第31話 窮地の末に
今置かれてる状況を忘れて話し込み、緊張が解けきっていたその時、
ガッ!!
俺達は出入り口方から鳴る音で一気に覚醒させられた。
俺達は息を殺して、音の出所である出入り口を二人で注意深く観察した。すると、
ガッ!!!ガガガガッ!!!!
再び先程と同じような音が鳴り正体が判明する。それははここに入る時に封鎖していたドアをこじ開けられようとしていたものだった。
「もしかしてここが気付かれた!?」
「そんな!どうしてですの!?」
俺達は焦りを隠せずなかったが、どうにか抑えて小声で話す。
すると、俺達の気持ちの整理が落ち着く間もなく、ドアの向こう側から声がする。
「怜菜お嬢様、ここにおられるのは分かります。出てきてください」
「「!!!」」
ドアの向こうから聞こえたのは久留生さんの声だった。
(ここがばれた!?でも、どうしてだ・・・ここに入る時、辺りに誰もいないことは確認したのに・・・)
俺の考えを見透かしたように久留生さんが続けて言う。
「最初は黒服たちに任せておけば、いつものように済むと思っていました。しかし、こういうこともあるのですね。漸井様、でしたか・・・。20人掛りの追ってをよく巻かれました。しかし、私たちもそこで諦める訳にはいかないのですよ」
久留生さんがそこまで言うと、俺の携帯が震えた。
「漸井様、今メールにて送らせていただきました。そちらを確認していただければ、疑問もはれるでしょう」
言葉の意味が分からなかったが、はったりで言っている雰囲気ではなかった。
久留生さんに言われるがまま、届いたメールを二人で確認する。
「な!!!!!」
「そういうことでしたのね・・・」
西園寺さんは何かを悟ったように話す。
知らない宛先から届いたメールには一枚の添付画像があり、そこに映っていたのは紛れもないこの木造倉庫に入っていく俺達の姿だった。
「西園寺家は独自で衛星を打ち上げており、そこから得たデータからこの場所を割り当てました。また、漸井様のアドレスは様々な情報網を駆使して見つけ、メールを送らせていただきました」
「久留生・・・・」
「怜菜お嬢様が携帯電話を所持して下さらないので、致し方ありませんでした」
「当たり前でしょう!GPSで24時間行動を監視されているなんて、私には耐えられません!・・・でも携帯電話を持っていなくても結果は変わらなかったようですわね・・・」
「申し訳ございません。そういう訳ですので出てきていただけますか」
「・・・・・」
俺は未だに頭の整理が追い付かず混乱していた。しかしその横で西園寺さんは暗く沈んだ声で俺に話す。
「漸井さん、どうやら私たちは久留生の言うようにここまでみたいですわ」
間を開け西園寺さんは考え込む・・・そして暗い表情から一転、明るい笑みを浮かべて話す。
「今日はとっても楽しかったですわ漸井さん!それはもう、とってもとっても・・・!ここまでご迷惑をかけてしまいましたが、正直とてもわくわくしました。そして、私に野球教えていただきありがとうございました・・・またいつか、一緒に出来る日を楽しみにしていますわ」
西園寺さんは俺に礼を言うと、出入り口の方に向けて歩き出す。
「西園寺さん!」
西園寺さんは俺の呼び掛けに答えず、ただ一度俺の方を振り返り笑った。
彼女の去り際はとても明るい表情だった。しかしそれはどんなに鈍感な人でも気が付くくらい、無理して作られた偽りの笑みだった。
西園寺さんは外で待っていた久留生さんの傘に入り、車に向かって歩き出す。
(俺は何もできないのか・・・・彼女の気持ちに気付いていながら、傍観することしかできないのか・・・そうじゃないだろ!」
「行くな!!」
俺は考えるよりも先に体が動いており、彼女の左手を掴んでいた。
「え!?」
俺の行動に反応して黒服達が反応するが、それを久留生さんが手を上げて制止する。
「いいんですか?」
「・・・」
黒服の言葉に久留生さんは答えない。
そして驚いた様子で西園寺さんは俺に言う。
「漸井さん、どうして・・・!」
「いいんだ、これで」
すると、久留生さんが語りかけるように話す。
「漸井様、どうかなされましたか?」
「どうもこうも、これじゃああんまりでしょう」
「というと?」
「西園寺さんはただ遊んでいたかっただけなんだよ。普通の高校生らしい生活がしたかっただけなんだよ」
「えぇ、分かっております」
「ならどうして!」
「怜菜お嬢様は、西園寺家のご息女。それがどういう意味かご説明は不要でしょう。お嬢様は将来、人々の上に立たれるお方です。そうなるには、幼いころから様々事を身につける必要がございます。それはお嬢様の望む生活を犠牲にしてでも」
「それは分かっている・・・けど・・・!」
「感情的に行動してはなりません」
「論理的な行動は大切だ・・・けど感情的な行動をしない人間はそんなのロボットと同じだろ。これが西園寺さんの将来の為に、間違った行動かもしれない。けれど俺は今、西園寺さんを連れて行かせたくない!久留生さんは俺なんかよりずっと彼女の傍にいながら、何も感じないのかよ。西園寺さんが何を思って、何をしたいのか」
俺はは久留生さんに、気持ちをぶつける。
久留生さんは俺の話を一通り聞いた後、静かに話し出す。
「知っておりますとも。お嬢様の生まれた時からお世話をさせて頂いたのです。知らないわけがないでしょう。しかし、私は西園寺家に仕える執事。己の感情を押し殺し、立場を理解し、その上で業務を遂行する・・・私もね漸井様、あなた様のように感情的になれればどんなに楽か・・・」
久留生さんは左手の中で強く握る。
「久留生さん・・・」
互いに間に暫しの静寂が訪れる。
しかし、その静寂を打ち消す存在が車の中から出て来たのであった。
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