第17話 特別メニュ―の予兆


 4月24日、木曜日の放課後。


 エスケアはグラウンドで練習していた。

 俺は少し遅れて到着し後、彰人に耳打ちして皆を集めてもらう。


「しゅーーーごーーーー!!」

 彰人の呼び掛けで皆が集まる。

「えーただ今聞いたところによりますと、我らが蒼太君がまた新しいメンバーを連れてきてくれたそうだ!!」

「「「おーー!!!」」」

「そんな大袈裟な」

「それでそれで!誰なのさ!?」

「まぁもったいぶるつもりもないし・・・おーい、こっちこっちー」

 

 俺は皆の後方に向けて呼びかける。メンバーは皆振り返り俺の視線の先を見る。

暫しの間があったが観念したらしく、部室棟の陰からひょっこり顔を出し、顔を伏せながらトコトコと一人の少女が皆の前にやってくる。

「知ってる人もいると思うけど、こちらが———」

 俺が途中まで言いかけた途中で、

「あー!くるるんだー!!」

「ふぐっ!!」

 美桜が瀧宮さんに抱きつく。

「あれ、美桜って瀧宮さんと知り合いだったのか?」

「今朝仲良くなったんだよー!ねーくるるん!」

「ぅ・・・うん」

 

 聞けば、今朝たまたま早起きした美桜が教室で花の水やりをしていた瀧宮さんに会い、そこから話すようになったようだ。

「くるるんはお花博士なんだよー!なーんでも知ってるの!」

「み、美桜ちゃん・・・!そんな私・・・」

「はいはい、美桜もそこまでにして」

「あ〜〜れ〜〜」

 このままでは瀧宮さんが弄られ続けて話が進まないので、美桜を瀧宮さんからひっぺがし話を戻す。


「とまぁ、こちらの瀧宮さんが今日から新しく参加することになった。瀧宮さんは園芸部との掛け持ちにになって、今日みたいに少し遅れて参加することもあるけどいいよな」

「もちろんだとも」

「おっけー!」

「俺もいいぜ」

「いいんじゃないかー」

「ありがとうございます・・・改めて、瀧宮来瑠葉です。・・・・く、くる・るんは恥ずかしいですが、好きに呼んでください・・・。えっと、野球は未経験ですが少しづつ慣れていきたいと思います・・・よろしくお願いします・・!」

 瀧宮さんが皆との挨拶を済ませる。



すると空音が尋ねる。

「蒼太が今日遅れてきたのは、来瑠葉と花壇に行ってきたから?」

「あぁ、最近瀧宮さんの仕事手伝いながら色々教えてもらってるんだ。さっき美桜も言ったけど、瀧宮さんは本当に花について詳しくて、聞いてるだけで面白いんだぜ」

「へぇ、私も話を聞いてみたいな」

「いいないいな!私も明日くるるんのとこ行こー!」


皆で瀧宮さんのところに押し掛けにいく画が浮かび、制止する。

「あーまてまて、そんな大勢で行ったら瀧宮さんが迷惑だろう。なぁ?」

「えっと・・・私もお花に興味を持ってくれる人が増えるのは嬉しいから、その・・・大丈夫・・・・!」

(え、瀧宮さん大丈夫なのか)

 俺は瀧宮さんが無理をしているのではと思い顔を覗いてみた。しかし特段本当に困っている様子はなく、むしろ本当に喜んでいるようだった。


「やったー!くるるんも良いって言ってるし行こー!」

「そうだな・・・でも蒼太の言うように大勢で追いかけて迷惑をかけるような事は避けよう。2,3人程なら大丈夫かな来瑠葉?」

「う・・・うん、大丈夫・・!」


そして、いいところで彰人が両手を叩いて知注目を集める。

「お前らー瀧宮が気になるのは分かるけど、練習するぞー」

「それも、そうだな。因みにさっきまで何してたんだ?」

「いつもと同じ、最初はキャッチボールだ」

「それじゃあ、瀧宮さん今日初めてだし俺が教えようかな」


俺が瀧宮さんをキャッチボールに誘おうとすると、

「まて、蒼太。瀧宮が新しく加わったから、今日はキャッチボールはもう止めて、いつものとは少し趣向を変えようと思っている」

「ん?」

 なにやら彰人が新しい練習メニューを考えてきたようだ。


「蒼太のおかげで俺達もようやく6人・・・・そこで!今日は紅白戦をしようと思っている!」

「まてまてまてまて」

 間髪入れずに聡が彰人を制止する。


「どうした聡、トイレか?さっさと行ってこい」

「どうしてこのタイミングでお前にトイレに行くのを断るんだ・・・俺が言いたいのは紅白戦のことだよ!試合をするなら最低でも18人は必要だろ」

「私もそれには同感」

 聡に続いて空音も意見をする。

「この人数を二つに分けたのではまともな試合は望めないでしょ。それは蒼太と彰人が一番よく分かっているはずだよね」

 確かに、野球部に二人で挑んだ時は殆ど試合にならなかった。


 しかし、彰人の考えは違うようだった。

「わかってるよ。俺もこの人数で本格的な試合ができるとは考えていない。だからこの人数で競える方法を考えた」

「なんだそれは?」

 聡が尋ねる。

「バッティング戦をするんだよ」

「「「「「?」」」」」

皆で一斉に首をひねる。

「いや、お前ら難しく考えるな」

 それを見兼ねて、彰人が皆に説明をする。


「まず始めに、二チームに分かれて互いに投げ合う。その際守備は付けず、打ったボールの飛距離をポイント制にする。例えば、外野ゴロは2点、ホームランは3点、内野ゴロは1アウトになるが1点、みたいな」

「内野ゴロも1点なのか?」

「まずは前に飛ばさねぇと始まらねぇからな。それに今回は瀧宮は野球初めてだろ。まずは打つことの楽しさを知ってもらうのも今回の紅白戦をする意図もある」

「なるほどな」

「野球の楽しさはいろいろあると思うけど、まずはボールを打つ楽しさをしってもらいてぇな。初めてヒットを打った時の感触は今でも覚えているもんだ。な、そうだよな蒼太」

「彰人は野球始めた時から空振りすることの方が珍しいけどな」

「そうか?まぁ今回は俺達のバッティングを強化をしつつ、瀧宮には俺達の一員として楽しんでもらおう」


 瀧宮さんを歓迎することには歓迎だが、少しある疑問を彰人に投げる。

「確かに打つことで楽しさを伝えるってのは分かったけど、いきなり試合なのか?トスバッティングとかでもいいんじゃないか?」

「確かにそっちの方が練習としては正攻法かもしれないけど、楽しさを伝える点では試合の中で打った方が大きくないか?」

「そうだけど・・・でもいきなり俺らと同じ土俵ってのは酷だと思うんだが」

「そこでだ!」

 彰人は俺の疑問に答える準備していたようだ。


「瀧宮がバットにボールを当てたものは全てホームランとする!」

「それはヒット性に限らず、ファールもか?」

「もちろん。瀧宮もこれでどうだ?」

「う、うん・・・私は任せるよ・・」

「よし、決まりだな!」


 そうして瀧宮さんの歓迎を兼ねた、紅白戦が始まろうとしていた。

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