最後の3分間(前編)


「あーん、しょうちゃん怖いよーっ!」



 金曜日の夜、ボクと姉はソファーを背もたれにして二人仲良く映画を見ていた。

 100型大型テレビに衝撃的なシーンが映し出されるたびに、姉はボクの腕にしがみついてくる。

 高校では生徒会長を務め、学園のアイドル的な存在の姉は才色兼備で完璧な存在の姉。

 顔も可愛いし美人だし、おまけに身体付きも良い。

 下世話な言葉かもしれないけれど、いわゆるダイナマイトボディな訳で。

 

「お姉ちゃん、大丈夫だよ。これは映画なんだから」

「でもでもー、怖いものはこわいんだよぉー! ひゃあー!」


 二つの大きな胸の感触がボクの腕に伝わってくる。

 風呂上がりの姉の身体から漂うバラの花のような香りに、もうボクの精神はお花畑にトリップ寸前だ。


「ディスクを止めようか? まだ序盤でそんなに怖いなら、後半までもたないと思うからさ」

「ううん、大丈夫だよ。お姉ちゃんはしょうちゃんと一緒なら何でも耐えてみせるからっ!」

「えっ……そ、そう、うん、わかった」


 くりっとした大きな瞳を向けられて、ボクは思わず赤面してしまう。

 ああ、姉はどんなときでも全力で、頑張り屋さんなんだ。 


 姉が生徒会の友達から借りてきたというディスクは、いわゆるゾンビ映画だった。日本の映画制作会社が作った物だけれど、なぜか舞台はアメリカで登場人物もアメリカ人だけ。

 内容的には次々に人々が襲われて、ゾンビ化していくという何の変哲もないものなのだけれど、その演出が秀逸だった。


「きゃあー、しょうちゃん怖いよぉー!」

「あわわわっ」


 緩急のある場面転換と、来るぞ来るぞと思わせておいて、突然の変化球で観客の度肝をぬく演出のオンパレード。

 毎回、その演出に見事にひっかかる姉がボクにしがみついてくるわけで。


「怖い怖い怖いよぉー!」

「ちょ、まっ、お、お姉ちゃん――」


 とうとうボクに体重をかけてきた姉。

 小柄なボクの身体はこてんと床に転がってしまう。

 

「お姉ちゃん落ち着いて、お姉ちゃーん!」

しょうちゃーん!」


 半ばパニック状態に陥った姉は、パジャマ姿のボクのお腹に顔を埋めるようにこすりつけてくる。

 薄ピンク色のネグリジェに真っ白なガウンを羽織っただけの姉。豊かな胸の感触がボクの太ももに直接伝わって来て、ボクまでパニック状態になってしまいそうだ。


「あっ、もう終わったよ、お姉ちゃん! ほら、もうエンディングテーマが流れているから大丈夫だよ」

「えっ…… ほんとだ。もう終わっちゃったの……」


 なぜかとても寂しそうにつぶやいた姉。

 いざ終わってみると、なんだかボクも寂しいような感じがする。


「ふうー、怖かったねしょうちゃん!」

「う、うん、そうだね。でも最後は呆気なく終わっちゃったよね。全人類がゾンビ化して世界が平和になるなんて、ちょっと強引すぎないかな?」

「うふふ、パニック映画なんて、途中のシーンが面白ければ良いのよ」

「う、うん、そうだね。お姉ちゃん的には楽しめたのかな?」

「んふーっ! とっても!」


 姉は満足そうに笑みを浮かべながら立ち上がり、トイレに行ってしまった。

 広いリビングに一人残されたボクは、急に背中がぞわぞわしてくる。

 姉が一緒の時にはすっかり忘れていたけれど、ボクは怖い映画は苦手なんだった。

 エンディングテーマが延々と流れている中、ボクは映画の内容を思い出してブルブル震えて始めている。

 ようやく長いエンディングテーマが終わった――と思ったら!



 ――3'00"―― 

 


 突然、スクリーンの中央に三分のカウントダウンタイマーが表示されたんだ。

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