第4話 タッグ戦をやろう
学校を中心にして、二つのチームはお互いに反対方向へ移動を始める。
周りは市街地なのでビルが立ち並んでおり、試合開始直後は相手がどこにいるかを確認できない。その為、索敵が重要であり、相手を早く見つけた方が断然有利になる。
『錬、悪かったな。面倒事に付き合わせちまって』
大助が謝ってくる。もう少しで試合開始だ。
「ああ、まったくだ」
『……ほんとすまん』
大助は申し訳ない表情を浮かべた。
「だが、やるからには絶対勝つ。悪いと思ってるなら、俺を勝たせろ。これでもし負けたら、俺の日直としての面目が丸つぶれだ。同じ会社だからとか、女子だからとかで手加減するなよ」
錬は大助に檄を飛ばす。
『ああ、分かってる。僕一人なら手加減しちゃったかもしれないけど、錬の為にも負けられないよ』
「それなら構わない」
錬は満足げに笑う。
『ありがとう、錬』
「礼を言うのは、勝ってからにしろ。あいつらだって、本気でくるはずだ。簡単には勝たせて貰えないだろう」
『そうだね。相手二人はタンクと重量二脚。正面からの打ち合いじゃこちらに勝ち目はないよ』
「だな。で大助には何か作戦があるのか?」
『相手は正面からの打ち合いに持っていこうとするはず。それに機動力もないから、きっと二人一緒に行動してくると思う』
「その可能性は高いだろうな」
錬は大助の分析に同意する。
『こちらは逆に機動力はある。まずは相手二人を分断して、二対一に持ち込んで各個撃破がベストだと思う』
大助は中量逆関節。そして錬は軽量二脚。クラス内で上位の機動力を持つ二機だ。
「まあ、それが定石だろうな。鈴城のタンクは遠距離だときついが、接近さえできれば俺のレーザーブレードで仕留められる。問題は久遠寺の方だな」
ほのかのタンクはガルヴィード社なのでPA重視の機体。PA重視の機体にはレーザー兵器が有効。反対に実弾兵器は効果が薄い。
『月ちゃんの方は、僕に任せてよ。僕のパイルバンカーなら装甲を貫けるからさ』
パイルバンカーとは高速で鉄の杭を打ち出す近接兵器だ。射程が短くヒットさせにくいが、当てることができればかなりの威力がある。
「ほう、そりゃ頼もしい」
『僕のパイルバンカーを月ちゃんにぶっさしてあげるよ』
大助のやる気は十分だ。そしてタッグ戦がスタートした。
「ほのか、なんかごめんね」
試合スタートとの合図の後、月陽はほのかに謝った。
冷静に考えれば、こんな大事になるようなことではなかった。それを自分が熱くなってしまったばかりにと、月陽は反省していた。
『月陽ちゃん謝らないでええよ。私の為に怒ってくれて、私はとても嬉しかったで』
「そ、そう? そう言ってもらえて、少し気が楽になったよ。なんだか、私とだいちゃんのケンカに付き合わせた形になっちゃってたからさ」
月陽は許された気持ちになり、ほっと胸を撫で下ろした。
『ほんまは私、二人が少し羨ましい』
「え? なんで?」
唐突に言ったほのかの言葉の意味が、月陽には良く分からなかった。
『自分の気持ちを正直にぶつけられる相手がいるって、素敵だと思うよ』
「別に、私とだいちゃんはそんなんじゃないよ。ただお互い遠慮がないってだけ」
『二人は幼馴染みなんよね?』
「うん、そうだよ。家が近かったからね」
月陽の重量二脚とほのかのタンクがゆっくりと市街地を前進する。まだ敵影は確認出来ない。
『小さい頃の二人はどんな感やったん?』
もうすぐ戦闘に入ると言うのに、ほのかはいつも通りだ。緊張感がほとんど感じられない。
「だいちゃんは私が目を離すとふらふらーとどこかに飛んで、いっちゃうの。それでいつも迷子になって両親を心配させてた。だから、だいちゃんが迷子にならないように、私が監視役をやってたって感じかな」
『今と、同じや。変わっとらんね』
微笑ましいものでも見るかのような笑顔でほのかが言った。
言われて見れば、あまり自分と大助の関係は変わってないなと改めて月陽は思った。
「あはは、私達って成長してないのかも」
月陽は少しだけ自虐気味に笑った。
『二人の関係が変わらへんってことは、二人のバランスが良いんや。相性がバッチリなんやね』
「バランス?」
『そうや。二人の関係が成長するんは、たぶんこれからやねんな』
「そ、そうなんだ」
ほのかの言っていることの意味が、分かるような分からないような感じで、月陽は相づちを打った。
錬のホワイト・レイヴンと大助のスカイフレアは、学校に向かいながら左右へ分かれて索敵を開始した。
「大助、そっちはどうだ?」
錬の機体は地上を滑るようにビルの間をかけていく。ビルが立ち並んでいる為、遠くの視界はほとんど確保出来ていない。敵ASがいつビルの影から現れてもおかしくない状況に、自然と緊張感が高まっていく。
『まだ発見出来てないよ』
大助の機体はビルの屋上からビルの屋上へバッタのようにぴょんぴょん飛び跳ねて移動する。上空からの方が視界が広く取れるので索敵に向いている。しかし、逆に遮蔽物がないので相手からも発見しやすいというデメリットがある。
『あれ、ちょっと待って』
大助は停止してカメラをズームする。そこには空に浮かぶ小型の機械があった。
「どうした大助?」
錬は機体を停止させて、大助の状況確認に注意を向ける。
『なんか、空にちっさいヘリのラジコンがホバリングしてるのが見えるよ』
「そりゃ、UAVだ。すぐに打ち落とせ」
錬は即座に大助に指示を出した。
UAVとは無人航空機のこと。タンクや重量級の機体は機動力が無いので、視界確保の為にUAVを飛ばして、周辺を偵察する場合がある。特に市街地などの見通しの悪い場所では、上空からの偵察はかなり有効である。
『おっけー、撃墜する』
大助は敵UAVをロックオンすると、肩に装備していたミサイルを発射した。
ミサイルは一直線にUAVに向かって、そのまま打ち落とした。
『錬、打ち落としたよ』
「良し、たぶん相手はUAVの下辺りにいる。相手のだいたいの位置は分かったが、大助の位置もミサイルの軌道でバレたはずだ。大助はこのまま囮として、少しずつ接近してくれ。俺は反対に回って敵の後ろを取る」
『了解』
大助はそう言うと、再びビルの屋上を飛び跳ねて、UAVのいた場所に向かっていく。
ゆっくりと近づいていくが、敵からの反撃は特になかった。
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