第3話 学校を爆破しよう
ASの上半身は人型なのだが、下半身においては様々な種類が派生していた。種類は大まかに分けて四種類ある。
まずは通常の二脚。これは人の脚と同じで、ASの基本であり平均的な能力を持っている。
そして逆関節。通常二脚に一つ関節を増やして、見た目は鳥のような脚になっている。関節が一つ多いことで、常にしゃがんでいる状態を作りだし即座に回避行動をとることが可能である。それと跳躍力も高く、着地時の衝撃緩和率も高い。その為、高高度からの投下機として用いられることに向いている。一方、関節を増やしたことにより若干の耐久値は下がってしまっている。
三つめは戦車型またはタンク型。戦車と同じ無限軌道で移動する。積載量が多く武装や装甲を充実させることが出来る。ひらけた場所での戦闘、制圧力が高い。反面、三次元機動がほぼ皆無なので、市街戦など入り組んだ場所での戦闘は苦手である。
最後は四脚。脚先に磁力や真空、杭などの装備があり、それらを使い壁面、天井歩行が可能。多彩な位置取りで射線確保の幅が広いため、スナイパーとしての役割を担うことが多い。または防衛施設の簡易砲台として使われることもある。
錬が学校に到着すると、すでに何人かのクラスメイト達が登校していた。
今日の校舎は、その名の通り学校だった。四階建ての普通の学校。いつもはビルやら工場などが校舎になる場合が多いので、本物の学校が校舎になるのは珍しかった。
「みんな、おはよう。今日は俺が日直だからよろしく」
錬は学校に来ているクラスメイト達に回線を開いて、声を掛けた。錬のあいさつにそれぞれが挨拶を返す。
「そんじゃ、教室を作るよ。アンリエッタ、クローラで内部マッピングしてくれるか?」
錬はアンリエッタ・シュタインハルトにお願いする。
アンリエッタは日本生まれのドイツ人で、金髪碧眼の少女。歳はまだ10歳なのだが、飛び級でロボット高校に入学した。ぬいぐるみを集めるのが好きで、いつもコクピットに何かしらのぬいぐるみを持ち込んでいる。ちなみに今日のぬいぐるみはペンギンだ。
『わかりました』
アンリエッタが頷くと、彼女の乗っている重量二脚、ファントムペインの暗い紫色をした塊が動き始める。機体が背負ってる箱からクモの子共のような機械が、校舎の中に数十匹と入って行った。クモのような機械はクローラだ。
クローラとは自動探索ロボットのことで、校舎内を徘徊して内部データを作成する。
ASの高さは平均4メートルある。このままでは人間用に作られた建物に入ることが出来ない。そのため建物の一部を破壊してASが入れるように改造する。それを教室を作ると錬達は言っている。錬達はまず登校したら、教室を作ることから始めなければならない。
『終わりました。データ送ります』
アンリエッタの言葉と共に、錬の元に内部マッピングデータが送られて来た。
「さんきゅ。じゃ、爆破ポイントをマーキングするからちょっと待ってて」
錬は校舎のマッピングデータから、手頃な場所にマーキングをする。その後、ハクアに建物の構造計算をしてもらい耐久に問題がないかを確認して最終的なマーキングを完了させた。
「んじゃ、これでよろしく」
『分かりました』
アンリエッタは錬からマーキングされたデータを受け取る。マーキングされた場所にクローラを移動させると、クローラは一斉に自爆した。
クローラは偵察にも使えるが、自爆して攻撃することも可能。
校舎の一年一組から一年三組の天井が落下して、上の階の二年一組から二年三組との吹き抜けの空間が生まれた。これでASが頭を擦らないで済む広さになった。
「よし、うまくいったな」
錬は一安心した。爆破ポイントを間違えると建物全体が崩壊する場合もあるので、教室を作るのも以外と緊張する。
「仕上げに、出入り口を作って……」
錬は左手のレーザーブレードで、壁面にAS用の出入り口を作成する。
「はい、完成。じゃあ、みんな入室していいぞ」
錬が言うと、クラスメイト達は順番に教室に入っていく。
『よっしゃ、僕いっちばんうしっろー』
『きゃっ』
大助の機体がぶつかり、
『ちょっと、だいちゃん。今、ほのかにぶつかったよ』
黒髪ショートの
『え? マジ? 僕の機体大丈夫かな? 傷ついちゃったかな?』
『自分の機体の心配じゃなくて、ほのかに謝りなさいよ』
大助が悪びれる様子もないので月陽はきつい口調で言う。
『え? なんで? 鈴っちの機体はタンクじゃん? 僕の機体の方が絶対ダメージでかいよ』
『ダメージじゃなくて、ぶつかったことを謝れって言ってるのよ!』
さらに月陽の口調は厳しくなる。
『あ、あの、私は大丈夫やから』
ほのかが言い争いをしている二人を納めようと割って入る。
『鈴っちは大丈夫だって言ってる。ほら、もう良いだろ。くだらないことでぐちゃぐちゃ言わないでくれよ』
『なんなのその態度? 許せない』
月陽は大助に対して、怒りの感情をむき出しにしている。
『月陽ちゃん、もうええからケンカはやめよな? 私の不注意やったわー』
『ほのか、悪いけど黙ってて。だいちゃん、ほのかに謝って。素直に謝れば許してあげる』
月陽の目は本気だった。月陽の怒りは大助が謝るまで収まりそうもない様子だ。
『なんだよ。本人が良いって言ってるのに、関係無い月ちゃんが口だしすんなよ』
大助は逆ギレしていた。
『──謝って』
『なにマジギレしてんだか。あーあ、謝ろうと思ってたけど、謝る気がなくなったわー』
『……だいちゃんは、謝る気がないんだね?』
『ああ、そうだよ。誰かさんがマジギレしてるから、謝りたくないね』
大助と月陽はお互いにらみ合い火花を散らしている。
『なら、仕方ない』
月陽は何かを決意し瞳に強い意志を宿らせた。
『仕方ないって、どうするんだ? 諦めるのか?』
『力尽くで、謝らせる』
月陽のグロリアスがバズーカ砲を大助のスカイフレアに向けた。
「おいおい、もうすぐ先生がくるぞ。バトるなって」
戦闘が始まりそうだったので、日直の錬は二人の間に割って入った。それに教室内でバーズカ砲を撃たれでもしたら教室が吹き飛んでしまう。そうなったら教室を作り直さなければならない。それだけはなんとしても阻止したいと錬は思っていた。
『なに十七夜? あんたはだいちゃんの味方するの?』
『おお、錬! やっぱお前は親友だ』
「なんでそうなる?」
月陽からは敵意、大助からは歓喜の視線で板挟みなった錬は困惑した。
「お前等、サウザンドアークの仲間同士だろ? 仲間同士で争ってどうする?」
錬は争いを止めるように説得を試みる。
ロボット高校には現在、四つの会社の新ASが導入されている。
MOE社。サウザンドアーク社。ガルヴィード社。そしてレイライン社の四社だ。
会社が違えば、ASの特徴もそれぞれ変わってくる。
特に違うのは特殊装甲だ。特殊装甲にはミラージュリフレクション装甲(通称:MR装甲)とプラズマアクティブ装甲(通称:PA装甲)の二種類がある。
MR装甲は空気中に光の層を発生させ、レーザー兵器などの威力を軽減するバリアのようなものだ。MR装甲の応用で光学迷彩も可能になるがエネルギー消費が激しい。
PA装甲は通常の装甲に電流を流し、一時的に分子的結合力を上げて、物理的衝撃を軽減する動的装甲だ。PA装甲の技術を使えば、紙一枚で銃弾を防ぐことも可能。
MR装甲を重視した機体は、丸みを帯びた流線型の外見になるという特徴がある。MR装甲を重視すると実弾に対する防御力が下がってしまうので、それ補う為に流線型にする。流線型にすることで銃弾の運動エネルギーを分散し跳弾させることで、防御力を高めている。
一方、PA装甲を重視した機体は、角張った外見になる。PA装甲の効果が一番発揮できるのは平面である。そのため装甲を流線型にしてしまうとPA装甲の効果が薄れてしまうことになる。
ガルヴィード社はPA装甲重視。
レイライン社はMR装甲重視。
そしてMOE社とサウザンドアーク社はバランス型になっている。
『同じ会社とかは関係ない。これは人間としての問題なのよ』
月陽は自分が正義だとばかりに言い放つ。
『人間ねぇ……。くっだらねぇ。ちょっとぶつかっただけだろ?』
大助は吐き捨てる。
「大助も煽るな。とりあえず久遠寺は銃を下ろせ。これは日直命令だ」
錬が有無を言わせず強い口調で言うと、月陽はしぶしぶバズーカ砲の銃口を下ろした。
『お前等、なんの騒ぎだ?』
騒ぎが落ち着いたと思った次の瞬間、いきなり通信が割り込んできた。
割り込んできた通信は錬達の担任の先生であるエクシアからだった。
エクシアは青のツインテールを揺らして、ミニスカートをはためかせながら、颯爽と校庭を歩いて近づいてくる。見たは錬達と変わらない年齢の女子だが、エクシアは自律思考型アンドロイドだった。
特区では、学校がいつ戦場になってもおかしくないため、生身の人間では危険である。その為アンドロイドが錬達の担任でクラスを受け持っている。
「あ、先生おはようございます。大助と久遠寺がちょっとケンカしていただけです。それも今、収まりましたので問題ありません」
錬は敬語でエクシアに報告する。
『十七夜おはよう、今日はお前が日直だな、宜しく頼むぞ。……それで事態は収まったというが、九十九と久遠寺はとても納得しているといった顔じゃないようだが?』
エクシアは腕組みをして、そう疑問を錬に投げた。
「それは、そうですが……。もう授業が始まりますし……」
『なるほど、十七夜はクラスメイト二人の不満解消よりも、全員で受ける授業を優先するということだな?』
「はい、そうです」
錬ははっきりと答えた。すると、エクシアは満足そうに笑って、
『よろしい、それでこそ日直だ。リーダーの一番の仕事は決断することだ。無能なリーダーは責任を恐れて決断しない。そうはなるなよ十七夜』
「はいっ」
『先生としても、日直の決めた意見は尊重したい。だが、このまま授業を開始しても効率が落ちる。よって、一限目は中止、二人の不満解消を優先する』
エクシアの提案に全員が驚きの表情を見せた。まさか授業を中止にするとは誰もが思いもしなかったことだ。しかし、ここではエクシアが先生であり、絶対なので生徒達はそれに従うしかない。
『九十九と久遠寺で、気が済むまで撃ち合って良いぞ』
『先生、ちょっと良いですか?』
久遠寺が声を上げた。
『どうした久遠寺?』
『事の発端は、だいちゃんがほのかの機体にぶつかったことなんです。ですので、私じゃなくて、ほのかとだいちゃんで撃ち合った方が良いと思います』
『…………』
月陽の提案にほのかは苦笑いを浮かべた。ほのかとしては、自分を巻き込まないで欲しいという気持ちだった。
『なら、タッグ戦にしよう。久遠寺と鈴城でチームを組む。九十九、お前は一人パートナーを指名しろ』
エクシアが撃ち合いをする方向でどんどん話を進めていく。
『パートナー? そんなの決まってるよ。僕は錬を指名する!』
ババンと、即座に大助は錬を指名した。
「大助悪い。俺、日直だから、他の人にしてくれないか?」
『うそーーーーーん!』
大助はまさか即座に断られるとは思っておらず、へんてこな声を漏らした。
『十七夜、チームを組んでやれ』
エクシアが言う。
「でも先生、もし機体が大破したら日直を続けられなくなります」
『その時は、次の番の奴に日直をまわすから大丈夫だ。心配はいらない』
『十七夜、びびってるの? だいちゃんとあんたのチームじゃ。私とほのかのチームには勝てないから仕方ないわよねぇ』
月陽が分かりやすい煽りをいれてくる。錬は安い挑発だなと冷静に思っていた。
『月陽ちゃん、そないこと言ったらあかん。可哀相やん』
ほのかが月陽をいさめるが、その言葉が錬にとっては決定的だった。
「……大助とタッグを組みます。大助、やるからには絶対勝つぞ」
「お、おう」
急にやる気になった錬に大助は少しだけ戸惑った。
錬は月陽に煽られたことには冷静でいられたが、ほのかに可哀相と言われたことに対しては冷静でいられなくなっていた。ほのかの悪意ない哀れみは、錬にとって許せるものではなかった。
『よし、決まりだな。四人以外の者は観戦だ』
エクシアが言う。そして錬達のタッグ戦が決定した。
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