第4話 壇上の少女
式が始まる前に少しアクシデントがあったようだが、その後は順調に進んでいった。
開式、国家斉唱、式辞、祝辞と行われ、いかにも眠くなるプログラムだった。隣を確認すると、彰人はしっかりとした姿勢で聴いているが、美桜は寝ていた。
(早く終わってくれ、俺も寝落ちしてしまう。)
次のプログラムは入学生代表挨拶。
教師が名前を読み上げる。
「入学生代表、”
「はい」
名前を呼ばれた少女は透き通るような声で返事をし、壇上に向かう。
その少女の名前を聞いて彰人に小声で尋ねる。
「どうして優未がいるんだよ」
彰人は驚いた表情で壇上を登る少女を目で追っており、返事が出来ずにいた。この様子からして彰人も知らされていなかったようだ。
彼女、篭谷優未は苗字から察する通り彰人の妹だ。薄い紫色の髪はショートよりも少し長く収まっている。そして顔の両脇、耳の少し上の辺りから顔に沿うように二つの髪が結ばれていおり、小さな背丈は幼さを感じさせる。昔から身長が殆ど変わらず140cmのままで、周りの女子と比べるとかなり小ささが目立つ。
優未は5年程前に彰人の妹として紹介された。元々昔から彰人と一緒に住んでいたわけではなく、遠い親戚が不幸になったとかで、彰人の家であずかることになったようだ。
優未が彰人の家に訪れた時、経緯を聞いた彰人の両親は何も考えずに迎え入れたようだ。彰人の両親は両方とも働いており、母は医者で、父は外資系の仕事をしていてあまり家に帰らないと聞く。俺自身もあまり会ったことはなかったが、数回あっただけで二人のさばさばとした性格は読み取れた。
優未は壇上に登り、マイクの位置を自分の話しやすい位置まで下げ、話し始める。
「暖かな春の風に包まれ、桜の咲き始める今日、私たちは情南高校の一年生として入学致しました。・・・・」
優未が話し始めても、彰人は黙って壇上に視線を向けていた。
話している途中で俺達に気づいたのか、優未はこちらに向けて軽くウインクをする。それを見て彰人は大きくため息を付いていた。
その後優未の挨拶も終わり、以降のプログラムも淡々と行われ、入学式は閉式した。
俺達の学校は入学式が終わると、続けて始業式が始まる。しかし校長の計らいで毎年4月の始業式は、校歌斉唱と校長が短い式辞をするだけで、5分も掛からず終る。
長かった式もようやく終わり、生徒は各々の教室に戻る。彰人は優未の挨拶以降ずっと俯いており、一方で美桜は口から涎が垂れてしまいそうな程に爆睡していた。
「おーい彰人ー美桜ー、教室いくぞー」
俺がゆすっても二人とも反応がない。
その時、遠くの方から人混みを掻き分けて例の少女が俺たちの所にやって来た。
「
先ほど壇上で話していた時とは打って変わって、古風な話し方とやんちゃな態度で話してくる。
「そうたんはやめろ」
「あぐぅ」
優未の額にチョップを入れる。
「最初の挨拶がチョップだなんてそうたんは酷いのう、昔からの付き合いじゃろうに」
中学までは平気だったが、さすがに高校生でその呼び名は恥ずかしい。
(けど彰人の妹だし、止めても無駄なんだろうなぁ)
蒼太がこれからの高校生活を億劫に思っていると、優未は続けて話す。
「で、びっくりした?びっくりしたかのう?今日までこの高校に入学するのを隠して三人を脅かせるわらわの作戦どうだったかのう!?」
キラキラした目で俺に詰め寄る優未の後ろで、彰人がゆっくりと立ち上がり右手を高く上げる。
「ふぐぅ!」
先程の俺のチョップよりも重いものが、鈍い音を立てて優未の後頭部に直撃した。
「いったいのー彰にぃ!いきなり何するのじゃ!」
「お前が何をしているんだ」
彰人は優未に詰め寄る。
「えーっとのぅ・・・入学生代表になったのじゃよ!」
「そうじゃなくて、何でこの高校に来たんだ。他の高校受かってそこに行くって言ってただろ」
優未はいたずらっ子のような笑みをして答える。
「あれは今回驚かせるためにわざわざ受けてきた学校で、本命はこっちなのじゃよ」
彰人は大きくため息をつき、言葉がでないようだ。
「まぁまぁ彰にぃ達の高校生活に余計なことはしないつもりじゃ・・・あんまり」
(なんだ、その最後のあんまりって)
優未も彰人と同じようにやんちゃな性格で、これまでも手を焼いてきた。
「とりあえず詳しい話は家に帰ってからだ。蒼太行くぞ。」
「あ、ああ。ほら美桜起きろ、行くぞ」
「ん~・・・?」
まだ寝ぼけている美桜をどうにか立たせる。
「またのー!みーちゃんも早く起きるのじゃよー」
俺達は優未と別れて教室に向かうことにした。
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