「ぼくのかぞく。」(下)
一度はベッドに入ったものの、ふと旅番組のことが気になりだした
うん。一度気になっちゃうと、とことんそのことが気になって眠れないことってあるよね。
ふふ、
ソファーにちょこんと座る水玉模様のパジャマ姿の
「うーん、真夜中に
すっかり深夜テンションモードに突入した私は、万歳するように腕を伸ばして声を上げた。
でも録画した旅番組に夢中な
テレビでは清純派を気取る
あーあ、どうして世の男達はこんな下等な番組で大喜びするのだろうか。まったく、男って可哀想な生き物ね。
「ねえ、お姉ちゃん。今のもヤラセなのかな? それとも本当に見えちゃいそうになったのかな?」
「へっ!? あっ……う~ん、どうだろうねぇー。今のは本当に見えそうになっちゃったの……かな?」
突然キラキラのお目々を向けてきた
それなのに「そっか!」と満足そうな笑みを浮かべ、再びテレビに視線を戻す
昆虫が大好きだったあの頃の
今やその興味の対象が女子アナに変わってしまった
そっか。女子アナ=昆虫。
うふふふふ。そっかー、そうなんだー。
今夜は最高・だよぉー!
お尻をずりずり動かして
彼は相変わらず画面に釘付けだ。
更に私は彼の手の上にそっと手を重ねてみる。
テレビの中の昆虫もとい女子アナに夢中の
そのキラキラ輝くお目々は本当に小学生のときのままだ。
「『ぼくはかぞくが大すきです。いつまでもいっしょにいたいです。だからぼくはしょうらい――』の続きを知りたいな……」
特に理由があったわけではないけれど、テレビの画面に視線を移しながら私は独りごちる。
テレビではアップテンポのエンディングテーマ曲に乗せて、まるで早送り再生のような速さでクレジットタイトルが流れていた。途中から出現したワイプ画面では、女子アナが撮影スタッフに何か問い詰めているようなメイキング映像が流されている。
ほんと、最後の最後まで低俗な番組構成ね。
呆れた私は視線を落とし、ふうーっと息を吐いたのだけれど――
「おお、お、お姉ちゃん!?」
「ふえっ?」
「しょ、
「あ、あのさ……今のそれって、ボクが小学生の時に書いた作文だよね! あれは確か、学校から持ち帰ってすぐに破いてゴミ箱に捨てたはず……なんだけど!?」
「あ……」
その通り。私は彼の部屋のゴミ箱からお宝を拾い出し、アイロンを当ててラミネートをかけたのだ。だからあの作文は私の秘蔵コレクションであって、決して本人に知られてはいけなかったことだというのに……私はうっかり口に出してしまったのだった。
嗚呼――夢見沢
私が自分の失態に茫然自失となっていたところ、
「……で、どこまでなの?」
「え……」
「ボクの作文、どこまで読んだのかな?」
「えっと……『だからぼくはしょうらい――』のところから先が見つからなかったのだけれど……」
私がそう答えると、少し安心したように目尻が下がった
「ねえ、ちょうど良い機会だから、その先に何て書いてあったかお姉ちゃんに教えてよ。
もうこうなったら、強引に訊きだしてしまおうと私は企んだ。だって私は
「そそ、そ、そんなことお姉ちゃんに言える訳ないよ! そんな恥ずかしいことを……あっ!」
お口を両手でふさぎ、目をぱちくりさせる
顔が沸騰するぐらいに赤くなっている。
「えっと……私に言えないぐらいの恥ずかしいことって……それはお姉ちゃんに関することだから……かな?」
「たから、それは言えないんだよー!」
…………。
結局、真実は闇の中。
でも…… 何だか……
ご馳走さまでした。
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