。


 ケイティの表情を見て、この位ぐらいなら大丈夫そうだなと、アサトは胸を撫でおろした。


 コックンコックンしているケイティが目を開けると火を見る、そして…「…なにか話して」と言う、「え?」とアサト。

 半分あけた瞳でアサトを見るケイティ、「あぁ…ケイティさんは、見張りとかした事無いんですか?」と聞くと、「ない!」と答えて瞼を下ろす。


 「え?」アサトは即答のケイティを見ると、再び、コックンコックンと始める、しばらく続くと再びゆっくり目を開けて「…なにか話して」と言う。

 「あぁ…起きてます?」と聞くと、小さく頷き、そして、瞼を閉じて、コックンコックンと始める。


 え…えぇ…。とアサト。


 辺りを見渡すと真っ暗であり、虫の鳴き音とタイロンのいびきだけが、その暗闇のなかにあった。

 とりあえず、周りは見ておかなきゃと思っていると、「…おぃ」とケイティが声をかけて来た。

 その方向を見ると、瞼を半分降ろしたケイティが、アサトをじっと見ている、そして、「…な…なにか話せばいいですか?」と聞くと、小さく頷く。


 …この人…面倒くさい…。


 と思いながら「…そうですね…じゃ、『ギガ』の話ししますか?」と聞くと、「…今はそんな気分じゃない」と即答、「じゃぁ…」と考える、そして、「アルさんの話しとかは?」と聞く、すると、「誰それ?」と返すので、「僕の兄弟子」と言うと、「…今はそんな気分じゃない」と答える。


 「じゃ…、どんな話がいいですか」と聞くと、「…おしっこ」と言う。

 「え?」とアサト。

 半分瞼を落としているケイティは、アサトをじっと見ている。


 …いま、おしっこ…って言っていたよね…


 と思っていると、「…聞いてる?おしっこ」と言う。

 「え?おしっこの話し…ですか?」とちょっと恥ずかしそうな表情になるが、ケイティは表情を変えずに、眉間に皺をよせて、「あぁ?」とすごむ。

 「え?その話なんではないですか?」と聞くと、「…違う、おしっこ行きたい!」と言う。


 その言葉に、ちょっと呆気に取られたが、「そうですか、どうぞ、耳塞いでますから」と言うと、「あぁ?」と凄み、「…なに言ってんの、真っ暗だよ、あたりは真っ暗、わかる?怖いのよ!」と言い、辺りを見渡して、「ついて来て!」と言う。


 えぇ……まじですか?


 ケイティは立ち上がると辺りを見渡し、近くにあったランタンに火をつけて歩き出した、とりあえず、アサトもついて行く。

 ちかくに林がある、その場所に来ると、振り返り地面に指を指して、「ここにいなさい!」と言い、ゆっくり、そして、もっさりと林に消えて行く。


 ランタンの光が小さく揺れながら、ケイティの姿をうっすらと映し出してる、その姿が止まると、「…見えてる?」とケイティが声を発する。

 その声に、「ハイ」と答えると、「見るな変態!」と返してくる…。


 じゃ…どうすりゃいいの…とアサト。


 姿を見ないように振り返り、林に背中を向けて待っていると、「見える?」とケイティが声をかけて来た、かなり小さい声だったが、聞こえているので、「ハイ、聞こえます、見てないけど…」と言うと、「見てろよ!」と怒鳴っている。


 どうすりゃいいの…。


 ケイティは、ランタンを置くと、一度、辺りを見渡し、いそいそとポケットから薄い紙を出して、ランタンの傍に置く。

 もう一度、辺りを見渡して誰もいない事を確認すると、ズボンとパンツを下げて腰を落とした。

 そして、「見える?」と叫んでみると、かなり遠い場所から、「ハイ、聞こえます、見てないけど…」と声が聞こえて来た、その言葉に「見てろよ!」と返し、「…ッチ」と舌打ちをしてからようを足し始めた、と思ったら、近くで葉の擦れる音がする事に気付いた。


 その音のする方を確認するが、なにも見えない…、葉の擦れる音は、右に行ったり、左に行ったりしている。

 その音の主を確認するように、優しい口調で、「…あ…アサト?」と声をかけて見た、その声に反応したように音が止まる。

 ようを足し終わり、紙で拭き上げるとパンツとズボンを上げる、ズボンの紐がどこにあるのか分からない、…のが…だんだんいらだってきていた、すると葉の擦れる音がまた聞こえて来た。

 紐が見つかり、いそいそと結んでいると、その音が目の前で止まった…と思ったら……。

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