第1話 旅の再出発 上
アサトは大きく手を広げて倒れ込み、息を何度か吸ったり吐いたりして整え、強い日差しに目を腕で塞ぎ、時より流れてくる風を感じていると、遠くから馬車の進む音が聞こえて来る。
その音が近くまで来るのを待ってから起き上がり、汗を布で拭くと再び走り出す。
少し行くと左手に持っている長太刀を抜いて、振り抜く。そして、振る、振る…振り抜き、ゆっくり刃の反りを確認しながら鞘にしまうと、布で汗を拭き、空を見上げる。
高い場所にある太陽にゆっくり雲がかかりはじめる、手で光を遮って、太陽を見ながら大きく息を整えると、馬車との距離を確認する、そして、その場で腕立て伏せ、腹筋、そして、背筋を少ない数だが行い、また、大きく手を広げて倒れ込み、息を整える。
そして、馬車が来るのを待つ。
目的地の『グルヘルム』までは21日かかる。
次の中継地は『アウラ』と言う村、そこまでは6日かかるとのこと、今夜は、小さな村で野営をする予定である、そこまでは、走る。
たぶん60キロメートルほど走らなければならないが、『デルヘルム』から『ゲルヘルム』までも同じことをしていたので、苦にはなっていなかった。
それより、日増しに体力がついて来ているような気になっていた。
「アサト!お昼にしよう!」と馬車が近付いてくると声が聞こえる、その声はケイティである。
ケイティは、肩を出した短いシャツにショートパンツ姿で、馬車から飛び降り走って来た。
小さな胸が申し訳ない程度で揺れている。
アサトは頷き、空を見上げて陽ざしを感じた、なんか…平穏…。
馬車が着くと木々が茂っている場所を選んで、システィナが作ってくれたサンドウィッチを食べ、少し休むと再び進み始める。
食事後なので少し馬車に乗る、そして、十分休んだら再び走り出す。
距離を取ったら、長太刀を抜いて振り抜く、そして、振る、振る、振る…振り抜き、ゆっくり刃の反りを確認しながら鞘にしまい、汗を布で拭くと馬車との距離を確認して、腕立て伏せ、腹筋、背筋を行い、両手を広げて倒れ込み息を整える。
馬車が近付く音が聞こえると立ち上がり、また、汗を拭いてから走り出す。
拓けた草原の向こうには、かすかに赤い大地が見える、そして、反対側には見上げるように大きな山が連なっている
木々や丘、くぼ地なども見えていた。
何組かの狩猟者パーティーとすれ違い、そして、商人らとも出会った。
修行をしている所を不思議そうに見ている者もいた。
案外、狩猟者や商人が多いなと感じている。
小さな湖のほとりに差し掛かった時にカンガルーの亜人親子を見かけた、その親子は釣りをしていた、アサトは立ち止まり、その親子を見ていると、子供が気付いて手を振って来た、それに返す。
とにかく平穏そのものである。
その親子の釣りを見ていると馬車が近付いて来た、と思ったら、なにやら歌声がしてきた、何を歌っているのか分からなかったが、声の主はわかる、ケイティだ。
そのメロディーは、カントリーソングのような懐かしい感じのする歌であった。
歌い終わったのか、中から拍手をしている音が聞こえてくると、システィナにも歌えと言っている声が聞こえて来た、それを断っているシスティナの表情が目に浮かんできて、少し笑ってしまった。
クラウトとタイロンが手を振っている、その二人に手を挙げ、再び走り出す。
陽が落ち始めようとしている時に小さな村が見えた、アサトは立ち止まり馬車を待つ、そして、馬車が見えてくるとケイティが馬車から飛び降りて駆けて来た。
そして「今夜はあそこで野営だって」と言葉にする、その言葉に頷くとケイティと一緒に村へと進んだ。
村に着くと村人に挨拶をして村の事を聞く、村人の話しでは、この村には、駐屯している兵士がいないようである。なので、各々のパーティーで見張りをしなければならないようであった。
近くに野営が出来る場所があるのでそこを利用するようにと言われたので、その場所に向かう。
村は周囲1キロメートルほどで、1メートル程の石造りのレンガでおおわれ、果実の木がその囲い一杯に生い茂っていた、その中央に30軒ほどの家が密集している。
入り口を出て少し行った所に、野営をしていた形跡を見つけて、その場で野営をする事にした。
馬車を止めるとタイロンが点検を始め、アサトとクラウトは馬を近くにある馬房へとつないだ。ちゃんと、馬房があるのに二人は驚いた。
システィナとアリッサは夕食の準備に入り、ケイティは薪を集め始めた。
炊事に使う水は、村からもらう。
アサトとクラウトが水を貰いに行くとケイティもついて来たので、3人で村に入った。
村の長に挨拶をしに行くと、長と少しばかり話をした。
長の話しでは、『オークプリンス』討伐後、この村周辺にもいろいろ変化があったようである。
もともと小さな村だったが、国王の旗を持ってゴブリンや獣人の亜人が物々交換を申し出てくるようになったようである、中には、高額な物と食料を交換してゆく一団もいるそうである。
『ゲルヘルム』から、近辺のゴブリンや獣人の亜人に友好の証として、国王の旗を贈呈した話を聞いていたので、その旗は、『オークプリンス』討伐に参加した者がすむ村だと分かったので、申し出を受けていると言っていた。が、それを利用しようとする輩もいる可能性もある事も考慮はしている、と言っていた。
アサトらも参加したのか?と聞いて来たが、クラウトは、していないと答えた。
ケイティはすこし戸惑っていたが、クラウトの話しでは、小さな村なので気を遣わせたくないとの事だった。
やっぱりクラウトさん…。
それと、この先に大きな湖があると聞いた、その湖近くには、奇妙な生き物が生息していて、近くの村では被害が出ているとの事だった、その被害は、人的な被害では無く、農作物をダメにする被害のようであった。
どんな生き物か聞いてみたが、知らないと答えていた。最近では、狩猟者が、その生き物を狩っているようだが、どうも、うまく狩れていないようである、先日、ここに来た狩猟者の話しで、とにかく…狩りにくいモノのような話であった。
懸賞金が掛かっていない分、真剣になれないのもあるのかもしれないと、長は小さく笑いながら話していた。
その湖がある場所は、次の中継地『アウラ』と言う村の手前にあるようなので、一応寄ってみようと言う話になった。
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