夢見沢楓の休日(前編)
スマートフォンが五時三十分の起床時刻を知らせた。
全室床暖房とはいえ、さすがにこの時間は肌寒いのでネグリジェの上にガウンを羽織りベッドから立ち上がる。
私、夢見沢
鏡台の前に座り、髪にブラシとヘアアイロンを当てていると、壁の向こうにある隠し部屋から物音がし始める。
この家は外観こそモダンな雰囲気の大きな家だけれど、その中は忍者屋敷のようにいくつかの隠し扉と通路、そして隠し部屋が存在する。
探偵事務所に泊り込んでいるパパとママに代わり、私たちの身の回りの世話を任せている家政婦の
三十分かけて髪を整え、階段を降りていくとエプロン姿の喜多が朝食の下準備をしているところだった。
「おはようございます
「ええ分かったわ。パンは食べやすい大きさに切っておいてね。あっ、それから
「ははっ、かしこまりました!」
家政婦の
大理石で囲まれた洗面所で顔を洗い、歯磨きをする。
鏡の前で笑顔チェック。
うん、今朝も完璧なお姉ちゃんになれている!
「んーっ、
伸びをしながら独りごちる。
私の
お姉ちゃんと一緒の学校へ行きたいって頑張っている
私は、
…………。
私は喜多に気付かれないように二階に戻る。
そっと開けるドアにはアルファベットの貝殻で『SHOCHAN』と書かれたネームプレートが掛かっている。これは修学旅行先の沖縄で私が作ってきた物。
部屋の中は白を基調とした家具で揃えられていて、一見すると女の子の部屋の雰囲気なの。もっと男の子っぽい部屋にしても良いとは思うけれど、
ほんと、サイコーよ! 私の
天蓋付きのベッドで可愛らしい寝息を立てている
ピンク色のウサギの抱き枕を大事そうに抱えている
もちろん、それも私のお下がりなの。
…………。
はっ!
もしかして、それって……お姉ちゃんだと思って抱きかかえているの!?
お姉ちゃんを抱きかかえて寝たいんだけど、それができないからお姉ちゃんの代わりにウサギの抱き枕を抱いて寝ているというわけ!?
もしかして私、衝撃的な事実を知ってしまったかも!?
頬に手を当てるとやけどをするほどに火照っている。
頭がくらくらする。
今すぐにでも抱きつきたい。
でもダメ!
あーっ、でもでも、この気持ちは抑えられないの。
「ほほ、ほ、ほっぺにチューするくらいなら……いいよね?」
あっ、でもでもっ、その瞬間に
いやーん! 私、
あっ、でも……私と
最近でいえば、探偵事務所の人たちとホームパーティーをしたとき、
ああっ、目をまん丸に開いて固まっていた
あー、ダメダメ、ダメよ楓! 今はそんな回想シーンを挟んでいる場合じゃないの! 今この瞬間に
突き出した唇をふんわり柔らかそうな
「う……ん……」
「はわ~~~~っ!」
あのまま行ってたら唇にチューしちゃうとこだったわ! 合法的に!
…………。
「いやぁぁぁぁぁ――――ッ、千載一遇の大チャンスだったのに――ッ!」
「まさに悪因悪果ですな、お嬢さま」
「
「あ、お姉ちゃん、
私の叫び声ですっかり目を覚ましてしまった
目をこすりながらも私たちに天使の笑顔を向けてくる。
「不肖家政婦の
私の耳元で喜多がつぶやいた。
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