「ぼくのかぞく。」(中ノ下編)

 ここでクイズでぇーす。家族が寝静まった真夜中、思春期の男の子が部屋の明かりも点けずに一人でテレビの前に座っている。さて、その男の子はそこで何をしているんでしょーぉか?


「あぁ……お姉ちゃんの頭の中は軽くパニック状態だよぉ……あぁ……私のしょうちゃ~ん……」


 足に力が入らず、手すりにもたれかかるようにして、ずりずりと階段を降りていく私。テレビのクイズ番組のノリで、この混乱した頭の中を落ち着かせようとしたけれど、全然効果がなかったみたい。


「うぅ……私の可愛いしょうちゃんがぁ……ちっちゃくて可愛いしょうちゃんがぁ……」


 ――オトナへの階段を昇ろうとしている。その事実を受け入れることができずに、私は打ちひしがれているのだ。


「んんっ? でもちょっと待って! もしかしてしょうちゃんったら、お姉ちゃんの裸を見て興奮しちゃった……とか? 二人で一緒のお風呂に入って、喜多と代わりばんこで背中を洗ってあげたりしたから、しょうちゃんは目覚めてしまった……とか?」


 分かってる。これは私の都合の良すぎる未来予想図だ。現実はそんなに甘くはないことを、私は十七年間で嫌というほど学んできたのだから。


「それにしても……男の子って、そういう・・・・映像を大画面テレビで観たりするものなのかな? 確かにしょうちゃんの部屋にはテレビもパソコンもないけれど、スマートフォンはあるんだから、普通はそれで……」


 そこで私は息を飲んだ。私としょうちゃんは今日、そのテレビの前で温泉の話をし、一緒にお風呂に入ることになったのだ。だとしたら……もしかしたら……


しょうちゃんは今、真っ暗なリビングダイニングのその場所で……お姉ちゃんのことを思い出しながら……!!!」


 急に元気を取り戻した私は階段を駆け下りていく。もちろん足音を立てないように細心の注意を払いながらだけれど。

 ドアの前に着くなり、耳を当てて中の様子をうかがう私。すると『あん』とか『やだ』とか『ううっ』とか、女の子のピンク色の声が聞こえてきた。


 やっぱりしょうちゃんは……このドアの向こうで……!


 一瞬、怖じ気づいた私はこのまま引き返そうかとも考えた。

 でも…… やっぱり……

 逃げちゃダメ!

 夢見沢かえで、平成最後の大勝負よ!


 意を決した私は勢いよくドアを開けて中に入る。

 息を思いっきり吸って、ウサギの抱き枕をギュッと握り絞め――




「お姉ちゃんも混ぜてぇぇぇぇぇぇーっ!!」




 渾身の力を込めて叫んだのだ。


 私の突然の訪問に驚いた様子のしょうちゃんは、大型テレビ画面を背にして立ち上がり、まん丸お目々をこちらに向けていた。


「ど、どうしたのお姉ちゃん!? あっ、テレビの音が大きすぎて起こしちゃったかな?」


「へ……?」

 

 手で頬を掻きながら、恥ずかしそうにしているしょうちゃんの後ろには、夕方観ていた旅番組が流れていた。


「えっと……あれ……?」


 緊張感から解放された私は、腰砕けになりその場にしゃがみ込んでしまった。


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