おやすみなさい(壱)

「ああー、もうーっ、恥ずかしいよーっ! ううーっ!」


 ボクは部屋に入るとすぐにベッドにダイブして、ウサギの抱き枕に顔を埋め、ゴロゴロと転がりながらもだえている。


「よろしくお願いしますの挨拶が頬にキス? フツーしないでしょーっ! ないないないない! ゼッタイなーい!」


 あの時、ボクは花梨さんに唯一無二の親友になって欲しいと告白したんだ。それの返事がオッケーであることを態度で表すとしたら、普通は握手を交わすとか、せめてハグするとかだよね?


 でも――


 あの花梨さんのことだから、ボクの頬にチュッとしてきたのは本当にただの挨拶のつもりだったのかもしれない。

 親友になって欲しいというボクからの告白に、彼女なりの精一杯の返事だったのだろう。

 そうだ。きっとそうだったんだよ。


「ううーっ」


 そうだとしてもだよ? 女の子から頬にチュッとされたら大抵の男は勘違いしちゃうんじゃないかなー? かな~?


「あ゛あ゛あ゛ーっ!」


 まんまとボクは勘違いしてひとりで盛り上がってしまって!


「おでこにキスとか、なにやっちゃってんのぉぉぉー!? ううーっ!」


 夕暮れ時の海岸って、ヤバいよね?

 あれ、完全に場の雰囲気に酔っていたよね?

 

 それに、直前の怪しい人物の出現もヤバかったよね?

 命の危険を感じて、心臓がバクバクしていたよね?

 吊り橋効果というヤツだったよね?


「ううーっ! あうーっ!」


 そしてボクはウサギの抱き枕に顔を埋め、ゴロゴロと転がりながらもだえている。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る