将を射んと欲すれば(結)
あー、もーっ!
今日はみんな、なんかテンションがおかしい!
でも……
これは花梨さんが、真剣に相談してきたことだから、何としても解決してあげたいんだ!
そのためには、姉の協力が絶対不可欠なんだ。どんなに雑誌の立ち読みをして調べてみても、恋愛経験がゼロのボクには、男女の仲を進める方法なんてアドバイスのしようがないのだから。
「お姉ちゃんも喜多さんも、みんないったん落ち着こうよ!」
「はっ、そうだった……こんな時こそ、お姉ちゃんの愛の力で
「それはなりません、お嬢さま! 恋愛に正しいも間違いも無いのです! すべては心の赴くままに……」
「もうーっ! いい加減にして二人とも! ボクには二人の言っていることが全然まったくさっぱり何が何だか分からないよー!」
大きな声を上げると、ハッとした顔でボクを見て、ようやく静かになった。
――10分後。
「ふーん、そっかー。
唇に指を当てて、考え込む姉。
「はっ」
「な、何か良いアイデアが?」
「
「えっ?」
指を立てて、ものすごい名案を思い付いたかのように言った。
なんか、ものすごく楽しそう。
「えっとね……ボク、真面目に訊いているんだけど?」
「あ、ごめんね
ペロッと舌を出し、腕まくりをする。
「……私はキッチンの片付けがある故に」
「待ちなさい、あなたも一緒に考えるのよ! 私には普通の恋愛経験が無いに等しいのだから!」
姉は、立ち上がろうとする喜多の腕を、ガッと掴んだ。
「お嬢さまが普通でないことを自覚なさっていることに、不肖家政婦の喜多は驚きを隠せません……」
「
「……良いのですか? 私はオトナの女。私が口を挟むと言うことは、そのような方向性に、話が進んでしまいますが……」
「んん?」
「それはとても有り難いことだよ、喜多さん! 大人のアドバイスは、とても貴重だよ!」
ボクが頼むと、喜多は少し戸惑いの色を見せた。けれど、何かを決意したように、スッと立ち上がる。
「お二人がそこまでおっしゃるなら、良いでしょう……自称・恋愛マスターと呼ばれる私の実力をお見せしましょう――」
その顔には自信が満ちあふれていた。
一度部屋を出て行った喜多は、その数分後、どこから運んできたのか両手に抱えきれないぐらいの雑誌とスクラップブックを持って来た。
テレビの前のローテーブルにドサッと置くと、山のように積まれたスクラップブックが床に滑り落ちる。
姉はそれを拾い上げ、ページをめくりながら、目を見張る。
「え、これ全部、あなたが集めた資料なの?」
「旦那さまとの来たる日の、アレやコレやを妄想するために集めた、十七年間の軌跡なのです」
「えっ? えっ? それってボクたちが聞いていい話なのかな?」
探偵の息子としての勘が、心の警鐘を打ち鳴らしていた。
山積みになった雑誌は、ティーン向けのものや婦人誌が中心で、ボクが本屋で立ち読みしてきた最新号まで揃っている。
喜多はこれらをすべて買って、何かを研究しているということなのだろうか。
「ふっふっふっふ……さあ、今夜はじっくり男女の情事……もとい男女の恋愛事情を研究し、語り尽くしましょう!」
何やら変なスイッチが入ってしまったらしく、喜多の口元はさっきから緩みっぱなしである。こんなに楽しそうな彼女を初めて見た。
それからボクたちは、夜中までぶっ通しで資料を読みあさり、レポート用紙三十枚に及ぶ完璧なデートプランを作り上げた。
ショボショボする目をこすりながら、ボクは思ったんだ。
ここまでやる必要、あったのかな?
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