将を射んと欲すれば(参)

「ショウタさまの弁当箱になぜか、このエビフライが入っていたのです」


 なんで花梨さんの残飯がボクの弁当箱に? 食べきれなかった分は、それぞれの弁当箱の中に入ったまま、フタを閉じたはずなのに?


「ちなみに、だし巻き玉子も入っていましたが、とても美味しく、かつ、懐かしい味がしたのですが……これはどちらから?」


「クラスの友達からだよ……きっと!」


「お友達……ですか?」


「そう。お友達だよ! くそっ! いつの間に花梨さんはボクの弁当箱に自分の残飯を入れたんだ? 彼女は忍者か何かなのか!?」


 頭に血が上ったボクは、地団駄を踏む。


「「忍者!?」」


 なぜか忍者という単語に、姉と喜多が同時に反応した。


「あ……忍者なんか現代にいる訳がないよね? それに、仮に現代に忍者がいたとしても、花梨さんは忍者に抹殺される側のだよ……うん!」


「ま、まさか……しょうちゃんが仲良くなりたいっていう相手は……鮫嶋花梨なの?」


「お嬢さま……私、急に用事を思い出した故に、今宵はこれにて失礼いたし――」


「えっ、ええ!? どうしてそうなるの? ボ、ボクが花梨さんと、な、仲良くなりたいって? はあーっ?」


 ひどい誤解をされて、あたふたと挙動不審になってしまった。

 なぜかカーッと顔が熱くなる。


「違うの!?」

「違うのですね!?」


「う、うん……」


 二人の圧に押されて、ボクの背中はソファーに押し付けられる。

 ボクを見下ろす二人の目は血走っていた。


「ふうー、喜多も相当そそっかしいわね。人のこととやかく言えないじゃない!」


 額の汗を手でぬぐいながら、姉がホッと息をつく。


「なんですか、その鬼の首を取ったような態度は……。まあ良いでしょう。ですが、まだ事件は解決しておりませんので、話を先に進めてください」


「そ、そうだったぁー! で、しょうちゃーん? その男女の仲を進めたいって相手はぁー誰?」


 ぐいっと迫られて、再び背中をドンとぶつけてしまう。


「す、鈴木先輩だよ!」


「ん? 鈴木センパイ? んん? あっ、美術部部長の鈴木佳美?」


「誰それ? ぜんぜん違うよ、それ女の子じゃん!」


「んんー?」


「分からないかなー、仲を進めたいのは、生徒会2年庶務の鈴木先輩だよ!」


「○%×$☆♭#▲!?」


 姉は悲鳴とも叫び声とも判断つかない声を上げた。


「しょ、ショウタさま……不肖わたしく家政婦の喜多は、そういう分野も得意でございますよ? ……いえ、むしろご馳走になります」


 喜多がそっと口を耳元に寄せて来て、ゴクリと何かを飲み込んだ。エビフライがまだ口の中に残っていたのかな?

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