第3話 足りない物と不確かな者 上
翌日の朝、テントから出るとアサト以外が朝食を取っていた。
クラウトの傍に座り、一同を見る。
そこには、何事も無かったようにいる、システィナ、アリッサ、ジャンボにケイティ…。
昨夜の出来事が嘘のようである。
システィナから朝食のスープと昨夜の残りの肉を挟んだサンドウィッチを頂いていると、隣のクラウトが、深緑の炎が揺らめいている『召喚石』を黙って見ていた。
「クラウトさん、それ…」と声をかけると、アサトを見てから小さく頷き、「この中に『オークプリンス』なる、オークがいる」と言いながら召喚石に視線を移した。
「召喚石の使い方を知っているのか?」とタイロン、その言葉にメガネのブリッジをあげて、「知っている」と答え、召喚石を上に上げて太陽にかざした。
「それじゃ…、召喚士の職業を誰かが選択しなければならないのですか?」とシスティナが言うと、「…それがな…」と言いながらかざしていた召喚石を下ろし、小さく笑ってアサトに渡した。
召喚石を受け取ったアサトは、深緑の炎が揺らめくひし形の石を見つめていると、「その中に…何か見えるか?」とクラウトが聞く、その言葉に、クラウトと同じく、召喚石を上げて太陽にかざしてみる。
その光景を一同が見ている。
石の中に…なにかが見える?とアサト。
じっくりその炎を見ているが、揺らめく炎しか見えない、アサトは召喚石を下げてクラウトを見る、そして、「ぼくには、何も見えません」と言うと、頷き、「そう、召喚士と言う職業は誰でもなれる訳では無いのだ」と言い、一同を見た。
「召喚士は、異職業。言い伝えでは、遺伝が関係しているようである。僕には、その遺伝が無い。ただ、そんな人でも、見える者がまれにいるようだ、だが、その人物が、召喚石を扱う事が出来るかと言えば、否のようである。その人物を起点として、何代も世代を繰り返した後、強い力をあつかえる召喚士になるようだ。この世界では、召喚士なる者の数はほんの一握り、また、高齢の者が多いようである。」と言い立ち上がった。
「じゃ、あたし見る!」とケイティが言うと素早く立ち上がり、アサトの手にしている召喚石を取ると、上を向いてその中を覗き込む、そして、眉間にしわを寄せながら目に力を入れてじっくりと見る…が、「かぁ…」と言いながら腕を下ろし、首をがっくり下げて「見えない…」と言いながらシスティナに渡す。
手にした石をシスティナも見るが、見えないようである、その石をタイロンに渡すと覗き込む、だが、見えない。
最後にアリッサが手にして覗き込む、と…、やっぱり見えなかった。
アリッサがクラウトに召喚石を渡すと、「残念だが、今のパーティーには、召喚士の適性を持つモノがいないようだな」と言うと、「いずれ見れると言う事があるんじゃないですか?」とアサト、その言葉を聞きながら、クラウトは召喚石を見ながら「それも、残念だが無いようだ。生まれ持った才能なのだろう。今見れないのであれば、この先も見れない。逆に言うと、小さな時に見れた者が、この先、見れなくなると言う事も無い。見れなければ適性が無く、見えれば適性があると言う事みたいだ」と言い、布で出来たカバンに召喚石をしまった。
「ただ…」と言いながら、一同を見る。
「悪い事だけではない」と言いながら立ち上がり、みんなを馬車へと誘導する。
馬車の側面に立つと、荷台の下部部分にある、隠し引き出しにカギを差し込み、その引き出しを引っ張り出した。
「君たちの職業は、」と言うと「タイロンが盾持ち戦士、そして、アリッサが、盾持ち騎士、ケイティがアサシン」と言いながら3人を見た、そして、「これは、君たちが持つべき武器」と言いながら、その引き出しへ3人を誘った。
その行動にケイティが先に進み、タイロン、そして、アリッサが後についた。
「…これって…」とケイティが声を上げる。
「おぉ…」とタイロン、そして、アリッサは目を丸くしていた。
そのなかにあったのは、地下室の武器庫に飾られてあったアルベルトとインシュアの武器であった。
「これは、アサトの兄弟子らからの贈り物だ」と言いながら、短剣2本をケイティに渡し、両刃長剣を、タイロンとアリッサに渡した。
「クラウトさん?」とアサト、その言葉に小さく頷いて、いきさつを話し始めた。
遠征に出る前日、武器庫に呼ばれたクラウト、そこにはアイゼン、アルベルト、そして、インシュアがいた。
アルベルトは、『ナガミチ』の遺産の短剣を2本、これから仲間になる者に渡してくれと言っていたようであり、アルベルトの話しでは、自分はすでにその剣より優れ、そして、手放せない武器を保有している、ここにただ飾っていてもしょうがないから、使える者が現れたら使えと言う事であった。
インシュアも2本、アルベルトと同じく、タイロンと他に仲間が出来たら渡せと言っていたようだ。そして、『自分の戦いは、ドラゴンのような凶暴なやつとは戦わない、自分より弱い奴しか戦わない』と付け加え、残りの2本は、一応形見なので残しておけと言っていたようであった。
アイゼンがそこにいたのは、遺産の引き渡しの証人であり、アサトの保護者としての承認を兼ねての事であった。
手にしていた武器に3人が声を上げている。
「軽い!なんでこんなに軽いの?」とケイティ。
その問いに「この武器は、アサトの師匠『ナガミチ』さんの遺品であり、弟子に残した遺産。『ナガミチ』さんの旅の最中に戦った、『竜騎士の王』、その者が乗っていたドラゴン『アポカプリス』の鱗と、この世界で、現在、最も優れている鉱石と言われている、『イミテウス鋼』を錬金術師に錬金させ、出来た鉱物で叩き上げた武器なんだ」と言うと、ケイティは少し首を傾げて「…何言ってんだかわからないけど、凄いんだね!」と大きく笑って見せた。
まっ、僕も良く分からないけど…。
「いいの?」とアリッサ、その言葉に「説明したように、僕らがこの先に相手をしようとしている者は、今までとは、まったく別次元の強さを持っている者であると思う。『オークプリンス』がそうだったように、これから先は、『オークプリンス』をも超える存在のモノが現れると思う、だったら、それ相応の武器を持たなくては…」と言い、振り返るとシスティナを見て、「僕らの武器は、これと同じ強さを持つ武器を用意ができるかも…、僕の仮説が正しければ…」と言いながらメガネのブリッジを上げた。
「仮説?」とアサト、その言葉にクラウトは頷き「ナガミチさんの書物にあった、錬金術の章、そこに錬金に際して、使用した事柄が書いてあったんだ、そして、よくよく読んでみると、足りないんだ…」と言い、システィナを見た。
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