異世界物
ソレは唐突にして訪れる。
いつもの風景。いつものルーティン。たわいない会話。何も変わらない日常のはずだった。
信号を無視した故か。はたまた居眠り運転か。今ではもう知る術はないがともかくとして何も変わらぬ日々を全うし横断歩道を通っていた私は物凄いスピードのトラックに撥ねられた。
全身に強い衝撃が走り人体は宙に浮く。小さなころに空を飛びたいなんて願った夢がこんな形で叶うのはいささか皮肉なものだ。
刹那、時の流れが遅く感じ走馬灯のような物が頭の中で流れる。そして思う。ああそうか。私はそれなりに幸せな人生を送れたのだな。と。さすれば現世に悔いはなく未練もない。そうして私は意識を手放す。
気が付けば私は木々に囲まれた空間。恐らく山中にいるのだろう。確かに自分の足で立っていた。仏教的には極楽浄土なのだろうが肉体の疲労や食欲があるあたりそうではなさそうで生前いろいろな宗教の死後の世界を調べておくべきだったと後悔の念を抱く。
どうしたものかと思案しているとがさがさと藪から巨体が姿を現す。
身長は三メートルあるだろうか。ボディービルさえ比ではない程の筋肉質な体。顔は醜く人と豚が混じった顔。これはアニメや漫画でおなじみのオークなのだろう。どうやら私は異世界転生に成功したらしい。
当面は現状の危機を打破すべく辺りに武器が無いか見渡すがおなじみのチート武器は見当たらない。どうやら武器で無双する流れではないらしい。ならばと頭の中で思いつく限りの魔法を唱えてみるが反応虚しく何も起こらない。そもそも異世界だから魔法があると思う方がおかしいのかもしれない。
そんな事をしてるうちに巨体の怪物は手に持っていた棍棒を振りかざしこちらを目視し走ってくるではないか。
「争いはやめましょう」と叫んでみるが反応はない。
そもそも異世界には日本という地名は無いのだ。日本語が通じる方がおかしいか。
これはまずいと背を向け全力で駆け出す。
しかし能力の差が歴然だったか。すぐに距離を詰められたらしく背中に強い衝撃が走る。
勢いで体は前方へ吹き飛びバギッと嫌な音を鳴らし木々に体を打ち付けながらやっと停止する。
骨が何本か折れたのだろう。体を動かそうとするたびに激痛が走り動けない。転生して初めて、いや生まれて初めて自身の骨が折れる音を聞いた。
そうか。これで助けが来る流れかと高を括り苦痛に耐える。
出血もしている様で凍えるように寒く聴覚では怪物が近寄ってくる音が聞こえる。
次第に聴覚、感覚を徐々に手放し遂には意識まで失った。
しかしそれ以降意識を取り戻すことは無かった。努力も無しに特質した力は手に入らない。なんだっていつも現実は非情なのだから。
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