お姉ちゃんの寝癖(前編)
窓の外の電線にとまるスズメの鳴き声で目を覚ました私は、時計を見て驚愕した。起床予定の五時半はとうに過ぎ、時計の針は八時を回っていたからだ。
どうやら私は、十七年間の人生において初めて朝寝坊というものをしてしまったらしい。
「うーん……
おでこに手を当てて、弟の名を呟く私。
春休みとはいえ、名門
とくに今日は新入生歓迎会のリハーサルという大切な予定が入っている日なのだ。
そんな大切な日に遅刻してしまいそうな私。
それなのに、私の口からは弟の名がこぼれてくるのだ。
「
これはいけない。禁断症状だ。
――
昨夜、
人というものは、一旦そのことに気付いてしまうと、ずっと気になってしまうもの。
それに加えて私は
身だしなみを整えるのもそこそこに、私は廊下に出る。
途中、
あぁ…… お姉ちゃんのこんな姿を
跳ね上がった後ろ髪を気にしながら、よろよろした足取りで階段の手すりにもたれかかりながら降りていく。
「あははは……」
「――ハッ」
天使の笑い声が聞こえ、私は息を飲み込む。
そっか……
もう八時を過ぎているものね。
春休み中とはいえ、規則正しい生活をする
私はそんなことも分からないぐらいに気が動転していたのだ。
天使の笑い声に吸い込まれるように足が独りでにリビングダイニング向かっていく。
それはもう、寝癖のことを気にする余裕もないぐらいに――
ドアを開けると、輝く天使の後ろ姿が見えた。
あぁ…… この一瞬のために、私は生まれてきたんだ。
抱きしめたい。
ううん、抱きしめよう。
もう、ギュッと抱きしめるしかないよね?
その間も、
そんなことはどうでもいい。
震える手で、背後から
「カエデちゃーん、会いたかったよぉぉぉ――――ぐはっ!」
更にその背後から中年オヤジの手が伸びてきて――
私は肘鉄をその顔面に喰らわせたのだった。
「お、お姉ちゃんいきなりどうしたの!?」
まん丸お目々で私を見上げ、床に仰向けに倒れた中年オヤジを気遣う
「ぜー、ぜー、なっ、なんでもないのよ
「えっ、今のが挨拶だったの!? 本当に?」
「うん、もちろん! ねえ、そうよねパパ!」
ジト目で見下ろす私と視線を合わせた瞬間、セクハラ中年オヤジこと、私たちのパパはゾクゾクしたように身体を震わせた。
こ、この男は……気持ち悪すぎる。
この世で最も苦手で、私の天敵であるパパは私に痛めつけられた頬を愛おしそうに撫でながら立ち上がり。
「今朝の挨拶は、サイコーだったぞ! カエデちゃん」
「うるさい、黙れ!」
思わず悪態をついてしまう私。
パパは、そんな私の反応もごちそうとばかりに白い歯をキラリと光らせた。
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