第22話 中二病しりとり
3限終了のチャイムが鳴った。
俺は席を立った峰本の後について行く。
峰本は売店でクリームパンとチョココロネ、自販機で苺牛乳を買うと教室とは逆方向に向かった。
(どこに行くんだ・・・?まぁなんにせよ、人混みが少ないところに行ってくれるのは、声をかける身として好都合だ)
ついて行くとある部屋の前に着き。峰本はその部屋に入っていった。
(”摩天楼の廃城にて虚妄の浮世を改変部”・・・・なんだこの怪しい部室の権化と言わんばかりの部屋は・・・・)
俺は少し躊躇ったが目的を遂行するため、扉を少し開けて隙間を作り、中を覗いた。すると、
「ふふふ、この時を待ち侘びていたよ・・・」
(ん?昼食を食べにきたんじゃないのか?それとも余程腹が減っていたのか・・・?)
峰本は上着のポケットに手を入れ、スマホを取り出した。
「ではさっそく、我が魂を練磨しようではないか!奏でろ!震え導け我が魂!リボオオオオオオオオン!!!!」
「待てええええええええええええええい!!」
「だ、誰!?」
俺は峰本がスマホで例の動画を再生する寸でのところで止めに入った。
「誰って、同じクラスメイトの顔と名前も覚えていないのか」
「私は興味のないことには無関心なんだ」
「くっ・・・」
(昔の俺と会話しているみたいで耳が痛い・・・)
「それで、私に何か用があってきたんでしょ」
「あぁ。そのスマホに映っている動画の詳細を教えてもらうために来た」
「ほほう!まさか私以外に信者がいたとは!素晴らしい!」
「いやっ・・・」
峰本の勘違いを訂正する間もなく話が続く。
「それでどうしてこの動画について知りたい?」
「それは・・・」
「理由を話してくれなきゃ教えられないな」
(その動画を違反通告して消してもらうため・・・なんて素直に言ったら最後、動画の情報を得ることは叶わなくなる。言いたくはなかったが、自分を犠牲にして聞き出す他ないか・・・)
俺は決心し、理由を話す。
「その動画に映っている”暗影カタストロフィ”は昔の俺で、久しぶりに昔の姿を拝みたくなってな・・・」
「ふっ・・・ぬけぬけと我が城に入って来て、何を言うかと思えば・・・虚言甚だしい!でたらめを言うな!」
(声聞いて分かんねぇのかこいつ・・・)
何をすれば信じてもらえるか必死に考え、一つの案が浮かんだ。
(進んでやりたい方法ではないが、迷っている隙にまた再生されかねない・・・クソッ!!)
俺は感情を殺して言い放つ。
「我、天啓の導きにて降誕せし者・・・・・名を万象の紅皇・・・・・・暗影カタストロフィ!!!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
塞ぎ込む俺と、大興奮の峰本・・・互いの間に酷い温度差を感じた。
「まさに!この動画の主ではないですか!うむうむ、私は最初から知っていたよ」
「うそつけ」
「いだぁっ!」
俺は峰本の眉間目がけてチョップをした。
「じゃあほら、分かったなら教えてくれよ」
「うぅ・・・」
峰本はスマホをポケットから出し、俺に渡そうとした、
その時————
「そこまでだ」
「!」
聞き覚えのある声・・・振り返ると予想通りの男がいた。
「彰人・・・どうしてお前がここにいるんだ」
「昼休憩直後こそこそ教室を出て行くような怪しいやつを俺が見逃すか」
「見られてたか・・・」
「カタストロフィ、この人は?」
「同じクラスメイトだろ・・・てかその呼び方やめろ」
「ふがっ!」
俺は側頭部に手刀を入れる。
「お前らそんなに仲良かったのか?」
「殆ど初めての仲だよ」
「ふーんその割には打ち解けてるじゃん。それで、動画の詳細分かったみたいだな」
「朝、峰本のポケットからはみ出てるの見えたからな」
「峰本は昔から知っていたのか?」
「そうだ。邪眼の共鳴によって見つけ出した。この中の数々の呪文は私の内なる力を呼び起こす・・・まさに私のエネルギー源になり得るものだった」
「んな、大袈裟な・・・」
俺がドン引きしていると彰人が言った。
「峰本お前・・・そんなに喜んでくれたのか・・・!」
「時が許す限りずっと聴いていたいと思った」
「そうか・・・・・・・・ならもうその動画は殆どお前のものだな」
「おい!!!」
「え?でもこれは・・・」
「それは元々俺が新しく編集して作ったものだった。だが、これまで蒼太や皆に聞かせても一切好印象を得られなかった。だが峰本、お前だけは違った!これを聴いて心から喜んでくれた。お前のようなやつに視てもらえれば俺はもう十分だ」
「ありがとう・・・こんなに素晴らしいものに出合わせてくれて」
「あぁもうそれはお前のものだ。蒼太はそれを消そうとするからスマホを渡すなよ」
「何!?」
(やばい、このままだと本当に動画が消せなくなる・・・)
「待て待て、その動画の肖像権は俺だ。即ち所有権が俺にあると言っても過言ではないはず!分かったら早くスマホを渡すんだ!お前が持っていていいものじゃない!」
俺は峰本からスマホを奪おうとする。
「いやあああああああ!!」
「はなせええええええ!!」
この小さな体のどこにこんな力があるのか不思議に思うほど、スマホは離れなかった。
そして俺がスマホを取るため奮闘していると————
パンッ
彰人が両手を叩いて注目を集めた。
「二人とも、一度スマホから手を離せ」
彰人が俺達の手からスマホを取り上げ言う。
「この動画の所有権は心から中二病を愛したものが持つべきだと俺は考える」
「は?」
「うむ」
完全に俺だけ置いてけぼりだった。
「そこで!この動画の所有権をゲームで決めようじゃないか!」
「おお!」
「・・・・・」
俺が止める暇を与えず、彰人はゲームの説明を始めた。
「今回お前らにやってもらうゲーム、それは・・・しりとりだ」
「え・・・しりとり?」
「ただ今回やってもらうのは、普通のしりとりではない・・・”中二病しりとり”だ!」
「???」
「ルールは簡単。言える言葉が中二病的なワードであればOK。言葉は限られていると思うし、濁音・半濁音は付け替えありで行う。『が』で終わったものは『か』と『が』どちらで答えてもいい、みたいにな。それと昼休みも無限じゃないし、各ターン30秒以内に答えること。それ以外のルールは普通のしりとりと同じ。言葉を言う際、それが中二病なワードであるかは俺が公平にジャッジする。以上、双方これで問題はないか?」
「問題ない。動画は消させないし、私が持ち主に相応しいことを認めさせてあげる」
「蒼太は?」
(彰人がこういう遊び事を始めたら誰にも止められないな・・・)
俺はゲームで負かして取り返すことに決めた。
「お前が持つに値する女か見定めてやるよ!」
「よし!それじゃあ意見もまとまったところで!ゲームスタートだ!!」
勝負は俺の先攻からに始まった。
「カタストロフィの好きな文字から始めていいよ?」
「負けてから言い訳するなよ」
俺は何から言おうか考える。その時、ふとこの部屋に入ってきた時のことを思い出し、最初のワードを決めた。
「最初の言葉は・・・"摩天楼"だ!」
彰人の方を見る
「・・・・・」
(よし、通った!それじゃあ相手のお手並み拝見といこうか)
俺は何がきても対処できるように相手の出方を窺う。
「ウロボロス」
(ウロボッ・・・!くっ、かっこいいなんて思っている場合じゃないだろ!す・・・す・・・す・・・)
20秒弱考え言う。
「崇高!」
(通ったか・・・彰人の判定基準が分からない以上、時間に余裕をもって答えていきたいがこの中二病しりとり・・・ワードは思い付いても繋げるのが難しい・・・だがそれは相手も同じ条件!次はそっちの番だぜ)
なんて、俺が思考を巡らせていると、
「
(早!!5秒もかかっていない・・・!)
「魂!」
「
「異能!」
「運命」
「因果!」
「
「
勝負は常に俺が時間ぎりぎりで答える劣勢で続く。
そして、勝負が開始されて3分が経過した。
「堕天使」
「ジハード!」
「
「く、空夜!!」
俺の方はもう限界だった。それを察したのか峰本は言う。
「カタストロフィたる貴方がもう限界?」
「まだまだこれからだ・・・」
「そう、じゃあこれで終わりにしてあげるね・・・・"闇"」
俺は頭をフル回転させ、中二病と思しき言葉を引き出しまくる。
真理・煉獄・聖域・ユグドラシル・深淵・虚無・ラグナロク・刹那・ダークマター・パラドックス・カオス・カルマ・カタルシス・カタストロフィ・終焉・輪廻・永劫・空霊・・・・・・・
いくつも言葉は出したが、結局『み』から始まるものは思いつけず、ついに———
「はい、30秒経過。という訳で・・・・・この勝負、峰本の勝利ー!!」
「よし!!」
「まじか・・・」
決して負けてはいけなかったこの一勝負。その負けを実感した瞬間、俺の思考は"闇"に呑まれた。
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