夢見沢楓の休日(後編)
朝目覚めたら、姉と家政婦の
姉は眉根を寄せて何か喜多に言っているし、喜多はすまし顔で何か言い返している。
なんで、どうして?
二人の間に何があったの?
それに……ここ、ボクの部屋だよ?
ボクはあわあわ動く口を手で押さえベッドの上で体育座りで固まってしまっている。
あれ、おかしいな……
姉と喜多はいつからこんなに仲が悪くなったんだろう?
喜多は今でこそ、この家専属の家政婦だけれど、ボクたち姉弟が幼い頃は父の会社の探偵をしていたんだ。当時はこの家が事務所だったから、ボクたち姉弟は彼女によく遊んでもらったり身の回りの世話をしてもらったりして、昔から本当に仲が良かったんだ。
それなのに……
「お姉ちゃん喜多さん、もう喧嘩は
ボクは目をぎっゅと瞑り、ぎゅっと握った拳を胸に押し当てベッドの上で背中を丸めて叫んだ。
ねっとりとした静寂がボクの身体を包み込む。
そっと目を開けると、透け透けのネグリジェの上に白いカーディガンを羽織っただけの姉のあられもない胸元が目の前に迫っていた。まん丸に開けた目で胸元を注視するボクの頭にそっと姉の細い指が触れる。
「
「………………えっ!?」
姉の胸元から漂ってくる薔薇の花のような香りがボクの鼻孔を刺激する。
弟のボクが改めて言うまでもなく名門
日本の至宝ともいえるその姉の潤んだ瞳にボクのきょとんとした顔が映り込みゆらゆらと揺られている。
さっき喜多が開けたと思ったカーテンは元に戻っていて、その隙間から差し込む柔らかな朝の日差しが姉の整えられたきれいな長髪に一筋の艶めきを与えている。
「あれっ……やっぱりボク、寝ぼけていたの……かな……?」
喜多の姿はどこにもなく、二人が喧嘩していたように見えていたあの場所は夢の霧散と共にボクの目の前から消えていた。
「んふーっ、
「えっ、もちろんボクはずっとボクのままだけどさ……」
姉はときどき変なことを口走る。
でも、何事にも完璧な姉が間違えたことを言う訳がないから、それはきっとボクの理解力が足りないだけなのだろう。
▽
危なかった――
私と
温めた特濃牛乳をミニケトルに注ぎながら、私は一人キッチンで反省会をしている。
それにしても、最近の喜多はどうかしていると思うの。彼女は私と
はっ!
さてはママの
喜多は家政婦として私の指示に従うけれど、雇い主であるママの指示はその上位命令となる訳で……ママが私と
「うきぃぃぃ――――ッ! 私はゼッタイ負けないんだからァァァ――!」
私が地団駄を踏んでいると、
「お、お姉ちゃん、何かあったの!?」
まん丸お目々で私を心配している
「んふーっ! 何でもないから顔を洗って朝ご飯にしましょ! 今朝はスペインのアンダルシア地方から取り寄せたイベリコ豚の生ハムをカリカリに焼いたパンにトマトのジュレと共に乗せてたべましょ!」
私はいつでも輝ける。
だから
お姉ちゃんの全てを
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