光の少年

天見砂月

光の少年

 こんな夢を見た。

 白と黒だけで構成されたモノクロの世界で、私は一人で佇んでいた。色が付いてない世界はどこか寂しくて、色のない自分が怖くなって、私は、自分以外の人間を探してその世界を歩き続けた。歩いていてわかったことは、どうやら此処は、森の中だということだった。だが、本来色鮮やかなはずの木々や花たちも色を失っており、それは一層、私に寂しさを感じさせた。

 だが、それから歩き続けても、自分以外の人間を見つけることはできず、寂寥感に打ちひしがれる。しかも、歩けば歩くほど、自分を取り囲む影が、濃くなっていくのに気付き、思わず動揺して足を止める。だが、最悪なことにその瞬間、影は私に絡みついてきた。それを必死に振り払おうと私は走り出す。だが、どんなに、走っても振り払えるどころか、影は私の身体を蝕んでいく。次第に、息が出来なくなってきた。

 とうとう、走るのに限界が来た私は、その場に倒れこんだ。どんどん暗くなっていく視界。もう闇に飲まれるのだと思った瞬間、不意に一筋の光がさしたように思えて薄らと目を開けると、そこには、一人の少年がいた。少年は、私に手を差し出して、微笑みかけた。私は藁にもすがる思いでその手を取ると、私を飲み込もうとしていた影は、少年に触れた途端、消えていた。私はそのまま少年の手を借りて立ち上がる。


「もう、大丈夫だよ。」


 そう言って穏やかな笑みを浮かべる少年はこの世界では異質な存在に思えた。少年だけが唯一、色をもっていたのだ。綺麗で艶やかな髪、吸い込まれそうなくらい澄んだ瞳。それはどちらも、金色に輝いていた。

「貴方は、何者なの?」

「もうすぐ、わかるよ。」

 思わず少年に尋ねた私に、そう一言返すと少年は空に手をかざした。私は、それにつられて空を見上げる。すると、白い雲からぽつり、と雫が落ちたと思ったら、透明ではない光輝く黄色い雨が降り出した。さらに驚くことに、その不思議な雨が触れたところから、この世界に色が戻って行った。足もとに咲いていた花も、私の周りを囲む木々も、そして私自身も。 

 

 モノクロの世界ではわからなかった世界はやがて、光に満ち溢れた。


 そして、世界に色と光を戻してくれた少年は、その役目を終えたように、ゆっくりと消えていく。少年が消えた瞬間、私は自分の心に光が灯るのを感じ、笑みを浮かべた。


 そうか、ようやく気付くことが出来た。


 ……あの光の少年は私の中にいたのだ。


                                      END

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