第2話 旅の再出発 下

 3人が戻ってくると水を渡し、システィナがスープを作り始め、ケイティが火をおこし、その火で肉を焼いた。そして、夕食を6人で食べる、システィナの表情が明るいのにアサトは安堵していた、ケイティはとにかく明るい子であった、終始、会話の先導をしている。


 ケイティの話しだと、弔いの日の翌日朝に、馬車小屋に話があるとの事で来たようであるが、その時の4人の会話、3日後に出発を聞いて一度戻ったようである。

 

 その後、アリッサと昔の仲間で色々話し合った結果、アリッサは、アサトらと旅をしたいと終始言っていたようであり、ケイティも同じく考えていた。


 昔の仲間が頼りにならない訳では無かった、ただ、このメンバーでいても、いずれ同じ状況になってしまうのではないかと思っていたようであった。

 それに、アサトの言葉…、『自分は弱い…、でも、今できる事を精一杯やる。』の言葉が、アリッサの気持ちを動かしていたのであった、衝動的に『オークプリンス』の討伐を始め、途中であきらめてしまいそうな弱気な発言をしながらも、強敵の前に立ち、そして、負けた…でも、まだ旅を続ける…、それは、強い信念があるからだと思う、殺されかけても続ける狩猟者…、その姿が大きく見えていた。と言う事であった。


 ケイティは、ただ単に、『ギガ』と『オークプリンス』に戦いを挑んだパーティーの仲間になりたいと言う事と、アリッサが着いて行きたいと言ったからであった。


 なんか、ケイティらしい…。


 ただ、二人が聞かされた事は、実際、信じられない事であり、クラウトは掻い摘んだ話しかしていなかったが、『ナガミチ』の旅の軌跡、そして、アサトの気持ち、これから出会うであろう敵と、『ウルラ』の村で賢者から聞いた話を付け加えて、彼女らに説明をした。

 そして、この地の最終目標、『クレアシアン』討伐の話し…、そこには、死を覚悟して挑まなければならない事も…、その事を重々了解して二人は仲間になった。


 アサトは、少し複雑な気持ちがしていた…。


 夜の9時から12時まで、タイロンが見張りをする、次に12時から3時までアサト、そして、3時から6時までクラウト。

 男3人で、交代で見張りをする事にして、9時には就寝した。


 そして…。


 アサトは何かの物音に目を覚ますと、物音のする方を見る、そこには、テントに入ってくる影が見え、その影を確認するとタイロンであった。

 タイロンは、アサトと目が合うと、“交代だ”と言っているように頭を外の方に何回か動かした。

 その行動に、眠い目をこすりながら、近くにある上着と太刀を手にしすると、隣でクラウトがもぞもぞと動いていた、眠りの邪魔をしないように静かに出ようとしていると、タイロンはすぐに仰向けになり、時間を置かずに鼾を始めた。

 ウシガエルのようなイビキである。そのイビキを聞きながら外に出る。


 タイロンのイビキを背中越しに聞きながら荷馬車へと進み、荷馬車の後ろについている梯子に手を伸ばすと、中から何かが聞こえる、その音に耳を澄ましていると、いきなり荷馬車の後ろ扉が勢いよく開いた。


 「!」と、驚くアサト。


 開いた扉から瞼を半分降ろした状態で誰かが出て来た、ゆっくりと、そして、もっさりと出て来たのはケイティであり、開いた扉からまっすぐ一点をみている。


 アサトは思わず、「…お…おはよう…」と声をかけると、ケイティは目だけをアサトに向けた、そして、再び真っすぐを見る。


 その方向は何もない、ただ、聞こえるのはタイロンの鼾だけであった。


 ケイティの眉毛がピクピクと動いていると思ったら、ゆっくりと、そして、もっさりと荷馬車を降りて、男たちが寝ているテントへと向かう。


 その後ろ姿を見ているアサト。


 テントの前に立ったケイティは、少しばかりその場に立っていると、何かに感じたのか勢いよくテントに入った。


 「…へ?」とアサトは思い、しばらくテントをみていると!。


 「ちぇ~~~~スト!!」と言う大きな声と共に、『ドフゥ』と言う鈍く、色々な意味でやばそうな音が聞こえた。


 その状況を口を開け、目を丸くして見ているアサト。


 それからしばらくして、テントからいそいそとクラウトが出てきて膝を折ってテント入り口に座る、それから、ゆっくりと、そして、もっさりと何事も無かったようにケイティが出てきて、座っているクラウトを見下ろしてからこちらに向かって、ゆっくりと、そして、もっさりと歩いて来た。


 荷馬車の後ろ扉の前に来ると、梯子に手をかけているアサトを、半分降ろした瞼で凝視する、アサトは小さく笑ってみるが、ケイティの表情は変わらない。

 笑っている自分がバカに思える位の時間をケイティが見ていたと思っていたら、何も無かったように荷馬車に乗って扉を静かに閉じた。って言うか…。


 再びテントを見ると、四つん這いになって中に入ってゆくクラウトが見えた、そして、タイロンに視線を移すとピクリとも動いていない…、アサトは、静かにその場から離れるとテントへと進んだ。


 テントに入ると、クラウトがタイロンの枕元に呆然と立っていた。

 そしてタイロンは…、半目を開け、舌を出している。ってか…死んでる?と思って、胸を見てみると小さく動いていた、気絶…しているのか?と思っていると、クラウトが気付いた。それを見て「…あっ」と小さく声を上げるアサトに、クラウトは人差し指を口に当て「静かに!」と言葉にした。


 「…何があったんですか?」とアサトが聞くと、「…僕も驚いた、誰か入って来たなと思ったら、頭上にケイティが立って見下ろしていたんだ、…目が合った…、すると、振り返ってジャンボを見たと思った瞬間に…」と言いながらメガネのブリッジを上げて「…蹴りやがった!」と言う。


 …蹴りやがったって…クラウトさんが、インシュアさんみたいな言葉で…。


 「さすがに僕も動揺したよ、気付いたらテントの外で正座をしていた…」と言いながらうつむいた。


 ケイティ…さん…。


 「…ジャンボさん…大丈夫ですかね…」とアサトが言うと、「…気を失っているみたいだから、とりあえず治癒の魔法はかけとく、このまま眠らせておこう」と言いながら、ロッドをタイロンに向けて言葉を発した、仰向けに伸びているタイロンに光が纏わる。


 「…こっちも、ジャンボの鼾には迷惑していたからな…ただ、こんなのが毎日続けば…いくらタイロンでも身が持たないぞ」と言い、テントの入り口越しに荷馬車を見て、「触らぬ神に…たたりなし…だな」と言いながら横になった。

 アサトは、横になったクラウトを見てから荷馬車に視線を移した。


 …そういえば、さっきのケイティさんの表情…もしかして、『上…行くつもり?』って言っているような視線…のような…。


 アサトは、テントから出ると、火をおこしていた場所に向かって進むと、消えかけた火をおこし、その場で火を見つめた。


 …触らぬ神に…祟りなしか…。とクラウトが言っていた言葉を思い出していた。


 その場から荷馬車までは距離がある、荷馬車とテントとの距離はそんなになかった、たぶんここで見張りをしていれば、ケイティさんの眠りを邪魔する事は無いだろうと思っていた。

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