静かな教室で(結)

「まったく、我が学園もここまで落ちぶれていたとは嘆かわしいかぎりです。あなたたちのような品格のない子は入学するべきではなかったのです!」


 赤縁メガネの奥から鋭い視線が突き刺さる。ボクと花梨さんが低身長だから、なおさら見下ろされている感じがしてキツい。 

 ますます教室内は静まりかえり、重い空気感に包まれていく。


「まあ、入学してしまったものは仕方がありません。あなたたちの席も用意しています。席につく前にここで自己紹介しなさい」


「え、今ここでですか?」


「そうです。遅刻したあなた達以外の皆は終わっているの。さ、早くしないと入学式の時間になってしまいますよ!」


「は、はあ……」


 自己紹介と言われて戸惑ったけれど、ボクらが遅刻したわずか数分間で全員が終わったぐらいだから、名前と出身校を紹介する程度で良いはずだ。


 ならば、男らしくボクが先陣を切って――


「拙者、姓は魚が交わる島と書いて鮫島さめじま、名はハナにナシと書いて花梨かりんと申します。皆々様、以後お見知りおきを――」


 と思っていたら、花梨さんが先に前に出てしまった。

 しかも、またヘンな自己紹介を始めている。


「――ところで、カリンはこの星埜守学園で将来のダンナさまを見つけに来たのよ! イイ男は今すぐカリンにアタックしにきなさい! アンタたちの挑戦を待ってい――うぶぷっ」


 ダメだこの子。とんでもなくダメな子なんだ。そう思ったボクはとっさに手で花梨さんの口をふさぎ、黒板の前から引きずり下ろしていた。

 自分でもビックリするぐらいの行動力だった。


「ぷはっ――な、何すんのショタ君! カリンの自己紹介はまだこれからなんだからー!」


「もういいんだ! キミがどんな人かは皆にも充分伝わったと思うからさ!」


「ショタ君なんかにカリンの何が分かるっていうのよ、ふんっ!」


「あ、皆さん、ボクは桜ヶ丘中学校出身の夢見沢祥太です。よろしくお願いします!」


 ぺこりと頭を下げて、窓際の後ろから三番目の席にそそくさと座った。

 あー、もう最悪な気分だ。

 ボクの高校デビューは大失敗に終わってしまった。

 それもこれも、鮫嶋花梨という女の子に出会ってしまったからだ。


 ボクは机に突っ伏した。


 悪いことは重なるもので、花梨さんの席はボクの斜め前だった。 


「あんた、あとで覚えていなさいよ!」


「大丈夫。ボク、今日のことは一生忘れられないと思うよー……」  


「そこの二人、私語は慎みなさい!」


 ジロリと後ろを振り返る花梨さんの頭越しに、赤縁メガネから送られる鋭い視線が突き刺る。


 ああ、ボクもう帰りたい――



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