第23話 同胞参戦
勝負に負けた。
俺は彰人の手からスマホが手渡されるのを只々眺めていた。
「魂が震える素晴らしいい勝負だった!さすがカタストロフィといべきか」
「負けたうえにその呼び方は効くから止めてくれ・・・」
「うーん、それじゃあなんて呼べばいい?」
「蒼太でいいよ、皆そう呼んでるし」
俺はせめて呼び名の訂正だけでも済ませたかった。しかし、
「んー」
「どうした?」
「それ、なんか違和感ない?」
「カタストロフィに違和感ないとでもいうのか!!」
「え!?えぇ!?」
「はぁ・・・ほんと昔の俺と話しているみたいで疲れるな」
どうにか分かってもらい、呼んでもらう度に心労する心配は減った。
「それじゃあ蒼太も私のことは」
「おう、よろしくな花奈重」
「いや、そうじゃなくてルシフェルって・・・」
「よーしじゃあ用事も済ん・・・でないけど、一先ず帰るかー彰人ー」
「そういえば、皆屋上で待たせていたな」
俺と彰人が謎の部室を後にするため扉を開けて屋上に向かう。
「ま、待って!」
しかし一歩出たところで俺達は花奈重に呼び止められ、振り返る。
「その、あの・・・よかったら二人とも部活に入らない?」
「部活ってえっと・・・」
「摩天楼の廃城にて虚妄の浮世を改変部」
「摩天楼の廃・・・って活動内容がまったく想像つかないんだけど、何する部なんだここ・・・?」
「摩天楼の廃城、つまりこの部室という城を拠点に、虚妄の浮世を変えるのだよ!」
「言い直した気になっているようだけど全然わからん。部員数は?」
「私のみだ!」
(どうしてうちの学校は部員数一人で部活を承認しているんだ・・・だからこうした分けのわからない部活が増えていくんだな・・・)
もう殆ど興味は無かったが最後に一つ質問をする。
「ちなみにどうやって虚妄の浮世を変えていくんだ?」
「よくぞ聞いてくれた!これを見るがいい!!」
花奈重は自らの右腕に巻かれている包帯を解き、俺達に見せつける。
「それは・・・!!」
包帯が解かれた彼女の腕を見る。そこには肘から手首にかけて二匹の龍が交差するように伸び、手の甲には魔法陣が描かれていた。が、水生のボールペンで描いたのか、ところどころ滲んでいる。
「これは龍の力が魔法陣に流れることで力を生み出す仕組みになっている。先程の勝負でもほんの一部だが力を行使していたんだ。けど、世界を改変させるとなると訳が違う。幾星霜にも渡って魔法陣に力を溜めなければならない。そして溜め切った後、膨大な力はそのまま使うと暴走してしまうから、我が左目の邪眼を触媒に使うことで自在に力を操る。最大魔力と邪眼、この二つが揃った時、光と闇を司る二匹の龍が現世に顕現し世界を改変するのだ。今も力を蓄えているのだが、この力は邪眼を持つ私でも制御が難しく包帯を巻いていないといつ暴走するか分からない。二人とも包帯を巻き直すから手伝ってくれ」
俺と彰人は話を聞き終えると、互いに向き合い合図を送る。
「彰人」
「蒼太」
俺達は再び振り返り部室の扉を閉めた。
「二人とも待ってえええええ!!!一人だとこれ結べないから手伝ってええええ!!!!」
後ろから花奈重の哀し気な声が響いたが、俺達は気にかけることなくその場を離れ、無心で昼食を済ませた。
放課後
俺は昼に削除出来なかった動画のことを引きずりながら、皆と練習を行っていた。
「蒼太ーまだ昼の事気にしてんのかー?」
「俺はこの先花奈重がいつどこであれを流さないか不安で仕方ないんだよ」
「それ・・・なんだかわくわくするな!」
「ちっともしねぇよ!!」
俺と彰人がキャッチボールをしながら話していると他の皆が話に食いつく。
「何?昼に何かあった?」
「そういえば二人とも遅れて来たよねー」
「それに、着いては早々一言も話さず食っちまうしよ、何があったのか教えろよ」
空音たちに昼の件について聞かれる。
「あー・・・そのことなんだけど、クラスに峰本花奈重ってやついるだろ?そいつと昼にいろいろあったんだよ」
「いろいろとはなんじゃ?」
「んー優未にはまだ難しいかなー」
「そんなことないわい!いいからはよう教えるのじゃ!」
「そのーあれだ・・・」
俺が返答に困っていると、
「花奈ちゃん・・・?」
「ん?瀧宮さん花奈重のこと知ってるのか?」
瀧宮さんの反応を見て、俺はとっさに話題を変えた。
「うん、中学から一緒だから・・・」
「そうだったんだ」
瀧宮さんの呼び方からして二人の仲は悪くないようだ。
すると、美桜が瀧宮さんに尋ねる。
「私もよく知らないけど、あの子っていつもあんな感じなのー?」
「うん・・私が会った時からずっと変わらない・・・でも花奈ちゃんはああ見えていいこなんだよ・・・」
瀧宮さんが花奈重をフォローしてるのをよそ見に、聡と優未が話す。
「峰本っていつもアクセサリーすっごいつけてんだよなー」
「そやつはそんなに奇抜なファッションなのか?」
「あーそっか、優未ちゃんは1年でクラスも違うからわかんないよな。えーっとチロリアンハットに眼帯、チョーカー・・・あとなんかあったか?」
「ほー、そうたん達のクラスにはすごい娘がいたものじゃな」
俺達はしばらく花奈重の話題で盛り上がった。
話している途中、優未が何かに気付いたのか俺たちの後方を指差して言う。
「まさにあそこにいる娘にそっくりじゃな!」
「ん?」
俺は指された方を向く。するとそこには、体操着姿の花奈重が腰に手を当てて立っていた。
「なんであいつこんなとこにいるんだ・・・」
俺らが気づいたのを確認すると、花奈重がこちらに向かって歩いてきた。
「カタ・・・蒼太、なぜ私をよんでくれなかった」
「お前何しにここに来たんだよ・・・」
「放課後、蒼太の姿が見えないからどこにいるのかクラスメイトに聞けば、ここにいると教えてもらい来たのだ」
「蒼太に何か用があるのか?」
聡が尋ねる。
「蒼太は我が同胞で同じ思想を持つもの。私たちは二人一緒にいることで、計り知れないエネルギーが得られると確信しここに至る」
皆が話の整理に追い付いていなかったが、花奈重は話を続ける。
「聞けば人数が足りてなくて困っているんだって?」
「そうだけど・・・」
花奈重はそこで一度間を開けた後、胸に手を当てて言う。
「私が仲間に入ろう!!」
「「「「へ!?」」」」
「我が同胞が困っているんだ、助けない訳にもいかないよ。それに私も蒼太の傍でエネルギーを蓄えつつ、呪文の研究等したいからね」
「「「「・・・・・・」」」」
「お、おーそうかそうか!!よ、よし!何はともあれ新しいメンバーだ!皆、歓迎しようぜ!」
皆が理解に追いついていないことを利用し、強引に話を変える。しかし・・・
「うん、私たちも全然歓迎するよー!でもねー」
「そうだな、一部説明が足りないように感じるね」
「うむ、そうじゃの」
「瀧宮さん」
聡が促し、皆の総意を瀧宮さんが言う。
「花奈ちゃんあのね、花奈ちゃんの言う・・・エネルギー?とか・・・同胞?とか皆分かっていないの・・・それでね・・・」
「おおー!来瑠もいたんだね!そっかー、最初から理解は出来ないかー・・・よし!今手っ取り早く説明出来るいい物を持っているから、それを使おう!」
「え・・・」
俺は嫌な予感しかしなかった。
すると花奈重はズボンのポケットからスマホを取り出した。
「聞くがいい!!スイッチオン!!!」
「ああああああああああああああああ!!!」
俺の必死の制止は間に合わず、無残に俺の黒歴史はグラウンドに響き渡った。その奏でる音は、俺にとって死の旋律そのものだった。
それから再開した練習で皆バッティングをするたびに俺の痛い台詞を言ったり、俺の見えるところで急に胸や目を抑えて体を小刻みに震わせたりと、弄られ続ける散々な一日だった。
しかし、俺が犠牲になった甲斐があったのか、花奈重は早くにチームの皆と打ち解け、チームが一段と賑やかになったことは素直に嬉しかった。
チーム完成まで、あと2人―――
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