迫り来るナ・ニ・カ(中編)
「はっ、ショウタ様!?」
殺人鬼の腕をつかみ、必死に抵抗するボク。
ボクは相手の胴体を蹴り上げようとするも
その動きの流れで、ベッドの上に飛び乗ってくる殺人鬼。
殺人鬼の手には小刀が握られていた。
「――ッ!」
その瞬間、生きることを諦めた自分がいた。
でも――
ボクがここで諦めたら――
(お姉ちゃんも死んじゃう!)
ボクは小刀を握る殺人鬼の左手を両手で掴んだ。
この手は死んでも離すものか!
ボクを刺したければ刺せばいい!
死んでも、ボクは、絶対に、離さない!
「ショウタ様、手を離してください!」
「は、離すものか! 死んでもボクはこの手を離さないから!」
「ハッ……そ、それはそれで嬉しいのですが……やはり危ないですから、離してください!」
「危ないって!? それはこっちのセリフだよ、殺人鬼のくせに!」
「はっ? 私は殺人鬼なんですか!?」
ボクのお腹に馬乗りになった姿勢の殺人鬼は、素っ頓狂な声を上げた。
それは聞き覚えのある声の持ち主で……
「えっ……喜多さん?」
「はい、喜多でございます」
「喜多さんが――殺人鬼だったの?」
「どうやらショウタ様の心中で、相当にドラマチックなストーリーが展開されていたようですが、私は殺人鬼ではありません」
といって、呆れたように嘆息した。
そんな彼女は花柄模様の和服のような服を着ている。
「じゃあ……どうして小刀を……?」
「ああ、これですか」
喜多は小刀を右手に持ち替え、くるりと指先で回転させ、着物の懐に差し込んだ。
「これでショウタ様に付く悪い虫を退治したのですよ、うふふっ」
そう言って、ウサギの抱き枕に視線を落とす喜多。
見ると、ウサギの首の部分に切れ目が入っていた。
「こ、ここに悪い虫が入っていたの!?」
「ええ、ええ、それはそれは、わるーい虫が入れられていたのですよ」
「どんな?」
「……それは、秘密です」
「言えないの!?」
「ショウタ様……世の中には知らない方が良いことが、
「…………」
どんな虫なんだろう。
ボクの抱き枕に入っていた悪い虫って、どんな形の虫なんだろう。
気になってしかたがないよ。
「あの……!?」
せめてどのくらいの大きさだったのかを訊こうとしたのだけれど、喜多がボクの唇に人差し指を押し当ててきたので驚いて止まってしまう。
これは、これ以上の質問を許さないという意思表示だろう。
ボクが諦めて肩の力を抜くと、喜多は微笑んでボクの唇から指を離した。
そして、その指を真顔でペロリと舐めたのだった。
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