将を射んと欲すれば(壱)
駅前の本屋で長い時間立ち読みしてきたボクの足は、家に着いた時にはもうふらふらだった。
何を立ち読みしてきたかって? ――それは秘密です!
「ただいま……」
「
「お帰りなさいませ、ショウタさま」
玄関のドアを開けると、姉と喜多が三つ指をついて座っていた。
「ふ、二人ともどうしたの? なんで仰々しい出迎えを?」
「うーん、どうしてかしら? 何となく今日の
「お姉ちゃんレーダーって、何それ?」
姉はにっこり微笑むだけで、答えは返って来なかった。
「わたくしは、お嬢さまに負けてはならぬと、体が勝手に反応したのでございます」
「二人はいったい何の勝負を!?」
姉と喜多の顔を交互にみて尋ねるも、二人は互いに鋭い視線を交わしたまま、とうとう答えは返っては来なかった。
部屋にカバンを置いて、リビングダイニングに下りていくと、喜多は夕食の準備中だった。
ボクの気配を察したらしく、喜多がタオルで手を拭きながら近寄ってきた。
「喜多さんごめんなさい。今日のお弁当もとても美味しかったんだけど……昼休みに食べる時間が足りなくて、だいぶ残しちゃったんだ……」
ボクは弁当箱を喜多の前に差し出した。
結局、あの後ハムカツカレーも花梨さんの弁当も、何一つ完食できずに昼休みは終わってしまったんだ。
花梨さんは『ばあやに叱られるぅー、ショタ君助けてぇー』とすがりついてきたけれど、残り10分であの量を完食するには、テレビに出てくるフードファイター並みの胃袋が必要だよね。
それにしてもこのお弁当箱は――
サンドイッチを2切れ残しただけなのに、なぜかずっしりと重みを感じる。
沈んだボクの気持ちが重さとなって顕現されてしまったのだろうか。
喜多はそれをまるで王様から聖剣を賜る兵士のように、うやうやしく頭を下げながら両手で受け取った。
「ショウタさまも高校生。何かと忙しいご身分でいらっしゃるので、そういう日もあるでしょう。ええ、そうですね……あと2年と少しで結婚もできる年齢に……」
「け、結婚!? この話の流れで、どうしてその話題が出てくるのかな?」
なぜかボクは戸惑い、一気に顔がカーッと熱くなる。
「いえいえ、これはわたくしの独り言でございます」
「あ、そっか。ごめんなさい。独り言に割って入られると困っちゃうよね……」
ボクにも穴を掘って入りたくなった経験がある。
何度もある。
「それに……」
喜多は弁当箱を胸に抱え込み、くるっと背を向ける。
「わたくしの楽しみが一つ増えましたー!」
大切な宝物を抱えるように、足早にキッチンへと下がっていく喜多。
ボクは頭上にハテナマークを浮かべて見送った。
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