第11話 学校を守ろう
「それじゃ、僕が防衛チームのリーダーになったからよろしくね」
大助が防衛チームの全員にリーダー就任の挨拶をする。リーダーという責任は少し気が重い。だが錬に信頼されたということで、大助は嬉しさを顔から滲み出していた。
「えーと、じゃ、担当を決めるね。僕と鈴っちが学校への砲弾を迎撃する係。残りの四人は学校周辺を探索して、敵がいないか確認。敵がいた場合は排除する係でいいかな?」
無難な担当配分に全員がこくこくと大助の言葉に頷いた。それを確認してから、さらに大助は続ける。
「機動力のある侍(佐々木京士郞)とかざっち(霧生風葉)を学校の北と南に配置して、重量級の月ちゃん(久遠寺月陽)とリエっち(アンリエッタ)を西と東に配置する。こうすればお互いにフォローしやすいと思う。えーと、侍が北部担当。かざっちが南部担当。月ちゃんが西部担当。リエっちが東部担当。これでいいかな?」
『拙者はよいでござる』
京士郞の機体はレイライン社の中量二脚『
『自分も異論はありません』
風葉の機体はレイライン社の軽量二脚『
月陽の機体は重量二脚『グロリアス』で、武装はチェーンアックスとハンドガン。
アンリエッタの機体は重量二脚『ファントムペイン』で、武装はクローラーとハンドミサイル、そしてバズーカ砲。
京士郞と風葉に続いて、月陽とアンリエッタも頷いた。
「そんじゃ、各自持ち場に移動して、作戦開始」
大助の号令で、それぞれが移動を開始した。
大助の逆関節は校舎の屋上に、ほのかのタンクは校庭の真ん中に陣取り、時折飛んでくる砲弾を打ち落とす。
京士郞、風葉、月陽、アンリエッタの四人は東西南北に移動し、周辺を索敵する。
まず敵と遭遇したのは京士郞だった。
中量二脚の敵ASは京士郞にライフルを放つ。だが、京士郞は唐傘型のシールドを展開して弾丸を防ぐ。敵ASは劣勢とみるやすぐに逃走しようと踵を返した。
「逃がさぬでござる」
京士郞は唐傘からシールドビットを射出する。自分と敵を囲むように四十八個のシールドビットが浮遊する。ビット同士が電磁ワイヤーで繋がり、逃げ場のない檻を作りだした。
これでもう敵は一対一の対決をしなければならなくなった。
敵の武装はライフルしかなく距離を取りながら、京士郞に打ちまくってくる。
京士郞はライフルの弾道を全て見切り、紙一重のところで回避する。あっという間に接近すると、刀型のブレードで袈裟懸けに一刀両断した。
風葉の機体は静かに周辺を探索する。風葉の影縫は光学迷彩をしているので、ビルの景色に溶け込んでいた。若干、空間が歪んで見えるが注意して見なければ、まず気付かないレベルだ。さらにステルス性、静音性に優れた風葉の機体は敵のレーダーに見つからずに一方的に敵を見つけ出す事が出来る。
そしてビルの影に佇む一機の敵ASを風葉は発見した。
敵ASは風葉のことに気付いていない。
風葉は手足のかぎ爪を使いビルに張り付き、相手の真上の位置を取る。そして相手の真後ろに着地すると同時に、電磁ワイヤーを巻き付けて首を切り落とした。
敵機を処理すると再び、風葉の機体はすうっと景色に溶けて消えた。
月陽は敵を発見するや否や、鉄球を投げつけた。敵はマシンガンを発射するが、月陽の重量二脚の装甲を少し削るだけでダメージは軽い。
強力な磁力発生した鉄球が敵に直撃すると、鉄球につながっている鎖を引き寄せる。魚釣りの釣られた魚のように敵が自分の元にやってくる。敵が目の前に来た瞬間を狙って、鉄球の反対に繋がっているアックスで敵を切り裂いた。
アンリエッタはクローラーをバラまいて周囲を索敵する。クモのような足をしたクローラーがビルの壁面や道路を細かく探索していく。
そして敵影を発見した。中量二脚の平均的ASだ。クローラーを貼り付けて、自爆攻撃をしてもいいのだが、都合が良いことに敵ASの足下には破壊されて動かなくなったASの残骸が落ちていた。
アンリエッタはクローラーを操作して、ASの残骸に取り付かせた。電子制御系にハッキングして、機体を乗っ取る。半壊状態のASだが右手にはライフルを握りしめている。
周囲を警戒している敵ASにライフルの銃口を向ける。敵ASはまったく気付く様子はない。そのまま引き金を引いて、銃弾を放った。銃弾は頭部を破壊し、敵ASは沈黙した。
「結構、楽勝だね」
校舎の屋上で敵の砲撃を迎撃しながら、呑気に大助が呟いた。
『確かに、みなさん苦戦してへんみたいやね。でも、油断は禁物や』
ほのかが気の抜けている大助に釘を刺す。副リーダーは特に決めていなかったが、自然とほのかが大助の補佐役になっていた。
「そうだね。錬達が帰ってくる場所を守らないと。よしっ」
大助は気を引き締め直した。時折飛んでくる敵の砲弾を打ち落としながら、学校の周囲を探索している四機のデータを集計整理して、詳しい戦況を分析する。
敵と交戦した場所をマップで確認する。四方向での交戦位置はバラバラで特に怪しい部分はない。だが、ASの残骸の分布図には、妙な偏りがあった。
「これは……?」
大助の口から声が漏れた。
『どないしました?』
大助の異変に気付き、すぐさまほのかが声を掛けた。
「ちょっと、これを見て。なんか偏ってないかな?」
大助はほのかにデータを送りつつ、意見を求めた。
『ASの残骸の分布図やな。……確かにちびっと偏りすぎとるように感じるわ』
学校周辺のマップに残骸を示す青い点が、ぽつぽつと表示されている。学校の北南西は点の数が少ないが、東側だけ異様に数が多く表示されていた。
『東部担当はアンリちゃんやな。ASの残骸がたくさんあるいうことはアンリちゃんに取って都合が良いことや。せやけど……』
アンリエッタは、ASの残骸にクローラーを取り付かせて操る事が出来る。そのため残骸があればあるほど、アンリエッタには有利になる。しかし、あまりに都合が良すぎて、逆に気味の悪さをほのかは、感じていた。
「……トラップかな?」
大助がぼそりと呟く。
『……うーん、その可能性もあると思うわ。念の為、アンリちゃんにはクローラーの使用を控えてもろた方が、ええかもしれまへん』
ほのかは少し思案して答えた。アンリエッタには、クローラを使わずとも問題なく戦える実力がある。
「その方が良いよね」
大助がほのかの提案に同意し、アンリエッタとの通信を開こうとする。
しかし、一足早くアンリエッタの機体から通信が入ってきた。
「おっと、噂をすれば、向こうから」
大助は一瞬だけ驚き、アンリエッタとの通信を開いた。
『……あの、……その、……えっと』
目を泳がせてアンリエッタは言い淀む。
「どうしたの? なにかトラブルでもあった?」
大助は不安を抱きながらも、それを隠しいつもの調子でアンリエッタに話の続きを促した。
『……あの、機体を、乗っ取られちゃいました。……ごめんなさい』
涙を目に浮かべて、アンリエッタはそう言った。
「…………」
悪い予想が的中し大助は言葉を失った。
『どうして機体を乗っ取られたん? 何か攻撃でもされたんか?』
ほのかがアンリエッタに詳しく状況を訊ねる。
『ASの残骸にクローラーをとりつかせて敵をやっつけてたら、いきなり制御不能になっちゃって、それで……』
『たぶん残骸にトラップが仕組んであったんや思う。アンリちゃんのクローラーを通して、逆にハッキングされてしもたんや。アンリちゃんの担当地域だけ、異様にASの残骸が多くて怪しいなと今、九十九さんと話していたんよ。せやけど、一足遅かったようやな』
ほのかは冷静に状況分析しながらも、悔しそうな表情を少しだけ見せた。
『九十九さん、どないしはる?』
「…………。侍とかざっちを向かわせて、対処させる」
ほのかの問いに大助は少しだけ考えて答えた。
『そやね。それがええと私も思うわ』
ほのかは大助の案にすぐさま賛同した。
大助は大きく頷いてから、防衛チーム全員との通信を開いた。
「みんな聞いてくれ。トラブルが発生した。リエっちの機体が敵に制御を奪われて、助けが必要になった。ASの残骸の中にトラップが仕組まれていて、それにクローラーでアクセスしてしまったのが、原因だと思う。リエっちのヘルプには侍とかざっちにお願いしたい」
『了解でござる』『了解しました』
京士郞と風葉が頷く。
「南北の守りが若干、弱くなるから、月ちゃんには南北もフォロー出来るように、なるべく学校の近くを警戒してほしい」
『わかったわ』
月陽が頷き、全体のフォーメーションが大きく変わる。
月陽は学校側に移動し、京士郞と風葉はアンリエッタの元に急行する。
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