第36話 ハチの巣アフロ


作戦会議も終了したところで怜菜が話す。

「これで役割も決まりましたわね。それじゃあ空音、まずはどこから行きます?」

「そうだね、まずは一番近いところから行こう」

 空音が聡からスマホを受け取ってアプリを起動させると、最初の行先を指示する。

「すぐ近くに反応があるね・・・この感じからすると、今いる教室の一つ隣のくらいにありそう」

「わかりました。それじゃあ行きましょう藤沼さんも」

「はいよ。とっととクリアして終わらせようぜ」


 3人が最初の目的地である「少人数教室1」とかかれた部屋の前に到着する。

「それじゃあ二人とも頼んだよ」

「なんだ、矢那瀬は来ないのか?」

「私はここがアタリじゃなかった場合も想定して、次の行先を決めてくる。そんなに遠くには行かないでこのフロアを探索しておくよ。万が一アタリだったらスマホ解除して渡すから、その時は呼んで」

「わかったよ。じゃあ西園寺さん行きましょう。サポートお願いしますね」

「はい、よろしくお願いします。空音行ってきますね」

「行ってらっしゃい。怜菜気を付けてね。」

 空音は二人を見送った後、スマホを確認しながら他の反応がある部屋を探しに行った。



 聡は空音が離れてすぐ、部屋の扉に手を掛けた。

「開けるぞ」

 まず始めに聡が教室に入る。すると、

「なんだこれは」

「どうしましたの?」

 怜菜からはまだ何も見えず、中の様子が分からない。

「箱が・・・ある」

「ん?それが目的のものでなくて?」

「いや一個じゃないんだ」

 聡は少し教室の中に入り、怜菜も教室の中が確認できるようになる。

「これは・・・困りましたわね」

 教室には縦4横6の合計24個の机が並んでおり、全ての机の上に黒い箱が置かれていた。

「スマホが反応したからこのどこかに電子チップが入っているのは間違いない。これ全部開けていくの骨折れるなぁ」


 聡はどの箱から開けようか悩んでいると、黒板の方にでかでかと文字が書かれていることに気付く。

『↓取れ』


「どういうことだ?」

 聡は黒板に書いてある意味を調べるため、教壇の前まで来る。


 するとそこには、意味深なゴーグルが置かれていた。

「これをつけるのか?」

 聡がおもむろにゴーグルを持ち上げると、その下敷きになっていたのか、糸のようなものが上に消えていく。

「え?」

 状況が呑み込めない中、教室のどこかできゅるきゅるとモーター音のような音がし、それと同時に24個全ての箱が持ち上がっていく。

「おっ、よく分からないけど手間が省け・・・」

 聡が喜ぶ束の間、眼前に箱の数と同数のエアガンが現れる。

「えーっと、まさかとは思うけど・・・」

 聡はこの後の状況を容易に想像でき、手に取ったゴーグルを装着する。そしてその未来は想像の通りになった。



 無数のビービー弾が聡向けて降り注ぐ。

「いでででででで!!!これ早く逃げないと・・・!!」

 聡は背中に大量のビービー弾を受けながら、今さっき入ってきた出入り口に戻る。しかし、

「きゃああああああああああああああ!!」

 ばん!!!!っと怜菜によって勢いよく退路を塞がれた。

「西園寺さん!ちょっと!!開けっ・・・ってどこにそんな力あったの!?」

「きゃあああああああああああああああ!!」

 聡は必死に扉を開けようとしたが、混乱している怜菜にその声が届くことはなかった。

「ぎゃあああああああああああああああああ!!サポータアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 その後30秒間,聡はただひたすらに撃たれ続けた。


 しばらくすると、部屋の中から音がしなくなった。そしてそこに空音が駆けつける。

「どうしたの怜菜?そんな必死になってドア抑えて」

「空音!!今いらしたの?」

「大きな声が聞こえてきたから戻ってきたよ。一応次の行先も近くにあったから決めてきた。それで、聡が見えないけど中?」

「あ、そうでしたわ!藤沼さんが部屋に入った後、大量の銃が現れて、それで・・・!」

「銃?とりあえず中確認しよっか」


 空音と怜菜が扉を開ける。するとそこにはうつ伏せで倒れている聡がいた。

「藤沼さん!大丈夫ですか!」

 怜菜が聡に近寄る。

「な、なんとか・・・あれ、矢那瀬戻っていたのか」

「さっきね。それとこれは・・・」

 空音は部屋の惨状を見てなにがあったのか察する。

「箱の外側と天井とつないであるワイヤーで上に引っ張り、箱が持ち上がった時に、箱の内側から出ているワイヤーがエアガンのトリガーを引っ張る仕組みなっているね」

「さっきゴーグルを取った時に見えた糸のようなものがそのワイヤーで、それがトリガーになっていたのか・・・」

「そういうことになるね・・・それより藤沼」


 状況整理が終わると、空音は聡に近寄って言う。

「イメチェンした?」

「なわけあるか!!てか今この状況で掛ける言葉がそれ!?」

 聡のアフロは大量のビービー弾によって色鮮やかにデコレーションされていた。

「そこまで大きい声が出るなら大丈夫だね。怜菜も無事でよかった。ナイスサポート。」

 空音が親指を立てて怜菜に言う。

「その憎たらしい親指しまってくれないかなぁ!西園寺さんのサポートで俺はハチの巣になったんですけど!」

「私混乱してて・・・!本当にごめんなさい!!」

「藤沼は大丈夫だから。ね、この通り。怜菜が自分を守ったのは良い判断。これからも自分を大切にしてね。あと、よいこは人に向けてエアガン向けちゃだめだからね」

「その忠告はあとで彰人にしとけ・・・」



 その後室内の箱を調べるが、どこにもQRコードは見つからず、ここがハズレであること分かった。

「やっぱりはずれだったね」

「やっぱりって知ってたのかよ」

「知っていたわけじゃないけど、彰人だったら入って一番最初の反応する部屋に、いきなりアタリは置かないんじゃないかと思って」

「だから最初、この部屋の探索を避けたのか・・・」

「そういうこと。それじゃあ次の行先もう決めてるから行くよ」

「待て待て。まだアフロからビービー弾取り切れてないから、あと少しだけ」

「そんなことに時間かけてられない。嫌だけど私も手伝うからじっとしてて」

「い、嫌なら結構です。いやほんとに。一人でできますから。って聞いてる?っていだぁ!髪の毛も抜けてるから!やめてえええええええ!!」


 聡の悲鳴がまた一つ、建物全体に響き渡る。




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きっとこの気持ちは彼方まで 桃ヶ谷悠 @momogayayu

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