第19話 ゲームセンターで遊ぼう
「僕達を仲間に入れてください!」
「お願いしまッス!」
ゲームセンターに入った大助と将吾は京士郞達をみつけるやいなや、素早く駆け寄って頭を床に擦りつけた。つまり土下座だ。
「な、なんでござるか?」
京士郞はいきなりのことに戸惑い一歩下がった。
「オオ! ジャパニーズ土下座! ぎゃははは。ありりん、よく見て土下座だよ土下座。ぎゃははは」
遊々は二人を指さして、大笑いをしていた。
「ちょっと遊々ちゃん、そんなに笑ったらお二人に失礼ですよ、プッ」
アンリエッタは遊々を注意するが、遊々の笑いにつられてぷっと吹き出ししまった。
「あー、ありりんが笑った。きゃはははは」
京士郞の後ろで遊々とアンリエッタが笑っている。風葉は隣で腕組みをして厳しい表情を作り、男二人を警戒していた。
「どういうことでござるか?」
京士郞が大助と、将吾の二人に説明を求めた。
「僕達を仲間に入れてください!」
大助は顔を上げないまま言葉を発する。声が床に当たって若干、くぐもった声になっていた。
京士郞は周りを見渡して、他の客達から変な目で見られていないかを確かめる。だが、京士郞達以外の客は見当たらず、ほっと胸を撫で下ろした。
「それは分かった。拙者は、お二人がどうしていきなり土下座をするのかと訊ねているでござる」
「お願いをする立場ですから、土下座するのは当たり前です」
「いやいやいや、拙者達はクラスメイトでござるから、土下座は不要。別に仲間に入れることは重大なお願いでもござらんし、頭を上げてくだされ」
「ありがとうございます! 京士郞様の優しさに僕は感動しています」
大助と将吾は京士郞の足にしがみつきありがとうありがとうと感謝の意を表明していた。
「ちょ、足に纏わり付くのは止めてくだされ」
「それで京士郞様、僕達を仲間に入れてくれるんですか?」
大助は京士郞を見上げながら、もう一度確認した。
「拙者は構わん。でも一応、他のみんなにも了承を得ないと……。だから、放してくだされ」
「「宜しくお願いします!!」」
大助と将吾から解放された京士郞はバランスを崩し、転びそうになる。そして後ろで様子を窺っていた女子達の元に向かった。
「訊いていたかと思うが、あの二人が拙者達と共に行動したいと願い出ている。拙者は構わないと思うのだが、みんなはどうでござるか?」
京士郞は女子達三人に視線を向けて意見を訊いた。
「わたしも構いません」
「遊々も構わないよ。めっちゃ笑わかしてくたし、きゃはは」
「自分は反対です」
アンリエッタ、遊々は了承する。しかし、風葉だけは難色を示した。
「風葉殿? なぜでござるか?」
京士郞が風葉に理由を訊ねた。
「どうみても怪しいです。なにか企んでいることは明かです」
「きゃはは、あの二人に何かを企む頭があるのかな~? ありりんはどう思うにゃ?」
風葉の言葉に遊々が悪意無く二人を罵倒しつつ、アンリエッタに質問をする。だがアンリエッタはおろおろするばかりで返答に困っていた。
「(ダイスケ、オレ達、物凄くバカにされているような……)」
「(ああ、分かっている。だが今は堪えろ将吾)」
大助と将吾は女子達の声が聞こえないふりをしつつ、笑顔の仮面を被ったまま小声で語りあっていた。
「拙者も遊々殿と同意見でござる。何かを企むようなお二人ではござらんよ」
「京士郞殿!」
「アン殿はどうでござるか?」
風葉が抗議の声を上げるが、それを京士郞はスルーしてアンリエッタに意見を求めた。
「わ、わたしも佐々木さんと同じ意見です」
「ふむ、反対1、賛成3でござるな。……風葉殿の意見は変わらんでござるか?」
京士郞が風葉に視線を送った。
「変わりません」
きっぱりと風葉は答える。それに京士郞は困った表情を浮かべた。
「風葉殿の意見はもっともでござるが、現状二人が何か問題行動をしたわけではござらん。と、とりあえず一緒に行動するということで決まり。良いでござるな?」
京士郞の確認に遊々とアンリエッタが頷く。風葉もしぶしぶといった様子で小さく頷いた。全員が頷くのを確認すると、京士郞はそのことを大助と将吾に伝えた。
大助と将吾は、同行を認められると、飛び跳ねて喜びを表現していた。
その光景を風葉は冷めて目で見つめる。すると後ろから遊々が抱きついてきた。
「かざりん、どうしたの? 顔が怖いよ? おこなの?」
遊々が風葉の頬を両手でむにゅーとひっぱったりして遊んでいた。
「そんあんひゃあれまひぇん(意訳:そんなんじゃありません)」
頬を引っ張られているので、風葉は上手く言葉を発せ無かった。
「じゃあなーに? かざりんは男が苦手なの? 嫌いなの?」
遊々はさらに質問をする。風葉は遊々の手を頬から引きはがして答える。
「別に、自分は男が苦手でも嫌いでもありません。ただ心配なのです」
「……心配?」
ふにゃと遊々は頭にはてなを浮かべる。すると、風葉は少し頬を赤らめて答える。
「英雄色を好む、ということわざもありますし。京士郞殿が変な道に引き込まれてしまうのではないかと懸念しているのです」
「ふぇ? どゆこと? ありりんは意味分かった?」
遊々には風葉の言いたいことが伝わらずアンリエッタに解説を求めるが、それを風葉は慌てて止めた。アンリエッタも遊々同様に理解できていなかった。そして風葉は遊々だけにこっそりと耳打ちした。
「(分かりやすく言うと、男同士で愛し合うことです)」
「愛し合うのいいじゃん!」
「ちょっと、遊々殿!?」
遊々の口を風葉が慌てて塞ぐ、もごもごと遊々と何かを言っていた。そして風葉の手を無理矢理どけると続きを言葉にする。
「平和な世界には愛が必要だと遊々は思うんだよね。だから、遊々はみんなを愛すんだ。かざりんもありりんもクラスのみんなも遊々は愛してるよ」
「あ、ありがとうございます」
アンリエッタは良く分かっていなかったが、とりあえず御礼を言った。
「……そういうことではないのですが」
風葉の意味合いとはズレしまったが、まあ、良いかと風葉は言葉を飲み込んだ。
「愛がどうしたでござるか?」
大助と将吾に抱きつかれていた京士郞は、二人を引きはがし会話に入ってきた。
風葉はあわあわと慌てた。代わりに遊々が答える。
「世界平和には愛が必要だよねって話しだよ~」
「世界平和でござるか。随分スケールの大きい話をしておったのでござるな。たしかに平和を維持するには愛が必要なのは確か。だが一方的に愛するのではなく、お互いに愛し合わなければダメでござる。片方が憎しみを持っていたら、平和は訪れない。しかしながら愛すると言葉で言うだけならば簡単、実際に心から愛することは難しいでござるよ」
「おっ、さすが京士郞いいこと言うね! 世界平和の為にも僕達がまず愛し合うことから始めようぜ」
大助が京士郞の肩に手をまわし、続いて将吾も京士郞の肩を反対側から手をまわし質問をぶつける。
「賛成ッス。まずはお互いのことを良く知る為に、キョウシロウの苦手なものを教えて貰えるッスか?」
「ふむ、苦手なものか。すぐには思い浮かばないでござるよ。ゲームセンターとやらにも初めてきたでござる」
男三人で肩を組んで話しているのを風葉は頬を赤らめて嬉しそうに見つめていた。
「あの風葉さん?」
「は!? アンリ氏。これは違うんです。別に、変なことは考えていませんよ。誰が責めだとか、受けだとかそんなこことはこれっぽっちも」
アンリエッタに声を掛けられた風葉は、慌てて否定する。しかし、アンリエッタは風葉が何を否定しているのかさっぱり分からないでいた。
「風葉さんが何を言っているのかわかりませんが、みんな行っちゃいますよ?」
アンリエッタが指さした方向には、男子三人と遊々が歩いていた。
風葉がぼけーっとしている間に、移動してしまっていたのだ。
「ああ、すみません。少し考え事をしていました。私達も行きましょう」
風葉とアンリエッタはみんなの後を追った。
男三人で肩を組みながら進んだ先には、緑色のフェンスで囲われているバッティングコーナーがあった。
「あれはなんでござるか?」
京士郞が興味深げに訊ねた。
「あれはバッティングコーナーだ。飛んでくる野球の球をバットで打つ遊びだ。やったことないのか?」
「ないでござる」
「そっかー、ならやってみようぜ!」
京士郞に経験がないことをしるやいなや大助が嬉しそうに言い放った。それに将吾ものり、男三人でバッティングをやることなった。
女子達三人は囲いの外で、談笑をしながら見学をしている。
三人がバットを構え、ボールが飛んでくるのを待つ。そして第一球目が飛んでくる。
大助はバットを振った。ボールにバットがかすった。ボールの軌道がズレただけでそのまま後ろに飛んで行った。
将吾はバットを力任せに振っており、派手に空振りをしていた。
京士郞はバットを構えたままの姿勢で、ぴくりとも反応していなかった。
大助は心の中で、やったと叫ぶ。これなら自分が一番良いところを見せられる。
それからは少しずつボールを前に飛ばすこと出来るようになった。隣のボックスからはまったくボールが前に飛んでいないことが分かった。
これは勝ったと思った時、後ろにいる女子達から歓声が沸いた。何事かと大助は視線の先を追った。
そこにいたのは将吾だ。将吾はバットをフライパンを持つようにして構えていた。スクリーンに写し出されたピッチャーがボールを投げる。
飛んで来たボールを将吾が斜めに構えたバットで受ける。するとボールは真上に飛んだ。真上にはすでにボールがあり、ボールが落下してくる。それを再び将吾は真上に打ち上げた。
つまり将吾はバットでお手玉をしていたのだ。お手玉の数はピッチャーが投げる度に増えていく。その光景はまるでサーカスの曲芸のようだった。
大助は思う、完全に負けたと……。
しかし、将吾には負けたが京士郞には勝っただろうと思い、視線を向ける。だが、そこにも予想を超える状況が待ち受けていた。
ボールが飛んでくる。京士郞がバットを振る。バットを振り抜かず、逆に戻す。ボールは真下にゴトっと落ちる。
京士郞はボールを前に飛ばすのではなく、ボールの勢いを完全に止めていたのだ。
つまり、ボールに対して峰打ちを完璧に決めていた。
その証拠に、京士郞の足下には綺麗に整列した白いボールが落ちている。ちょっと離れてみたら足下に生卵のパックをおいているのかと勘違いしてしまうような光景だった。
大助は思う、普通にやっていた自分が間違っていたのだろうかと……。
男子三人が外に出ると、女子達もやりたいと言いだし入れ替わりになった。
大助は囲いの外側で女子達を眺める。男子二人には負けた感じになってしまったが、女子達にならば負けないだろうとどこか頭の片隅で安心していた。
まずはアンリエッタのバッティングをみる。しかし、アンリエッタはボックスに立たずに少し離れた場所に立っていた。
大助がどういうことだろうと少し視線を移動させると、ボックスからバットがにょきっと生えてきた。そのバットはふらふらと今にも倒れそうになりながら、ホームの上にやってくる。 ピッチャーが振りかぶりボールが射出される。飛んできたボールが垂直に垂れられているバットにぶつかり、ボールはコロコロと転がった。バットはぐらぐらと倒れそうになっている。 どういうことかと大助は前に出て中を覗き込んだ。
そこにはペンギンがいた。正確にはペンギンのぬいぐるみだ。
ペンギンのぬいぐるみが、ふらふらしながらバットを持ち上げている。
バットにボールがぶつかる度、倒れそうになるのを必至に支えるペンギンがどこか愛らしかった。
次に大助は風葉のバッティングの様子をみることにした。
風葉の構えは明らかにおかしい。普通ならバットは地面と垂直に立つようになる。しかし、風葉の構えは地面と水平だった。例えるならビリヤードの構えをしている感じだ。
あの構えからボールが飛んできても、バットを振るまでの動作に時間がかかり空振りをするだろうなと、大助は予想してニヤニヤとその時を待った。
ピッチャーが振りかぶり、ボールは射出される。風葉はバットを振らずに、そのまま突きだした。飛んできたボールをバットの先の一点で見事に突いたのだ。ボールは勢いよく飛んで行った。
バットを振って〝線〟で当てるのも難しいものを、バットを突いて〝点〟で当てるということをなんなく風葉はやっていた。
大助はその光景を目の当たりにして、茫然自失になった。
失ってしまった自信を回復すべく大助は、遊々のバッティングに目を移した。
遊々は他の二人とは違い、普通にバットを構えていた。そしてボールが飛んでくると盛大に空振りをかましていた。その様子を見て大助は、まともにバッティングするのが自分以外にもいてほっと一安心した。
何回も空振りを繰り返すうちに、遊々は徐々に苛立ち初めていた。
そして遊々は持っていたバットを放り出して、足下に転がったボールを手にした。
遊々の奇行に大助は目を見開く。
ピッチャーが構える。それとリンクするように遊々も構える。ピッチャーが投げる。遊々も投げる。
ピッチャーのボールと遊々のボールが中間地点でぶつかる。ボールは飛んできた元の場所に戻っていく。ピッチャーの元に戻ったボールはそのまま転がり、遊々の方に飛んできたボールは遊々が素手でキャッチした。
そして再び、遊々はボールを投げる。またしてもボールとボールがぶつかる。
大助はその光景を見て、開いた口が塞がらなかった。
唯一まともだと思っていた遊々が、一番の神業を見せつけたのだ。
飛んでくるボールにボールを投げてぶつけるという行為は常人には不可能だ。というかバッティングセンターでそんなマネをしたら係員に怒られる。
大助は慌てて周囲を見渡した。しかし、遊々の奇行をみている係員はいなかった。係員はおろか大助達以外の客の姿は一切なかった。
大助の胸の内になんだかモヤモヤしたものが沸き上がってくるような感じがした。
「ダイスケ、オレ、やばい。……気持ち悪いッス。うぷっ」
先程まで元気だった将吾が死にそうな顔で大助に助けを求めてきた。
「そういえば、僕も、なんか胸のあたりが……。昼を食べ過ぎたかも」
大助は胸を押さえる。
大助と将吾は昼飯を腹一杯食べた、その直後に運動をしたものだから食べたものが胃からせりあがってきていた。
「二人共大丈夫でござるか?」
京士郞が駆けつけ、大助と将吾の背中をさすった。
「はあー面白かったー」「ペンクン頑張ったね」「そうですね」
女子達三人がブースから、わいわい話しながら出て来た。
「すまんが、拙者は二人をトイレにつれていくでござる」
京士郞は二人に肩を貸して、トレイに向かった。
「いてらー、お大事にー。次は何して遊ぶ?」
遊々は手を振って、三人を見送ると、風葉とアンリエッタに振り返った。
「わたしは入り口付近にあったぬいぐるみのゲームをやってみたいです」
普段はあまり自分の意見を言わないアンリエッタだったが、このときばかりは鼻息を荒く自己主張をした。
「あー、クレーンゲームだねー。遊々はちょー得意だよー。さんせーさんせー。かざりんは?」
「特にやりたいものもありませんので、二人に付き合います」
「じゃー決定ー。クレーンゲームをやりにいこうー」
女子三人はクレーンゲームのある場所に向かった。
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