第18話 紅白戦(前半)


「よーし、それじゃあこれからチーム決めをするぞー。じゃあ蒼太は———」

 彰人がチーム分けをしようとしたその時、



「待つのじゃあああああああ!!!!!」

 彰人を除いた全員が一斉に彰人の後ろにいた人物に注目する。


 そこにはあの入学式に壇上でスピーチを行った優未がいた。

「ゆみたん!!」

 美桜は優未に抱きつき、彰人は溜息をついていた。

「おー!みーちゃん!元気にしとったかのー!」

「うんうん!!」


 美桜と優未がじゃれていると、優未の後ろに彰人が立っていた。

「ふごっ!!!」

 彰人の手刀が綺麗に決まる。

「あー!?ゆみたん大丈夫ー!!??」

「うぬぅ・・どうにか大丈夫じゃ」

 美桜が優未を心配していると、彰人が続けて言う。

「なぁ優未、どうしてお前がここにいるんだ」

「うっ・・・」

 優未が一歩後ずさる。


「だって・・・」

「だって?」

 優未は彰人に気圧されながら思いを言う。

「わしだって遊びたいんじゃ!!!!」

「はぁぁぁぁ・・・・」

 彰人が再び長いため息をつく。


「彰にいがいつも楽しいことして、遅くに帰ってくるのを待つのはもう耐えられん!!」

「それは説明しただろ、俺達は8月まで野球で忙しくなるからって」

「理解はしとうた・・・けど納得はしとうない!」

「お前な・・・」

 彰人が優未に呆れていると、


「入りたいなら入れてやれよ彰人」

「聡・・・」

 聡が会話に割って入る。

「メンバーも足りてないんだし、断る理由なんてないだろう」

「そうだけど、さ・・・」

 珍しく彰人がどもる。


「もじゃ男の言う通りじゃ!」

「も、もじゃ男・・・?」

 聡が聞き返すがそれを無視して他のメンバーも続く。

「私も楽しいメンバーが増えるのは歓迎だよ」

「私も当然賛成ー!」

「わ、私もいいと・・思います・・」

 女子メンバーも全員賛成の意を示す。


 最後に彰人が俺の方を見る。

「まぁいいんじゃないか」

「蒼太もか・・・」

 全員の賛成意見を聞いて彰人が折れる。

「分かったよ、好きにしろ」

「いいいいいぃぃぃぃぃやったのじゃあああ!!」

 優未が感情を爆発させ、両手を上げて飛ぶ。

「これからよろしくね、優未」

「やってねゆみたん!!」

「よ、よろしくお願い、します・・!」

「よろしくな!」

 みんなで優未を歓迎する

「改めてよろしくな優未」

「うむ!そうたんも皆もよろしゅうの!!」


 こうして挨拶も済ませたところで俺は今後のことを話す。

「これで7人、あと2人か」

「あ、そうたん。そのことなんじゃがな・・・」

「ん?」

 優未が少し申し訳なさそうに言う。

「エスケアに入れて貰えたのは嬉しいのじゃが、そのな・・・わしを一人として数えてほしくないのじゃ・・・」

「え?・・・それはどういう?」

「エスケアには入るけど、試合や練習には出ないってことじゃ」

 俺達は優未から変わった申し入れを受ける。


「私たちと一緒に野球できないの?」

 空音が尋ねる。

「すまぬのー。わしも選手として出たいのはやまやまなんじゃがの・・・」

「えーどうして野球一緒にできないのー!」

「野球が苦手?」

「そ、そうじゃのう・・・」

「わ、わたしも初心者だから、大丈夫だと思うよ・・・」

「やるのも苦手というのもあるんじゃが、えぇっとのお・・・」

 優未がどう説明していいか悩んでいる。


 それを見かねて聡が言う。

「どういう理由かしらないけど、別にいいんじゃないか?」

 聡の同意に彰人も続く。

「まぁ俺もさっき認めたからいいけど、そうすると優未はエスケアとして何をするんだ?」

「野球以外は極力参加するぞ!それと野球の時も選手以外ならわしも手伝うのじゃ!!」

「了解、俺はそれでいいけど、皆もそれでもいいか」

「私は構わないよ」

「当然!!」

「う、うん」

「おう!」

「蒼太に任せる」

 優未の立場を了承し、改めてエスケアに歓迎する。



「ありがとーの!それじゃあ早速しようかの!!」

「え?」

 俺は優未の発言に彰人に片鱗を感じる。

「え?じゃないぞそうたん!紅白戦じゃろ?」

「あ、あぁそうだったな、それで優未は紅白戦の間何をしてるんだ?」

「選手ができないなら球拾いでもしてるか」

 彰人が優未を適当に扱う。

「そんな地味なのいやじゃああああああ!!!」

「我が儘だな・・・それじゃ静かに観戦してるか?」

「それもいやじゃ!」

「じゃあ何がしたいんだよ」

 

 優未はその言葉を待っていたかのように言う。

「監督じゃ!!!!」

「は?」

「だーかーらー監督をしたいのじゃ!!」

「いや監督って・・・」

 彰人が優未を否定しようとすると、

「したいのじゃ!したいのじゃ!したいのじゃ!したいのじゃ!したいのじゃ!したいのじゃ!したいのじゃ!したいのじゃ!したいのじゃ!したいのじゃ!したいのじゃ!したいのじゃ!したいのじゃ!したいのじゃ!したいのじゃ!したいのじゃ!」

「だーーーー!!わかったよ!!それでどっちの監督するんだよ」

「ん~~~・・・どっちもはだめかの?」

「駄目に決まってんだろ」

「どうしても駄目かの?」

「駄目だ」

「う~~~~~~」

 優未が不服そうな態度をすると、彰人がため息をついて言う。

「わかった、それじゃあ両チームの中立的立場として審判もやれよ」

「うむ!まかせるのじゃ!」

 こうして優未に監督兼審判役が任命された


 俺は不安になって彰人に聞く。

「彰人、ほんとに大丈夫なのか」

「まぁどうにかなるだろ」

「どうにかって・・・」

 聡も俺と一緒で不安に思ったのか彰人に聞く。

「優未ちゃんは野球のルールしってるのか?」

「んー・・・もしかしたらわからねぇかもな」

「おいおいおいおい・・・」

 

 一部メンバーの不安もそっちのけで優未は話を続ける。

「それじゃあチーム分けをしようかの!!」

「ゆみたん監督いいぞー!」

「ありがとーみーちゃん!」


 そうして優未がチーム分けを始めた。

「じゃあまず紅チーム!一人目は・・・・・・」

 皆の視線が優未に集まる。


 そして———


「もじゃ男おおおおおおおおお!!」

「うおおおおおおおおおおお!!」

「続いて白チームは一人目は・・・・・・・」

 続けて今度は白チームの一人目を発表する。


「そうたああああああああん!!」

「うおおおおおおおおおおお!!」

 とりあえず俺もその場の雰囲気に任せて楽しむ。


 そして優未が次の発表をする。

「白チーム二人目は——————!!!」

「ちょい待てええええええええええ!!!」

 聡が優未の言葉を遮る。

「どうしたのじゃもじゃ男?」

「いやいやいやいや、聞き間違えかな?紅、白と順番に一人目を発表したから、次はてっきり紅チームの二人目の発表かと思ってけど、白チームの二人目を発表するのか?」

「そうじゃよ?」

「ん?・・・んん??その次は?」

「白チーム3人目じゃ」

「その次は?」

「白の4人目」

「次は?」

「白5人目」

「俺一人対お前ら全員じゃねぇかあああああああああああああ!!」

 聡が吼える。


「駄目なのか?」

「いやこれ勝てる見込み皆無だよね!?集団いじめの構図が出来上がっちゃうよね!!??」

「聡」

 彰人が聡に声をかける。

「監督の決定は絶対だ」

「そ、そんなっ・・・うえええええええええ!?!?!?」

「それといい忘れてたけど、負けたチームの代表者はこの後、そいつの家で瀧宮さんの歓迎パーティーをするからな」

「んなっ・・・・!!!」

 

 聡が戦慄した訳、それは昔、俺・彰人・美桜で聡の家でパーティーをした時、俺達が帰った後の部屋は爆心地を思わせる惨状になった(殆ど彰人による被害だが)。当時、聡はその後片付けに数時間を費やしたらしい。


 それを覚えている聡は負け必至の出来レース止めようとする。

「えーっと、そのー」

「あー!私たちの時はそんなのしてくれなかったのにー!!」

 聡が何か言おうとしていたが、美桜が騒いでかき消す。

「わーったよ、お前らの分も含めて、これまでのチームメンバー歓迎パーティにする。これでいいか」

「ふむ、ついでのような扱いだけどそれで手を打つよ」

「やったー!」

 空音と美桜が納得する。


 聡は負けじと言い続ける。

「いや、そのあの」

「よーしじゃあ分かれて試合始めるぞー」

「「「おー!!」」」

「お前ら勝手に始めんなああああああああ!!!」



 その後、理不尽に始められた試合の結果は予想通りと言うべきなのか、彰人の初球ホームラン、続いて空音・俺・美桜・瀧宮さんと順番に打っていき、交代して聡の攻撃になっても彰人の球を打てず三球三振。

 結果16対0の1回コールドゲームで勝負が決した。


 本来コールドは5回か7回に設けられるが、あまりに点差が開きすぎたということで、彰人が一回コールドで試合を終了させた。



 聡はマウンドで両手両膝をついてうなだれていた。

「なーんかあっという間に終わっちゃったねー」

「これだと来瑠葉も楽しめなかったよね」

「そんな、私のことは・・・」

 彰人がみんなの意見を聞いて言う。

「よしっもう一回戦やるか!今度は公平にな!だから優未もそこらへん考えてもう一回チーム分けしてくれ」

「うむ!」

「ほら、聡もいつまでもしょげてないでこっちこいよ、次勝てばさっきのなかったことにしてやるからよ!」

 聡は彰人の言葉に勢いよく反応し、こちらに向かって走ってきた。

「その話本当だろうな!もうあんな理不尽で罰ゲームが決行されるのは御免だぞ!」

「ああ、だが次負ければさっきの話はそのままだからな」

「おう!勝てばいいだけだろ!やってやるぜ!」



 そうして改めて公平に分けられたチームで、二回戦が始まろうとしていた。

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