第34話
日は一週間前までに戻る。
「あったぞ。月見里!」
自らのスマホで目的ものを見つけた神が勢いよく声を上げる。その声に僕と明日香は一先ず胸をなでおろした。
「良かった。一か八かだったけどなんとか首の皮一枚繋がったみたいだね」
これで全てが上手くいくわけじゃない。本当の勝負はここからだ。
「でも本当にいいのか?そんなことしても」
そう言った僕に神妙な顔をして聞いてくる神。
「うん。もともとその日にこだわってたわけだしね。僕が合わせにいく必要なんてなかったんだ」
「同じ日を締切にしてるレーベルのコンテストにずらして応募するなんてな」
神は肩をすくめて、続ける。
「一週間前に応募先を帰るなんてきいたことないぞ。そもそも書く前からあらかた提出する応募先は決めておくのが大切なんだ。レーベルごとの特色があってそれが自分の作品に...っていっても今の月見里には関係ねぇか」
「そういうことだね」
僕の頷きに明日香は驚きと呆れが顔に出ていた。
「盲点というより、私はてっきりレーベルを固めた上で応募してるのかと思いましたから。確かに今考えてみれば元々の応募先との相性も微妙だったかもしれないです」
初めて作ったから仕方ないけれど、微妙といわれて僕は少しだけ顔をしかめる。
とにかく、
「このままじゃ量は届いても推敲する時間はない。面白くならないんだったら面白くなるまでの量で調整した方がいいと思ったんだ」
それが僕の出した結論だった。どうしても書き上げた後に余分な時間を取ることができないのは自分自身理解していた。それならば、いっそのこと最低応募枚数が少ないコンテストを選択して納得のいくシナリオで応募したかった。
「変更先の特色としても、ファンタジー推しだから、月見里が書いたものにあってる。応募さえできればチャンスはある。これはひょっとするとちょっとするかもしれないぞ」
ニヤリとした神は僕に視線を送る。そうやって期待を持たせてくれる神のおかげでまだ頑張ろうと思えた。
「まぁ今は応募したその先を考えてないから。ただ最低原稿の枚数が少し落ちただけでまだやることはたくさんあるんだ。まだまだ気は抜けないよ」
レーベルを変えたおかげで目途がたったのは確か。あとは僕が書き上げて、なんども見返してクオリティを上げていく。それだけだ。
「引き続き協力の方、お願いしますねmika先生」
「優太が関わってるんじゃ断れないっす」
神は手を止めることなく、即答してくれた。そんなやり取りを見て僕の頭の中身は一瞬脱線して、
「とはいえ作家かぁ、神は凄いよ。それにしてもペンネームがmikaって...?」
直近読んだラノベが走馬燈のように駆け巡る。ほんの一瞬だったけど、それで十分だった。
「神。お前自分が書いたラノベ、僕にがっつり買わせたな?」
僕が初めてラノベを買いに行った日。神が買わせたオススメセットには、ちゃっかり自分がかいた本が入ってた。
「他の作品は全部一巻だけだったのに、mika先生のだけ三巻まで入ってたから相当お気に入りなんだとばかり思ってた」
「オススメなんだからしょうがねぇだろ」
まぁ自分が書いたものをお勧めしない理由は無いけど。こうはいっても面白かったし。
「現行犯ですね。上倉さん」
「え、月見里さんそっち側なんすか!?」
妹はあくまでも兄の味方だった。
「罰として明日以降も手伝ってもらいます」
「まぁそれはいいっすけどね。ほどほどにお願いしますよ」
神に悪い気がしながらも、僕も一緒にお願いすることにした。
後悔はしたくなかったから。
「よし、みんなやるぞ!」
「あたしが最初適当に決めちゃったものね。あれって」
「とはいえ決めてくれたからここまで頑張れたっていうのはあるから。とにかく別のところがあって本当良かったよ」
今でも運が良かったと思ってる。そのおかげであれから先は一度もモチベーションを落とすことなく執筆することが出来た。
「それで、良い感じのものはかけたの?」
一応聞いてみたという感じだろう。
「出来る限りは尽くしたから悔いはないかな」
周りの支えがあったおかげで、少なくとも当時の僕の全力以上のものはかけたはずだ。そりゃ神が代わりに書いて、明日香が編集してればもっと良くなっただろうけど、二人はそんなことしなかったし、あくまで僕が書きたいものを書くために手伝ってくれた。だからこそやりきったって気持ちが強いんだと思う。
「ならよかったわ」
「でもあれだね、作った瞬間は凄いものが出来たように感じるのに少し時間が経つとまだできたのにとか、色々考えたりすることもあるんだ」
「その繰り返しだから。一度作品がつくれたのなら、次はもっと良いのが作れると思うわ」
月坂の言うように作り上げるまでに気づけたことはたくさんあった。
「実は作りながら別の作品のアイデアがたくさん浮かんでて。早速明日から取り掛かろうと思う」
「会社はいいの?」
「そこは上手くやる。といっても評価だた下がりだから、転職しようと思ってるんだ。いつになるかは分からないけどね」
有給はあらかた使ってしまったからまた貯め直す必要がありそうだ。同じような事態にもなりかねないし、これから大事に使っていこう。
「なら心配いらないわね」
月坂はそう言い残して手に持ったお酒をあおった。
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