第34話 闇の邂逅

 彰人の提案したゲームが始まった。


くじ引きの結果、いつもとは変わったメンツの3チームに分かれることになった。


美桜・花奈重・鳳城チーム

空音・聡・西園寺さんチーム

俺・瀧宮さん・優未チーム



 チーム分けが終った後、彰人はゲームの補足説明した。

・ゲームの会場は旧部室棟(地上4階、地下1階)

・ゲーム中は、各チームに1つ支給されたスマホを使うことができ、以下のアプリが入っている。

 [1]お宝センサー・・・電子チップに反応して強弱の波形を表示させる。

 [2]QRコード・・・QRコードを読み取る。

[3]トランシーバー・・・彰人からの一方的なお知らせ用。

・建物全体にアプリに反応する電子チップが散らされていて、電子チップの入った入れ物にはアタリとハズレが混在している。

・アタリにはQRコードが入っていて、それをアプリで読み取ることでクリアとなる。

・ハズレの箱にQRコードはなく、その中の電子チップは一度入れ物を空けることで、センサーには反応しない仕組みになっている。

・アタリは2つあり、ハズレの数は無数。

・制限時間は1時間


 俺は忘れないように、簡単にスマホにメモを残した。



「ふふふ、それじゃあ私たちが一番にこのゲームを支配してみせよう!」

「おー!花奈重やる気入ってるねー!いこーいこー!」

「ちょっ!そない勢い任せじゃ・・・待ちいや二人ともー!」

 まずは美桜・花奈重・鳳城チームが先陣をきって建物に入っていく。

「よっしゃ俺達もいくぞお前ら!」

「アフロが仕切るのは不安だな」

「そうですわねぇ」

「ってなんで二人とも嫌そうな顔してんだ!って聞けよ!」

 聡を置いていくように、両脇を通って空音と西園寺さんが建物に向かい、それを追いかける形で聡も入っていった。

「とりあえずやりながら慣れて行こう。行こう、瀧宮さん、優未」

「は、はい!」

「罰ゲームだけは嫌じゃ~」

 俺達は他の2チームに多少遅れながら、続くように建物に入った。



~美桜・花奈重・笹寧チーム~


 最初に建物に入ったこのチームは、現在2Fにきていた。

「感じる・・・感じるぞ・・・!こっちから悪の波動をビンビンに感じる!ミオン、ササ!こっちだ!」

「わかりましたであります!花奈重殿!」

「うむ、しっかりついてまいるのだぞ」

 花奈重はスマホを持ってずんずんと進み、美桜はそのノリについて行っている。


 そんな2人の暴走を見ていられなくなり、笹寧が飛び出す。

「2人ともちょっと待ちいや!」

「どうしたササ!別の悪の波動でもっ、んぐぁ!」

「花奈重殿ーーー!!!」

 笹寧のスライディングで花奈重の進行が止まった。


「意欲だすんはええけど、どんなハズレがあるかわからへん以上、慎重にいかなあかんよ」

 勢いを殺されたことで花奈重の中二スイッチが切れる。

「うぅ・・・ごめんなさい」

「あっ、謝ってほしいわけちゃうよ!まぁ程々にせなな・・・それとさっきから気になっとったんやけど、ササってもしかしてうちのこと?」

「ん?ササはササだよ?」

「そない当たり前のよう言われても・・・」

 笹寧が動揺していると美桜が言う。

「そういえばお互いの呼び方まだちゃんと決めてなかったね。花奈重はこれまで通りでいいとして、私のことは好きなように呼んでいいからね」

 これまでの美桜と花奈重を見る限り、意外にもお互いの呼び名が決まっている程度に、裏で打ち解け合っていた。

 笹寧は美桜の提案に素直な気持ちで答える。

「せやね。よろしゅう美桜、花奈重。・・・まぁうちも呼び方は好きにしたってええよ」

「あ、改めてよろしくお願いします・・・ササ」

「よろしくね笹寧ちゃん」

「うぅ・・・ちゃん呼びも慣れてへんからむず痒いが・・・しゃあない。とりあえず、罰ゲームだけは回避できるようやってこか」

 今回のゲームを通し、互いの仲が少しづつ進展していきそうに感じる3人だった。


 そして、ゲームの進行に勢いを戻すように美桜が言う。

「よし!3人の意気投合したところでいきますか!ほら花奈重殿、探知再開だよ!」

 美桜の言葉に花奈重のスイッチが再び入る。

「闇の波動はすぐ近くに感じている。どうやらここが最初・・・いや、最初で最後の闇の邂逅となる」

 3人は『家庭科室』と書かれた部屋の前に着いていた。

「花奈重殿、ここが目的地ですか」

「ああ、そうだ。それじゃあ中に入ろう」

「はい!」

「大丈夫かなぁ」

 花奈重と美桜の後ろから笹寧が付いていく。


 中に入ると、さび付いた調理器具が散乱しており、旧部室棟だけあってしばらくこの場所は使われていないようだった。

 そして、そんな部屋の中心にある椅子の上には、ぽつんと一つ置かれた箱があった。

「あそこが悪の根源で間違いない!2人は危ないからここにいるんだ!」

「了解であります!」

「ちょっと花奈重!そないいかにもな箱怪しすぎだからもっと慎重に・・・!」

 笹寧の言葉も届いてないのか、花奈重は足早に近づき、箱に手を掛ける。

「ふふ、つまらん余興だったが、これでゲームエンドだ!」

 花奈重は箱を勢いよく開いた。そして


 ぱしゃ!!


 何かの飛沫が上がる音がした。

「ぎゃっっ!!」

「花奈重殿大丈夫でありますか!?」

「何があったん!?」


 花奈重は二人の心配する声の方に振り向く。

「何がなんだか分からないよぉ」

 すると、振り向いた花奈重の姿に2人は驚愕する。

「か・・・」

「花奈重殿ーーーーーーー!!!」


 2人が困惑するのも当然、2人から見た花奈重の姿は、頭から胸くらいにかけて黒く染まっていたからだ。

「花奈重殿、おいたましや・・・」

「うえええ」

 美桜と花奈重が状況を呑み込めていない中、笹寧が床におちている何かを見つける。

「これやなぁ・・・」

「笹寧ちゃんそれは?」

 美桜が笹寧に尋ねる。

「割れた風船や。しかも状況から察するんに、黒い液体を詰め込んだ水風船が、箱を開けたら飛び出すようになっとって、それを花奈重が被ってしもうたんやな」

「黒い液体・・・って何だろう。墨汁とか?」

「いや、同じ黒い液体でも今回はちゃうな」

 笹寧が床に飛び散った黒い液体を指でなぞり取り、匂いを嗅ぐ。


「イカ墨やな」

「イカ墨!?」

 美桜が液体の正体に驚いていると、後ろから花奈重の嗚咽が聞こえた。

「なんか生臭いよお。うぇっ」

「花奈重殿大丈夫でありますか!?」

「うぇぇ。今私どうなってるの?」

「えーと、それは」

 美桜が説明しずらそうにしていると、笹寧が手鏡を渡して見せる。

 そして変わり果てた自分の姿を初めてみた花奈重は驚きの表情を見せた。

「こ、これは・・・!」

「あぁそうやな」

 花奈重が手鏡から視線を上げると、自然と笹寧と目が合う。


「「闇だ」」


 二人の息が今日初めて合った瞬間だった。





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