叶え!ボクたちの夢(前編)
「――行ってらっしゃいませ、お嬢様」
家政婦の
昨夜は高校のこととかを考えているうちに目が冴えてしまい、全然寝付けなかった。
とは言ってもいつの間にか寝ていたらしく、時計を見ると朝の六時を少し回ったところだった。
ボクはベッドから飛び起きてカーテンを開ける。
目をこすりつつ窓から外に見える道路に目を移すと、制服姿の姉の後ろ姿が見えた。
もう大分先に行ってしまっていたので、窓を開けて手を振るのは諦めよう。
うーん、今日は良い天気だなぁ……
伸びをすると、なぜか胸元からバラの花のような良い匂いがして、はっとして振り返ったけれど、もちろんそこに姉はいない。
その代わりに洋服掛けに吊されたエンジ色の制服が目に飛び込んできた。身体の小さなボクに合わせて仕立て直しされた名門
昨夜は母と姉に代わる代わるに写真を撮られたり、ボクとのツーショット写真を撮ったりして、さながら有名コスプレイヤーの撮影会みたいな雰囲気になっていた。
途中から喜多も参加して、ちょっと近所迷惑になっているんじゃないかと心配するぐらいに盛り上がったんだ。
でも、今日からボクは本物の星高生。
午後には待ちに待った星高の入学式があるのだ!
そんな大切な一日のスタートを寝坊で迎えてしまうボクはやはり凡人だ。姉の能力の一欠片でもボクに備わっていたら、こんな風にはならなかったと思うんだ。
そのせいで、いつもなら姉を送り出すはずの時間を寝過ごしてしまったわけ。
えっ、何をそんなに興奮しているのかだって?
普通は高校の入学式でそんなに興奮しないぞ、だって?
うーん。
つまりね、
高校の入学式――それはボクたち姉弟の九年越しの夢が叶う瞬間――
ということなんだ。
それをキミに理解してもらうためには、ボクたち姉弟の小学生時代に話を戻さなければならないんだ。でも、今はそんな時間は無いよね?
えっ、あるの? ……じゃあ、少しだけ話そっかな?
才色兼備で何事にも完璧なボクの姉、夢見沢
両親はそんな姉を小中高の一貫教育で国のエリートを養成する小学校へ通わせることにした。当然だよね。姉にはその資格が十分にあったのだから。
そんな怪物級の天才達が集う学校においても、姉の天才ぶりは群を抜いていた。
そうなると、当然のように二つ年下の弟にも期待が掛かるわけで。
だって、同じ両親から生まれた姉弟なんだよ? 仮に学年でトップにはなれなくても、姉と同じ学校に通うなんてことは夢ではなくて当たり前のことだよね?
少なくともボクはそう信じていた。
姉と同じ学校に通うことになるんだと。
でも、お受験の結果は不合格だった。
そのとき初めて、ボクは知ったんだ。
ボクは天才ではなかったんだと――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます